121. 臆病な心
お読みくださりありがとうございます。
クロエに叱られた爺2人は、未だ不服そうにしていたが
「……ハァ、前言撤回。先生、あんまり大人気ないと、アタシの感謝の気持ちを込めたミサンガ返していただきますよ?
勿論、ジェラルド様もお渡ししませんからね?
お2人にとって、アタシの贈り物なんてどうでも良い代物だと仰るなら、引き続き醜い争いをしてくださって構いませんが?」
と幼女が半ば“脅し”の台詞を吐いたことにより、素直に反省した。
その後大量に作られたミサンガを見たジェラルドが
「こんなに?!何でこんなに作ったんじゃ?失敗したのか?」
とディルクと全く同じ感想を漏らし、ディルクが苦虫を又々噛み潰した表情をし、クロエも笑った。
「いえ、ジェラルド様が所望された6本以外は他の方にお渡しする物です。
先程も先生にお話ししたのですが、アタシ周りの皆にもうスッゴく!迷惑掛け捲ってるでしょ。トラブルメーカー、つまり厄介事製造娘と言われてもしょうがない位に。
おまけに情けない話、生まれながら持ってる最強の間の悪さが災いして、これからも絶対色々やらかすと思うんですよ……。
だからせめて今までの謝罪や常日頃の感謝とかそう言った周りの皆へのアタシの気持ちを、このミサンガに込めて贈ろうかなと。
正直こんな素朴な品を贈っても受け取って貰えるか、又喜んでいただけるか、微妙ではあるんですがね。だけど今のアタシじゃコレくらいしか出来ないし。
でもやらないよりはやる方が良いかな、とにかく気持ちが大事だ!と考えまして。
幸い先生は受け取って下さったんで、他の方も実は小さいアタシへの気遣いで受け取っては下さるんじゃないかなと胸算用してます、へへ!」
とクロエが幾分照れ臭そうにモジモジしながら話す。
2人の爺は贈り物をするクロエが、贈り物をすること自体が相手に迷惑かもと遠慮している姿に改めて戸惑う。
「お主は本当に謙虚と言うか……いや卑屈に近いな。
何故そこまで自分を低く見るのだ?可愛いお主から贈り物をされて嫌がる奴など、お主の周りにいると思うのか?その思い込みこそ周りの者への失礼だと儂は思うぞ、違うか?
もっと自分に自信を持てと普段から言っとるじゃろう。
……それとも前世のお主はそれほどに蔑まれていたのか?」
とディルクは半ば腹を立てた様に聞く。
クロエはハッと顔を上げると
「いえ、それは違います!前のアタシは蔑まれてなんか居ませんでした。
ただこう考えてしまうのは単に臆病なアタシの性格だとしか……。
相手の気持ちに何となく予防線を張ってしまうんです。不安になると言うか……。
多分相手の反応で傷付きたくないって気持ちが根底にあると思います。ホントに臆病なんです、アタシ。
雅の頃、いじめにあっていたわけでは無いですし、家族も友達も凄く優しかったです。
だからこそ、臆病なアタシを嫌わないでほしいって気持ちが強いんだと思います。勝手に自分の気持ちを押し付けて、その相手との今の心地良い関係を崩したくないって。
贈り物を作ったり渡したりするのは昔から好きなんですけど、さっきお話しした前の姉弟との会話で……あったでしょう?弟に作りすぎて要らないって言われた話。
アレ実はアタシ結構傷付いちゃってたんですよね。
それから暫くは何も作れなかった……。何気無い拒絶が凄く辛かった。弟にそんなつもりは無かったのを充分判っていてもなんです。アタシの心ってどうしようもなく我が儘で臆病で……頑なです。
こんな風に一つ一つは些細な、ホントに小さな出来事なんですけど、それを自分が傷付くことなく受け止める為に、予め自分を下げて相手の反応を予測して身構える癖が付いてしまってるんですよ。
情けないし、弱すぎますよね。
でも、これがアタシの性格なんです。
だけど確かに周りの皆に失礼でしたよね。アタシの言動で不快にさせてしまってごめんなさい……」
と俯いてしまった。
ディルクは顔をしかめて頭をガリガリ掻くと
「いや、儂こそすまぬ。責めるつもりなどなかったのだ。
只な、お主は本当に優しくて良い子なのに、どうして自分自身にそこまで厳しいのか、それが歯痒くてな……。
今のお主の話も理路整然としていて判りやすいし、そんな話が出来るお主の頭の良い所も好ましいと思う。
ほれ、嫌われる要素なんぞ1つも有りはしないではないか?なのにどうしてそういう思考になるんだかな。
全くジェラルドの様な馬鹿で図々しい奴とは大違いだの。
なのにこの馬鹿の方が自信たっぷりに生きてきておるのが、儂には理不尽で腹が立つわ!
クロエよ、儂はお主の心をもう少し鍛えようと思う。でないと見守る儂が悔しいのじゃよ。
せめて少しはこの馬鹿を見習うが良いと思うぞ?ホントに少しだけな!」
と俯いたクロエの両頬をディルクは優しく自身の手で挟み、自分の方に顔を向かせておどけた顰めっ面をして見せ、ジェラルドに向かって顎をしゃくった。
クロエは弱々しい笑みを浮かべると
「先生、やっぱりジェラルド様に酷い……。でも先生の仰る通り、アタシはこの性格を少しずつ治さなきゃいけませんね。
前にも何度か先生に指摘されてるのにな。……ハァつくづく頑固ですね、アタシって」
とフフッと自嘲の笑い声を漏らす。
ジェラルドがその場の空気を変えようと
「な、何なら儂が全ての品を頂くぞ!儂ならクロエの作ってくれた物を絶対拒絶したりはせん!喜んで貰うぞ!ウムッ!
全て身に付けて使うし、大事にするぞ!嘘ではないからな?」
と勢い込んでクロエに誓う。
ディルクは心底嫌そうな顔になり
「前言撤回。こいつだけは見習うな!見習う位なら今の謙虚なクロエのままで良い。
賢きお主が馬鹿に成り下がるのだけは耐えられん!
コラ馬鹿、クロエに馬鹿が移る!あっち行け!」
とクロエをジェラルドから隠そうとする。
ジェラルドが憤然と
「先生の意地悪な性格がクロエに移ったら、そっちの方が悲劇です!優しいこの子が意地悪な魔女になってしまうではないですか!
そうならないためにも、先生は心清らかに、皆に優しい態度を見せなければなりませんぞ?クロエ、いやシェルビー家の子供達皆の為です!
まぁ手始めに儂に優しくしてくだされば……」
と腕組みをして自分の言葉に大きく頷くのを見たディルクが黒い笑みを浮かべて
「……退いておれクロエ。こ奴、今から叩きのめしてくれよう」
と酷く低い声で唸ると、仕込み杖を未だ訳知り顔で頷いているジェラルドに向けて構えた。
クロエはギョッ!として
「わ、先生!待って待って!
怖いです、本気駄目です!
ほ、ほらジェラルド様、お話は今は置いといて早くミサンガ見てください!
でないと仕込み杖を抜かれますよ~!」
とディルクにしがみ付きながら、ジェラルドを急かした。
ジェラルドはディルクの様子を見ても気にも止めず
「カッカし過ぎで血管切れますぞ~!さて、儂のミサンガはど~れかの~?
先生のより格好良いかな?
フムフム……おおコレか!あ、やっぱり儂のミサンガの方が洒落ておる!
やっぱりクロエは解っておるのう、ウンウン!」
とあるミサンガを持ち上げてニタリと笑う。
クロエはジェラルドの持っているミサンガを見て
「あ、それテオ様とシュナイダー様のです。騎士様仕様です。
色違いで少し細目のコレが、側仕えのモニカ様とアレク様用で、こちらの4本がオーウェンお兄ちゃんとご家族の分でしょ?
で、これがグレース様でしょ、だからこちらのミサンガがジェラルド様用です。
グレース様とジェラルド様はここの編み方と色の配置がお揃いで、後ジェラルド様については一番仲の良い先生と模様を揃えてみました!
ほらね、先生のと良く似てるでしょ、仲良し仕様です!
オーウェン様もライリーお兄ちゃんとコリンお兄ちゃんと模様を揃えたんですよ。
仲良しは良いですね!」
とクロエが楽し気に各ミサンガの説明をする。
しかし今のクロエの台詞を聞いた2人は、パッと自分達のミサンガを手に取り突き合わせた。
「うわっ……!なんて事を……これでは糞爺と番のようではないか!
何て罠を仕掛けてくれたんじゃ、クロエよ……」
とディルクが肩を落とし
「え、儂のは先生とお揃い?!わ、儂はミサンガでもグレースと先生に挟まれるのか?!
こ、このミサンガがとてつもなく恐ろしく見える……。儂の抑圧人生を見ている気がする。グレースと先生、最凶最悪の組み合わせじゃ……」
と再び床に膝をつく。
クロエは2人のショックを受けた姿を見て
「そんなに照れなくても……。素直じゃないんだからなぁ~お2人は」
と漸く本来の笑みを浮かべる。
その後はクロエの説明を聞きながら、ジェラルドは依頼した皆のミサンガを確認する。
そして全てを見て、満足そうに笑う。
「充分だ、良く作ってくれた。ありがとうな、クロエ」
とクロエに礼を言った。
クロエはウフフと優しく笑ったのだった。
なるべく早く更新します。