117. 危険な鼻歌
頑張りました!連日更新です~!久し振りに出来たわ。
思わぬピンチに主人公狼狽えます。因みに装飾品の正体は次話で判ります。
やがてディルクが幾つかの材料を手に戻ってきた。
「お主の申していた物を準備したぞ。……早速作って見せてくれるか?」
と言いながら、クロエの目の前に材料を置く。
クロエは目の前に置かれた材料を点検し
「フンフン……充分人数分は有りますね。さてと、大体覚えてるんだけど、うまく作れるかなぁ?
先ずは手慣らしでっと。色味は少ない方が確か良いんだったかな……。でもあんまり単純なのも面白くないし。
3・4色位が良いね、うん。
それとデザインだけど、男女で変えれば良いか?そうだ、綾姉ちゃんのアレ可愛かったから、アレ作ろう~!
でもあのデザインは流石に男の人には無理だから、男の人は取り外し出来るタイプのが良いか。でもあのタイプはアタシ的にはちょっと物足りないデザインなんだよね。
ううん、あちらを立てればこちらが立たぬぅ。悩むなぁ。
ええい、とにかく3種類とも作っちゃえ!選んでもらえば良いんだよ、好みが有るんだからね。
よし、じゃあ手始めに……」
とブツブツ一人言を言いながら、ガタゴトと材料を吟味し準備していく。
そして作る前の準備を終えると、目の前でジーッと見つめる2人の爺に
「じゃあ作って見せますね!
今から作るのは一番基本に近い物です。だけどちょっとだけ模様入れます。
続いて可愛い飾りの物を作ります。これは男の人にはキツいから、女の人向けです。
最後に取り外しの簡易な分を作ります。
全てを見ていただいて、誰にどれが良いか希望聞いて作りますから。その方が良いでしょ?」
と悪戯っぽく笑いながら聞いた。
ディルクが片眉を上げて
「そこまで凝るか。お主、普段は謙遜しとるが、実は物作りは得意なのだろう?
前々から思っとったが、手際が良すぎる。直ぐに案は出るわ、材料を指示するわ、選べる程の試作品を作ろうとするわ。
絵と云い、そろばんと云い……。面白い奴だのう、全く」
と鼻を鳴らす。
ジェラルドも腕を組んでウンウン頷きながら、ディルクに同意を示す。
クロエは苦笑して
「たまたま前の世界で凄く流行った物なんです。お店で販売している物も有りましたけど、簡単に手作り出来るので女の子の間では手作りが大流行したんですよ。
コレって元々は男の子の間で流行りだした物だから、最初弟が欲しがったんです。だから弟のために、姉と2人で調べながら作ってあげたんですよ。
そしたら簡単だし種類が多いしで、すっかりハマった姉がいろんな作り方をあちこちで仕入れてきちゃって!アタシも調子に乗り易いから、2人で面白いねって何度も何度も作ったんです。挙げ句、終いには弟に
「こんなに作ってどーすんだよ!俺はもう要らねーぞ!」
って突き返されちゃいました!アハハ!」
と思い出話を聞かせる。
ディルクとジェラルドは思わずクロエにすまなさそうな視線を向ける。
クロエはそれに気づき
「ああ、気にしないでください。寧ろお2人の前では、思い出話が遠慮なく出来るのがとても嬉しいんです。
……そりゃアタシの中では未だ未だ遠い過去って訳じゃないし、時々無性に郷愁に駆られるけど、でも……今の自分も前の自分に負けない位幸せだから。
だから良いんです。
悲しんでいる訳じゃ無いから、安心してくださいね。
あと今から作る物は、元は願いを叶えるための物だと聞いています。まぁ凄く欲が絡む願いから、愛を求める願い迄、コレに使われる色によって効果が変わるって言われてるんですが、アタシなんかはあんまり気にせずおしゃれ感覚で着けてました。
まぁ彼氏が欲しいって願いを込めて、色を決めて作ったことも有りましたけど、結局叶わなかったしね!
だから持つ人が違和感無く持ち歩ける印象の物を、選んで貰えれば良いと思うんですよ。
じゃあ作りますね、見ていてください」
と言うと、手元でゴソゴソと作り始めた。
やがてクロエを見守っていた2人の爺は、その物が出来上がるに連れて
「ほお!小さな手でよくこんな複雑な物が作れるのう。器用なものだ」
と感嘆の息を吐いたり
「わ、解らん。何故何も見ないでこんなに素早く作れるのだ?!手の動きが速すぎて儂の目が追い付かぬ。
え、もう1つ目が出来たのか?!速すぎるぞ、手は大丈夫か?無理をしてはイカン!手がツるぞ?!」
「喧しい!貴様じゃあるまいし、器用なクロエの手がツるかっ!ボケ始めたモウロク爺は黙っとれ!」
「ボケ?モ、モウロク~?!非道いですよ!儂は只心配で……」
「それが的外れで要らぬ世話だと言うとるんじゃ!見てみろ、2つ目も難なく作っとるだろうが、馬鹿め!」
と何故か喧嘩し始めたり、かしましいことこの上ない。
クロエはそんな2人の様子を聞きながら楽しくなり始め、次第に鼻歌まで歌い出す。
勿論曲は、雅の頃に聞き慣れたJポップス。
……少々音を外しがちだが。
するとクロエが鼻歌を歌い出したのに気付いた2人は、目を丸くして黙った。
クロエは黙った2人に気付くこと無く、鼻歌を歌いながらテンポ良く作っていく。
程無く少々技巧を凝らした2つ目が出来上がり、間髪入れず最後の物を作り始めた。
最後の物は作りがアッサリしているせいか、本当に直ぐに出来てしまった。
言葉もなく見守っていた2人老人の前で、幼女は出来た試作品を綺麗に並べていった。
「はい!出来ましたよーっ!
ね、本当に簡単で素朴な物なんです。如何ですか、これで大丈夫ですかね?」
と微笑みは浮かべているが幾分心配気な様子で、クロエは2人に顔を向けた。
しかし2人は試作品を見ないで、クロエをひたすら凝視している。
クロエは首をかしげて
「あの、出来ましたよ?どうしたんですか……やっぱりコレじゃ駄目ですかね?素朴すぎるかなぁ」
と少し気落ちした声で呟く。
しかしディルクは静かに首を横に振りながら
「いや、品は充分な出来だ。大丈夫、全く問題ない。
寧ろ良く出来ておるし、この品には儂等も驚いたよ。
その事では無い。
クロエ……お主は楽を奏でる事も出来るのか?
楽器を使えたり歌を歌う事だが……どうなんじゃ?」
と聞く。
クロエは苦笑しつつ
「ああ、鼻歌を歌っちゃいましたね。実は恥ずかしながらアタシ若干音痴らしくて、やっぱり聴いててどことなく変でしたか?
……上手く歌えてるつもりなんだけどなぁ。ピアノも習ってたし、自分では自覚ないんですよね。
アタシってば違う世界でも音痴なのかぁ。何か悲しい……」
とハァ~と溜め息を吐く。
その言葉を聞いたディルクは片手で顔を覆い、ジェラルドも目を閉じ腕組みをして黙り込んだ。
「違うんじゃよ、そうではない。
……良いかクロエよ。この先決して儂等以外の者の前で歌ってはならぬ。楽を知っていると周りに判れば大変な事になるのだ。
この世界では庶民は楽を知らない。たまに手を叩いたり、物を叩いたりして踊ることは有るが、基本的に楽は貴族の嗜みだ。それも相当高位の貴族でしか嗜まない。
家庭教師を付け、日頃から楽器や曲に親しんだ者でないと今のお主の様に美しい旋律の曲を口ずさんだり出来ぬ。
……だからこそ不味い。
この家でも流石に楽は学べないし、お主自身も良くて拍子位で歌を耳にしたりしていない筈だ。違うか?」
と真顔でディルクがクロエに問う。
クロエは目を丸くして
「ええっ?!そうなんですか!で、でも簡単な歌位なら庶民だって……。あ、でも確かに家で聞いた事無いかも?
っ!そうだ、手遊びの歌すら無かったんだった!
た、確かにアタシが初めてじゃんけんとか、あっち向いてホイをし出して……!
それまでは子守唄すらこの家では聴いていないわ……!
嘘っ!アタシ今まで歌ったりして無いかな?!
前世の記憶が有ることがまさかバレちゃうかもしれないなんて、鼻歌でまさか……っ!」
と顔色を青くして、ワタワタと狼狽えだした。
ディルクは小さく息を吐き
「大丈夫だ。ガルシア達からそんな話は聞いとらんし、子供達も全く楽についてはお主が知っているとは思っておるまい。
……楽自体をあの子達自身が知らぬのだからな。
だから本当に今気付けて良かった。
以後は気を付けるのじゃぞ?可哀想だが、聡い者に探られては敵わん。
未だ儂等以外にお主の前の世界を教えるのは早い。
……良いな?」
とクロエに言い聞かせる。
クロエは顔色を青くしたまま、コクンと頷いた。
「そう、ですね……家族達から白い目で見られたりなんて耐えられない。
アタシにも判ります。未だ無理です、家族に話すのは流石に未だ今は……。
絶対に気を付けます、波風は立てたくないもん。
……アタシは穏やかな家庭を守りたいから」
と自らに言い聞かせるように呟く。
ディルクはその様子を見て
「だがお主もたまには歌いたい時があるじゃろう?
そんな時は小屋で歌えば良い。結界を張ってやる。
儂は因みに笛なら吹ける。この馬鹿は知らぬがな。
ジェラルドよ、貴様は何か楽器は出来るのか?」
とクロエを慰め、次いで横で聞いていたジェラルドに水を向ける。
ジェラルドはグッと顎を引き
「わ、儂は無理ですが、グレースは竪琴が弾けますぞ?
……あ、そうかっ!大丈夫だ、クロエ!楽器をこの家に持ち込もう!
先生が笛を子供達に嗜みとして教えてくだされば良いのだよ。楽を子供達に学ばせるんだ!寧ろ教養が付いてあの子達の為にもなる。
先生が教えて下されば、その内曲を学んだ子供達が歌い出す。そうすれば全て解決だ!
先生、それが1番クロエを守る為には良い方法です。
この子に楽を我慢させるのは可哀想です。儂はクロエにやりたいことをやらせてやりたいのですよ。
どうか協力してください、先生!」
とパアッと顔を輝かせてディルクに頼み込む。
クロエは目を丸くし、ディルクは苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。
「……まさかこの馬鹿に起死回生の案を提示されるとはな。
誠に腹立たしいが確かに正論だ。無い知識は与えれば良い、か。環境を整えればこの子も苦しい思いをしなくて済む。
クソッ!判った!貴様に同意するのは癪だが、致し方あるまい。クロエの為じゃ、儂が子供達に楽を、笛を教えよう。それで良いのだろう!」
と顔をしかめて同意した。
クロエは2人を交互に見ながら
「あ、アタシの“鼻歌”の為にそこまで……。無理しないでください!アタシが音痴を披露しなければ、問題ないんですから!
そんな、鼻歌位我慢しますから!」
と慌てて止めようとする。
ディルクはクロエを見て
「いや、此度はジェラルドが正しい。それに子供達にも良い事だからな。
お主だって楽を知っとることは良い事だと思わんか?
子供達の教養が又一つ豊かになるのだ。
学べる機会が与えられるのは素晴らしい事であろう
そうではないか、クロエ?
きっかけは確かにお主の鼻歌だが、お陰で子供達は又世界が広がったんだ。
だからお主は気にするな、解ったな。
全ては爺2人に任せよ。
だがまぁ、今暫くは鼻歌を我慢してくれよ?体制が整うまで……な」
と苦笑を浮かべて諭す。
クロエは戸惑いの表情で2人を見つめていたが、やがて嬉しそうに笑うと
「ありがとうございます……。
アタシ、本当に幸せです。
いつもいつも助けてくださって、本当にありがとうございます……」
と掠れた声で礼を言うと、深く深く2人に頭を下げたのだった。
なるべく早く更新します!