123. 最後の夜の過ごし方
お読みくださりありがとうございます。
視察最後の夜の会話です。軽いです。
視察6日目の夜。
明日はジェラルドとオーウェンが帰る日だ。
子供達はどことなく寂しげな顔をし始めた。
無理もない。
オーウェンにとっては初めて何の遠慮も手加減もなく話したり議論したり剣を交じ合せたり出来た友と、まるで弟の様に天真爛漫に話して甘えてくれるコリンと離れなくてはならないのだ。
そしてそれはライリーとコリンにとっても同じことで、自分の兄弟以外で初めて密に過ごして、遊んだり学んだり出来た友だったのだ。
夕食時も心なしか男の子達は元気がなく、気もそぞろと言った風にメインのシチューをツンツンとしたり(オーウェン)、パンだけをひたすら口に運んだり(ライリー)、口をポカンと開けてサラダをかき混ぜたり(コリン)していた。
見かねたミラベルが
「あーっ!もう、鬱陶しいなぁ!何なの?!オーウェン様もお兄ちゃんも能天気なコリンまで!
言いたいことややりたいことが有るなら、ハッキリ言えば良いじゃない!
この世の終わりみたいな顔してんじゃないのっ!
明日にはオーウェン様は帰っちゃうのよ!
うじうじしている暇があるなら、さっさと頭切り替えて3人とも時間を上手く使いなさい!
見ててイライラするーっ!」
と3人に喝を入れる。
(おうっ!流石はミラベルお姉ちゃん、容赦無いわー!
アハハ、お兄ちゃん達戸惑ってる~。
うん、そうだよね離れがたいよね。お互い初めての友達だし。
あ、そうだ。助け船出してやろ!)
クロエはミラベルの喝の後、コレットに向かって
「ねぇ、母さん。今日はオーウェン様も森で最後の夜でしょ?
お兄ちゃん達3人、今日は一緒の部屋で寝かせてあげたら良いんじゃない?
少し位騒いでも構わないでしょ。だってあんなに仲良かったんだもの。寂しいんだよ、きっと。
だから最後の夜位、3人だけでいっぱいお話しさせてあげたいな、アタシ」
とシチューを啜りながら母に提案する。
「ぼ、僕は別にそんな……。寂しいって別に……」
とオーウェンが口ごもると
「……確かに寂しいけど、でも……」
とライリーも口ごもる。
コリンだけは
「ホント?!オーウェン様と一緒に寝ても良いの?
夜だけどお話しても良いの?!僕そうしたい!
だって未だ未だ足りないもん。未だお話したいし、オーウェン様のお話いっぱい聞きたいよ。母さん、父さん、良い?」
と身を乗り出すようにして、両親に尋ねる。
コレットは困ったように
「でも狭いわよ?2つベッドくっ付けてるけど、3人で寝るには流石に……。もう1つベッドを入れたら、扉が引っ掛かるし」
と懸念を話すとクロエが笑って
「大丈夫だよ~。毎日ならヤダけど今日の夜だけなら、狭くったってお兄ちゃん達も気にならないわよ、きっと。
でもお兄ちゃん達、コリンお兄ちゃん以外は乗り気じゃないんだね……。折角良い考えだと思ったんだけどな、アタシ」
と3人を見て首をかしげる。
するとオーウェンとライリーが慌てて
「あ、僕もそうしたいよ!」
「乗り気じゃないなんて違うよ!オーウェン様と話足りないのは確かだ。
ベッドなんか狭くても良いし!
オーウェン様、構いませんよね?!」
と同時に気持ちを吐き出す。
そしてお互いを見て目を丸くし、恥ずかしそうに笑いだした。
その様子を見ていたミラベルが
「……全く。最初からそう言えば良いのに。
ホントに男って素直じゃないんだから!」
と大人顔負けの科白を吐き、周りの大人達を苦笑いさせた。
コレットがジェラルドの意向を聞くと
「おお、良いことじゃないか!存分に話すがよいぞ!
儂はオーウェンがそこまで他の子と仲良くなれた事が嬉しい。
一晩中起きていても構わぬ、心置きなく語らうが良い」
と嬉しそうに許可した。
コレットは
「……一晩中は流石に駄目だけど、お許しも出ましたから同じ部屋でゆっくりとお話しなさいな。
じゃあ早く食べ終わらなきゃね?」
と子供達を促す。
男の子達は我先にと食事を終えると
「「「ごちそうさまでしたーっ!お休みなさーいっ!」」」
と食器を各自で洗い場に運び、皆嬉々とした顔で食堂から出ていった。
大人達は優しい目でそれを見守る。
ミラベルがその姿を見て
「……なんかちょっと羨ましいかも。アタシもあんな風にお喋りできるお友達が欲しいな……ね?クロエ」
と羨望の眼差しを戸口に向ける。
クロエはミラベルを優しい目で見ながら
「……きっとそんなに遠くない未来に、お姉ちゃんにも沢山友達が出来るよ。アタシ、そう思う。
だってアタシのお姉ちゃんは世界一素敵な女の子だもん!」
と声を掛ける。
その言葉にミラベルはクロエに目を向け、妹の優しい笑みに
「もうクロエったら……!でも、ありがとう。
そうだね、アタシにも世界一可愛い妹のクロエにも直ぐにいっぱい友達が出来るよね、きっと!」
と照れ臭そうに笑う。
ウフフとクロエが笑い返し
「じゃあアタシ達も部屋でお話しようよ、お姉ちゃん!
ここんとこ、お休み前のお喋りってあんまり出来なかったもんね?」
と提案する。
ミラベルがパアッと顔を輝かせて頷こうとしたら
「こら、貴女達いつも寝る前にお喋りばかりしていたの?
クロエが朝中々起きないのはそのせいかしらね。
朝クロエがちゃんと起きるため、お喋りし過ぎないよう母さんが一緒に寝てあげましょうか?」
とコレットが釘を刺す。
その言葉にクロエが
「ゲッ!母さん、アタシちゃんと起きますから大丈夫です!
母さん笑顔なのに目が笑ってないです、怖いです!
ごちそうさまでしたーっ!」
と慌てて食器を片付けるために動き出す。
ミラベルがそんなクロエに
「あ、待って!アタシも行くわ。ごちそうさまでしたーっ!」
と声を掛け、彼女を追う様に食器を持って洗い場に向かう。
2人は食器を洗い場に置いた後
「「じゃあアタシ達も休みます!お休みなさーい!」」
と手を繋いで食堂を出ていった。
大人達は返事を返し、静かになった食堂に
「この家の子は良い子ばかりじゃな。気持ちが暖かくなるわい。なぁジェラルドよ。
……エレオノーラ嬢も早く訪問させてやると良い。あの子達ときっと話が合う筈じゃて」
とディルクが酒を飲みながら呟く。
ジェラルドも頷き
「はい、そのつもりです。
ガルシア、コレット。お主達には迷惑ばかり掛けるが、頼めるかの?
お主等の家庭は本当に理想的じゃ。信頼出来るお主等だからこそ、安心して大事な子等を託せる。
そう遠くない内に、エレオノーラも訪問させたい。
……構わぬか?」
とガルシアとコレットに目を向ける。
2人はニッコリ笑い
「勿体無いお言葉です。いつでも大歓迎ですよ。
ミラベルとクロエもきっと大喜びするでしょうからね。
お待ちしています」
とガルシアが答えた。
ジェラルドは満足そうに頷き
「そうか。すまぬ、感謝する。又細部を詰めてから、お主等には伝えよう。
さて、儂等も場を変えるとしようか?最後の夜じゃしな」
と笑うとディルクが
「いや、貴様と話すことは無いぞ?さっさと寝室に下がれ」
と茶化す。
ジェラルドがディルクを見て
「おや、先生は儂の持ってきた取って置きの酒を味見したく無いのですか?
そうか、残念ですなぁ!
ではあの先生のために持ってきた酒はガルシアや騎士達と……」
と思わせ振りな科白を言うと
「……忘れておった。グレースの話もある。客間に行くぞジェラルド。酒を持って早く来い!
……ごちそうさまでした。
さ、行くぞジェラルド!」
とテキパキと指示をし、意気揚々と客間に向かう。
ジェラルドはクッと笑い
「相変わらず酒には弱い御仁じゃて。
ではごちそうさま。
すまぬが客間を借りるぞ、コレット」
と席を立つ。
ガルシアとコレット、側仕え、騎士達も動き出す。
各部屋から賑やかな笑い声と話し声が聞こえる中、穏やかに視察最後の夜は更けていった。
なるべく早く更新します。