119. 贈りたい気持ち
お読みくださりありがとうございます。
少々短めですが、キリが良いなと思いここで更新です。
昼食時、木工小屋に来ていたクロエ達に気付かなかったオーウェンやライリー達が彼女達に謝りつつ、用向きを聞いた。
しかし既に聞きたいことは“暇”しているご仁から聞いた後であったので、只様子を見に行っただけだよとクロエは笑って答えるに留めた。
オーウェンやライリー達は首をかしげていたが、やがて木工作業の話を向けられると途端に我先にと話を始めた。
その様子を大人達が嬉しそうに見守る。
楽しい昼食を終えるとクロエを除いた子供達はガルシアやジェラルド、騎士達と側仕えのモニカと共にかの地へ向かう。
ミラベルは最後までクロエと共に残ろうとしていたが、コレットがモニカ一人にかの地での皆の飲食の世話を任せては申し訳無いからと、渋る彼女を説得し何とか同行を承諾した。
「じゃあクロエ、行ってくるからね。直ぐに戻るから、良い子で待ってるんだよ?又次は一緒に花を見ようね。
母さん、クロエをお願いね?」
と後ろ髪を引かれる思いで姉は妹に声を掛け、皆と出掛けていった。
「うん!お姉ちゃんアタシ大丈夫だよ、良い子で待ってるから。
行ってらっしゃい、皆!」
とクロエは両手をブンブン大きく振って見送った。
ディルクとコレットも、彼女の後ろから視察の者達を共に送ると
「では私は晩餐の仕込みをしますから。クロエは先生とお勉強するの?」
とコレットが末娘に尋ねる。
クロエはニコッと笑うと
「ううん。先生やジェラルド様から頼まれた事があるの。
今から先生と小屋で作業するわ。母さんのお手伝い出来なくてごめんね?」
とコレットに少し困った顔をして謝る。
コレットはフフと笑うと
「構わないわよ。お2人から頼まれた事を頑張ってやりなさい。
では先生、クロエをよろしくお願いします」
とコレットがディルクに頭を下げて、家に入った。
扉が閉まるとディルクが
「さて、では行こうかクロエ」
と言うと
「ですね。皆が帰ったら直ぐに渡せると良いんだけど、実は未だちょっと凝りたいし。
デザインどおしよっかな~?」
と答えながら、腕組みをして唸りながら小屋に歩き出すクロエ。
「なぬ?お主、未だ凝るつもりか?いや、さっきのでもう充分じゃろうが?!
……むう、又聞いとらんなこ奴め」
とディルクが慌てながら後を追った。
小屋に着くと暫く鉛筆を咥えてプラプラさせながら、思案にくれていたクロエだったが、ポンと手を叩くとメモ書き用の紙にサラサラと何かを書き記す。
そして糸を選ぶと幾つかの束にして並べていった。
「さあ準備出来た!作りますか!」
と気合いを入れるといそいそと手を動かし始めた。
ディルクは少し離れた位置のソファーに座って、張り切って作り出した幼女を見守りながら
「全く誰の為なんだか。あそこまで嬉々と作っとると、寧ろクロエに楽しみを与えただけに見えるのう。
あれ程物作りが好きとは思わなんだわ」
と呆れた様に苦笑する。
やがて興が乗ってきた彼女は、昨日同様歌い出した。
今度は鼻歌ではなく、日本語でしっかり口ずさみながら。
ディルクしか居ないので、クロエも全く遠慮がない。
ディルクも驚きもせず、少々音を外しがちな彼女の歌に耳を傾けつつ、オーウェンが帰る際に渡す為の今後の彼の学習カリキュラムを作る。
原曲を知らないディルクだが、時々妙に小さくなるクロエの歌声で
(ハハ、この部分はうろ覚えか苦手なのか。儂は曲を知らぬのだから、間違えても気にせず歌えば良いのに、生来が真面目なのだろうな。
本当に可愛らしい娘だ)
とククッと笑いを堪える。
ディルクのそんな様子に気付かないのか、クロエの歌は止まらない。
益々調子に乗り始めた彼女は次第に体を揺らし始める。
ディルクはクロエが気付かないように盗み見しながら
(頼むからこれ以上踊り始めたりしないでくれよ?
……結構面白うて敵わん)
と笑いを必死で堪える。
しかしそんな風に歌を歌いながらも、クロエの両手はしっかりと仕事をこなしているらしく、既に何本かは出来ている様子だ。
「しかし早いな。確かに手が休んではいないが、余程作り慣れていたのか、手の動きに迷いが全く無いというのが凄いのう」
とディルクも感嘆する仕事の早さだ。
歌も何曲か変わり、合間に歌ったせいで喉が乾いたのか、予め用意してあった果実水を飲んだ以外は全く手を休める事無く、クロエはミサンガを作り続けた。
そうやって作り続けること、夕方まで。
「うあーっ!やっと出来たーっ!あー疲れたぁ!」
と言うクロエの声が小屋に響いた。
ディルクはいつしかソファーでうたた寝をしていた。
「うおっ?!い、イカン!……儂はいつの間にか寝とったのか。
おお、クロエ出来たのか!お疲れさん、よく頑張ったな」
と言うと、ディルクは伸びをしながらソファーから立ち上がり、クロエに近付く。
だがクロエはピョンッ!と椅子から飛び降りると
「先生ー!置いといてください!お手洗い借りますーっ!も、もう我慢出来ないーっ!」
と叫んで小屋の中のトイレに駆け込んで行った。
ディルクは立ち止まり
「用足しを我慢して作っておったのか?!馬鹿者!体を壊すぞっ!
……全く、しょうがない奴だな」
と呆れた様に鼻を鳴らし、彼女が今の今まで作業していたテーブルの上を見る。
「……?えらく多くないか?
確か6本で良かった筈だが。失敗でもしたのか……いや、それにしてはどれもこれも全て綺麗に出来ておるが……。
一体何本作ったんじゃ、クロエは」
と首を捻るディルク。
やがてホッとした表情でトイレから戻ってきたクロエに
「クロエ。お主一体何本作ったのじゃ?オーウェンやジェラルドから頼まれたのは合計で6本であろう?
にしてはえらく大量に作ってあるではないか。
失敗でもしたのか?」
とテーブルを指差してディルクが尋ねる。
クロエがエヘヘと笑いながら
「いや、あのですね。よく考えたら、アタシ今まで皆にいっぱいお世話になってきたのに何にも返せてないじゃないですか?
だから日頃お世話になっている方達にも、お礼代りに贈ろうかなと思いまして。
……と言うことで!
はい!先生にもプレゼントです!
あ、別に気にしなくて良いですからね?アタシが勝手にしたくてやったことですから!
着けなくても構いませんから~」
と照れ臭そうに言い、テーブルの上からある1本のミサンガを取り上げて両手に乗せてディルクに差し出した。
ディルクは目を丸くし
「わ、儂にもか?
そ、そうか……それは驚いたな。だが嬉しいものだな、ウム、有り難く頂こう。
大事にする、ありがとうなクロエ。
おお、これは素晴らしい出来だな!さてどこに付けるか……落とさぬようにせねばの。
折角のお主からの贈り物じゃからな」
と早口に礼を述べながら、少々頬を赤くしてミサンガの使い方を思案する。
クロエはそんな師の姿を嬉しそうに見ながら
「良かった、受け取って貰えて!要らないって言われたらどうしようかって思いました……」
と胸を撫で下ろす。
ディルクが鼻を鳴らし
「そんな失礼な事を儂がするか。気持ちの籠った贈り物は嬉しいぞ。況してやこんな綺麗な飾り紐は中々ない。
もし要らぬと言う奴が居ったら儂が伸してくれるわ!」
と憤然と言う。
クロエはクスクス笑いながら
「先生ったら。こんな素朴な物でこんなに喜んで貰えて嬉しいな。
又切れたりしたらいつでもお作りしますからね」
と嬉しそうにする。
ディルクは目を細めながら
「ああ、本当にありがとうクロエ」
と彼女の頭を優しく撫でたのだった。
なるべく早く更新します。