120. 爺のじゃれ合い
お読みくださりありがとうございます。
軽い話です。爺2人の絡みです(笑)
早く進めないとな、反省。
“守るべき地”へ行っていた視察の者達が、森の家に戻ってきた。
一昨日の視察の際に比べて時間的には短かったが、オーウェンが畑仕事をしたがった為子供達の衣服の汚れが酷い。
だが余程新鮮な体験で楽しかったのだろう、オーウェンの顔は生き生きしていた。
シェルビー家の子供達もオーウェンを囲んで、お互いの畑仕事での格好や案外力が要る事に関する驚き等をオーウェンが話すと、3人の子供達も代わる代わる同意したり指摘したり笑ったりと、とても楽しそうにしている。
家に入り先ずは汗や汚れを流す為、コレットが予め準備していたお風呂に男の子達が一斉に入った。
コレットが
「もう貴方達は一緒にお風呂に入っちゃいなさい!オーウェン様もご一緒に!
子供同士ですもの、良い機会だわ。オーウェン様もジェラルド様もよろしいですね?」
と余りの汚れ様に、即全員風呂行きを命じたのだ。
オーウェンは驚いていたが、ジェラルドはワハハと笑いながら
「それが良いな!オーウェンよ、皆で楽しく湯を使わせてもらうが良い!
騎士団でも訓練の後、よく仲間と水浴びをしたものだ!
遠慮無く水を掛け合うたりしてな。終わった後、水を掛け合うた仲間とは更に気兼ね無く付き合える様になるものだぞ」
とコレットの命に従うようにオーウェンに話す。
コリンがそれを聞くと途端に破顔し嬉しそうに
「やったぁ!お風呂で遊べるーっ!オーウェン様、お兄ちゃん、早く入ろ入ろ!」
と戸惑った表情で固まっているオーウェンと、苦笑いしているライリーの手を取って引っ張って行こうとする。
ライリーはハァと溜め息を吐き
「解ったよコリン。オーウェン様、後の方達が居られますからさっさと入りましょう。
時間が勿体無いですしね。
戸惑われるでしょうが、この“家”では母が一番強いのです。逆らえません。諦めてくださいね。
さ、行きましょう!」
と風呂場にさっさと向かう。因みに強気の発言をしたライリーも耳が少々赤くなっていた。
オーウェンもさることながら、ライリーも今まで同世代の友人が居なかった。コリンとなら共に風呂に入ったことがあるが、赤の他人とは初めてである。
況してや普通よりマせているライリーである。彼だって恥ずかしいのだ。
オーウェンはそんなライリーの“強がり”を見てクッと笑いながら
「そうか。どこでも母が一番強いんだな。逆らわずに大人しくお風呂をいただくとしよう。
僕も行くよ!」
と楽しそうにコリンに引っ張られオーウェンも足を進めた。
それを見ていた側仕え達は目を見張る。
「あれはオーウェン様ですの、本当に。あんなに子供達と打ち解けて……!
こちらに来られてからのオーウェン様は本当に心から寛いでおられますわ。こんな嬉しいことはありません……」
とモニカが目を潤ませれば
「そうですな。この視察に来られる前と今では全く表情も声も違う。あの子達には一切気を張っておられず、警戒心も持たれていない様だ。心からあの子達との交流を楽しまれているのだろう。
本当に良かった……」
とアレクも目を細める。
フェリークには何度も来たことがあるオーウェンだが、やはり自身の立場を考えて行動するのが常であるので、ジェラルドの屋敷でも一定の警戒心を持っている。いつも礼儀正しく振舞い、何が有っても決して狼狽えたりせず、柔らかな、しかしシニカルな笑みを湛えた表情で過ごしている。優秀過ぎるのである。
だからこそジェラルドやグレースがとても心配していたのだ。いつか遠くない未来に、彼の張り詰めた心がどこかで切れてしまうのではないかと。
でも今のオーウェンやライリーを見ていると、もう大丈夫だと思う。
1度でも気のおけない同世代の友と密に過ごした経験は、きっと彼等の糧となる。
又心地好い関係を求めて他でも作ろうとする筈。
勿論人を吟味する必要はあるが、人間関係に置いて彼の排他的な部分は相当改善されるだろう。
世の中は敵ばかりではないと、不必要に一人で気張る事など無いとこの経験から少しでも理解してくれたなら、この視察はこれからのオーウェンにとってとても大きな意味を持つ事になる。
ジェラルドもそう考えながら、オーウェン達が入っていった風呂場を見やり微笑んだ。
コレットがああ!と急に思い出したように声を上げた。
「そうですわ、ジェラルド様。先生とクロエが小屋で、何やらジェラルド様から依頼された作業をしている筈です。
後から行かれるのでしたら、晩餐を早目にしますからと2人に伝えて下さいませんか?
あの後全く戻ってきませんの。私も今手が離せませんので……よろしいですかしら?」
とジェラルドを見て申し訳なさそうに依頼する。
ジェラルドはああ、と頷き
「わかった、任せよコレット。では今から小屋に向かうとしよう。儂の湯浴みの番は暫く回って来ないだろうからな」
と風呂場を見やりながら笑う。
風呂場の方からは甲高いコリンの興奮した笑い声と大きな水音が聞こえ、次いでライリーとオーウェンの悲鳴と笑い声が聞こえてきた。
「あの子達ったら!オーウェン様も見事に捲き込まれていますわね。
そうですね、これは頃合いを見て、お風呂場に突入を謀らなくては。
でないと他の方がいつまでたってもお風呂にありつけませんわね!」
と腰に手を当てて憤然とする。
ジェラルドは又ワハハと笑い
「お手柔らかにな。では行ってくる」
と片手を上げると、森の家から小屋に向かった。
「クロエ、先生。戻りましたぞ。首尾はどうですかな?」
とジェラルドは小屋の扉を叩く。
「ああ、戻ったのか。貴様は要らんかったのに。もう一度かの地に戻れ。そして戻るな」
と扉を開けたディルクが開口一番悪態を吐く。
ジェラルドはワハハと笑うと
「おお、どうやらその悪態のキレの良さから見て、クロエの品は出来上がったようですな。早速見たいので入れてください」
とディルクを押し退けて入ろうとする。
すかさずディルクが扉を閉めようとするも、手慣れたジェラルドが扉と小屋の間に足を差し入れて阻む。
「臭い足を退けんか!扉と小屋が腐る!」
とディルクが扉の取っ手を力一杯引っ張りながら言うと
「元上司の横暴で、可愛い元部下の足先が千切れそうです!早く諦めて中に入れてくださいよ!ホントに大人気ない!」
と足先を捩じ込み、扉に手を掛けて力任せに開けようとジェラルドが頑張る。
訳の解らない爺2人の張り合いが小屋の戸口付近で暫く続いた。
「何馬鹿な争いしてんですか!待っても全然2人とも中に来ないんで、ちょっと様子を見に来たらコレだもの!
ホントに馬鹿ですね!さっさと来てくださいよ、もう!」
と扉の向こうから呆れ返った風の幼女の声が聞こえた。
「……能天気な馬鹿を見たら腹が立っただけじゃ。コレの馬鹿面が悪い」
とばつが悪そうにディルクが言い訳をし、扉を開ける。
慌ててジェラルドが中に入り
「わ、儂は何も悪くないぞ?!先生が急に意地悪をしたんじゃよ。儂は普通に扉を叩いただけで……」
とディルクの後ろにいるクロエにオロオロと訴える。
しかしクロエは些か冷たい声色で
「どーでもいーです。お2人のじゃれ合いには慣れてるし。老BLなんて考えんのもやだ。
さっさと来てください。もうすぐ夕食だろうし、お見せしてからでないと、アタシラッピングできないじゃないですか。
時間がないんですからね?」
と言い捨ててリビングに戻っていく。
「あ……理不尽過ぎる」
とジェラルドがガックリと膝を付いた。
項垂れるジェラルドの顔の前にディルクが何かをぶら下げる。
「コレ……な~んじゃ?」
と意地悪い声でジェラルドに見せるディルク。
「え?……あ、あーっ!な、何で先生が持っとるんですか!」
とジェラルドが大声をあげる。
「クロエがくれた!いつものお礼じゃ言うてな。儂のが先に貰ったぞい!良いじゃろ~」
とニカッと爽やかに笑いながら、大事そうにミサンガを握る。
「ええ~……先越された……んな酷い、クーッ!」
とジェラルドは心底悔し気な声をあげる。
「何度も呼ばせないで下さいってば!いつまでやってるんですか、ホントにもう。
手間焼かせないで下さい!」
とリビングから顔だけ覗かせて、クロエが怒鳴る。
ディルクが楽し気にクロエに向かって
「ああ、スマンスマン!今すぐ行く。ホレ、ジェラルド!さっさとせんか!」
とジェラルドを急かす。
ジェラルドはフラフラと立ち上がりながら
「なんか辛い……こんなことなら儂も視察に行かないで、小屋に居るべきじゃった。
先越された……悲しい」
と肩を落としたまま、リビングに向かうのだった。
なるべく早く更新します。