116. 縁(よすが)を欲する者
漸く更新しました。
老教師が主人公を必死に説得します。
クロエは驚く。
「え?オーウェンお兄ちゃんの魔力ってそんなに特殊なんですか?!この世界で一人だけだなんて、凄すぎる。超激レアじゃないですか……。
んっ?じゃ、じゃあ魔力がそっくりだったっていう亡くなった妹さんのもだ。
て言うことは……え、アタシもか?」
と頭を整理しつつ、驚きを隠さず呟く。
ディルクは頷き
「まぁそういうことになるな。おい、口が開きっぱなしだぞクロエ?
別にそこまで驚かんでも、実は王族や貴族、両騎士団が他の保持者を発見出来ていないだけの事かもしれんのじゃ。
だから今までは唯一と云うだけじゃったんじゃよ。事実今はお主も居るじゃろ?既に唯一ではない。
しかし極く少ないのは確かだな。
……あれ程に待ち望んでいた妹を不遇にも亡くしたオーウェンが、年格好も見た目もまさか妹が持つ稀な魔力までそっくりなお主に不思議な縁を感じるのは無理もないであろう?
……儂はオーウェンがお主と繋がりを持ちたいと願う気持ちが痛いほど解るんじゃ。
あの子は自分を酷く律して生きてきた。自身の置かれた立場も然ることだが、唯一と云われる魔力の保持者と言うことで周りの大人達から過剰な期待を掛けられ、腹立たしいことだが魔力研究者達からは研究対象として幼き頃から狙われている。
又虚栄心の強い貴族達からも妬みや嫉みの対象となっていて気の休まるときが無かった子じゃ。
……生まれた妹が自身と同じ魔力を保持している事が判ったとき、あの子は恐らく漸く真の理解者を得たと喜んだ筈。同時に何としても妹は自分が守ると固く決意した事だろう。
……だが無情にも妹は生まれて直ぐ儚くなってしもうた。
あの子の喪失感は想像を絶する。事実暫くは当たり前なのだろうが、痛々しいほどに憔悴してしもうてアレの周りの者達も慰める事すら出来ずに居たそうだ。
……馬鹿な祖父だがジェラルドもたまには役に立つ。こ奴、憔悴しきったオーウェンを元気付けるために、前からあの子が望んでいたこの地の視察を思いつき、直ぐに計画しよった。
ここには偶然にもオーウェンや亡くなった妹しか持っていない魔力を持つお主が居る。それを聞かされたオーウェンはお主に直ぐにでも会いたがっておったそうだ。
つまり最初からこの視察はオーウェンの為のものであったんじゃよ。しかし計画を進めようとしていた矢先、お主の魔力暴走が起きて已む無く一時計画を止めざるを得なかった。……あの時は本当に肝を冷やしたわ。
オーウェンは元々妹を守るために魔力を早く自分で操作出来るよう、家庭教師等から訓練を受けておったんだが、お主の魔力暴走の話を聞いて少しでもお主の為に動きたいと自ら二次成長を起こした位、既にお主に思い入れがあるのだよ。
妹は守れなかったが、せめて不思議にも妹と非常に似ているお主をこれからも守りたいのだ。それ程に思うお主との繋がりを、縁有る品をあの子が欲するのは理解出来るであろう?」
と静かに話した。
クロエはディルクの話を聞き
「オーウェンお兄ちゃんがそこまで思ってくれていたなんて。そんな、アタシなんてホントに精神年齢高いだけで他には何にも……。
でも嬉しいですね。そこまで大事に思ってもらえて正直こそばゆいし、嬉しい。アタシもオーウェンお兄ちゃんの為に出来ることはしてあげたいです、お兄ちゃんが望む“妹”として。
でもご家族の分もって云うのは流石にお渡しするのは図々しくありませんか?オーウェンお兄ちゃんはともかく、ご家族には何だか亡くなった妹さんに似ているアタシをよろしくーっ!って押し売りするみたいで……。
アタシには亡くなった妹さんを蔑ろにしている行為に思えて……そこが一番気になります。
アタシはアタシだから、幾ら似てても本当の妹さんにはなれない。
アタシは前の世界で“死”を経験していますから、もしアタシが亡くなった妹さんならって考えると、とても複雑なんです。きっと私を忘れないでって悲しんでると思うんです、妹さん。
……それに急に見ず知らずのアタシとの繋がりの品なんて渡されても、きっともう一人の妹さん、オーウェンお兄ちゃんのお父様は迷惑だとお思いになられますよ。お優しいアナスタシア様だって流石に……」
と苦笑を浮かべ、自嘲気味に語る。
ディルクはクロエの言葉を聞き、顔をしかめて首を横に振り
「確かにクロエの言うことも解る。……お主は死を経験していたな。儂の言葉に配慮が足りなかった。すまぬ。
だがな、儂も大事な者に先立たれた経験があるから言うが、残された者は拠り処が欲しいものなんじゃよ。
例えば儂には大事な者と過ごした記憶や、大事な者から貰った品等がある。辛い時にはそれ等が心の拠り処となってくれる。そうやって少しずつではあるが、残された者は喪失の辛さを癒していくものなんじゃよ。
……だがオーウェンには、あの子の家族達には亡くなった妹との繋がりを示す物が本当に何も無いのじゃ。亡くなった妹との思い出も姿絵も縁の品も、実は墓すら無いのだよ。
訳あって言えぬが、妹の亡骸は葬送することすら出来なかったのじゃ。
……亡くなった妹は直ぐに文字通り消えてしもうたのだから。これ以上の事はすまぬが言えぬ。
だが、だからこそお主には複雑かもしれぬが、あの子の気持ちをどうか理解してやってほしい。
……実はあの子の家族もお主には会いたがって居るのだよ。
家族もそう望んでいたが故にオーウェンは家族にもと申したんじゃ、クロエよ」
と又静かに彼女に語りかける。
「墓が無い?家族もアタシに会いたい?」
とクロエが信じられないと言葉を繰り返して呟く。
「きっとお主の成長していく姿に、亡くなった子の姿を重ねたいのだろう。
決してオーウェンやアナスタシア達が亡くなった子を蔑ろにしたり、忘れたりする訳では無い。
お主を通して子に会いたいだけなのじゃよ。
中々こんなに似ている娘を見付けられるものではない。
だから寧ろ家族もお主に申し訳無く感じつつも、子に似ているお主に会ってみたいのだろう。
そんなお主からの品だぞ?
迷惑に思う訳有るまい。
それを解っているからオーウェンが望んでいるのじゃ。
クロエよ、さっき言ったお主の気持ちが嘘でなければ、どうかオーウェンの気持ちを汲んでやってもらえまいか?
……おい、ジェラルド!お前も何とか言わんか、馬鹿者がっ!」
とディルクの横に座り、ひたすら黙り込んでいるジェラルドを小突いた。
ジェラルドはハッとし、慌ててながら
「すみません!つい聞き入ってしまいました……。
ク、クロエよ、今の先生の話に嘘はないんだ。
訳は言えぬがオーウェンの末の……妹には墓は無い。
亡骸は消えてしまったのに墓標を建てても意味は無いであろう?却って辛さが増すだけだ。
……だからこそアナスタシアはあそこまで体調を崩してしまったのだよ。せめて拠り処と成るものが有れば、あれもあそこまで……。
いや、アナスタシアだけではない、オーウェンやエレオノーラ、ブライアンもだ。
最初儂は、まさか其方がこんなに儂等と話が出来る賢い赤子だとは解らなかったから、何も言わなかった。
だが其方がこのように全てを理解してくれる娘だと判った今、どうか儂からも頼みたい。
オーウェン達を哀れと思うてくれるなら、何か品を考えてくれぬか?
後、出来ることならその……そこに亡くなった孫の祖父である儂と祖母である儂の妻のグレースも頭数に入れて貰えまいか?!
……儂等とて同じ様に、亡くなった孫に似た其方と繋がりを持ちたいのだ。
特に妻のグレースは体が弱くてな……儂と共にこの森に来ることが出来ぬ身なのだよ。
実は此度の視察にグレースは何としても共に来たいと願っていた。……亡くした孫娘に似た其方に一目会いたいと言うてな。
だが儂はグレースに諦めさせたのだ。
体が心配でな。可哀想だが、無理をさせてアレにもしもの事が有れば悔やんでも悔やみきれぬからのう。
だから其方と繋がる品をグレースに渡してやれば、きっと喜ぶ。
なのでオーウェンの願いは儂の願いでもあるのだ。
どうか頼む、クロエ!」
と一気に言い切り、ガバッとクロエに頭を下げた。
クロエは自分を見つめるディルクと、頭を下げたままのジェラルドをオロオロ戸惑いながら交互に見る。
そして少し目を閉じてう~んと唸った後、パッチリ目を開けて2人を見ると
「わかりました!作ります!
何かそこまで思っていただいてるのに、断るなんて選択肢ありませんよ。
アタシが心配してたのは、気持ちの押し付けになるんじゃないかって事だけですから。
アタシだってオーウェンお兄ちゃん大好きだし、アナスタシア様大好きだし、ジェラルド様大好きだし!
それにまだお会いしたこと無いけどエレオノーラ様やブライアン様、グレース様の事もきっと大好きになると思うんです。
だから迷惑にならないのなら喜んで作りますよ!
すみません、訳も知らずに否定的な事ばかり言っちゃって。
先生とジェラルド様に気を遣わせて、ホントにすみません。
さて、では具体的な話に移りましょうか!時間が余りありませんからね?
先ず何人分要るのかしら?えっと……」
と照れ臭そうに頬を少し赤らめながら承諾し、更に具体的な話をし出すクロエ。
そんな彼女の様子に、ディルクとジェラルドが嬉しそうに頷きあった。
ディルクはクロエに向き直り、質問をする。
「礼を言うぞクロエよ!
だが儂が話していたような品を、お主思い付くか?
コレットに聞いてみても良いのではないか。
頼んでおいて何だが、条件が多いしな。
どうなんだ?」
するとその言葉を聞いたクロエは、ディルクを安心させるように微笑みを浮かべ
「豪華なアクセサリーなんて、流石にアタシ作れません。
だけどさっき先生が仰っていた条件……小さくて身に付ける物で、目立たず安価な物でしたよね?後、老若男女問わず使えそうな物。
ならば大丈夫です。実は直ぐに思い付いた物があります。
アタシの手作りでも時間はそんなに掛からないし、複数用意出来る品です。
それに同じ物でも少しずつ色味を変えたりも出来るんですよ。
……そうだなぁ、話すより作って見せた方が早いかも。
但し、ホンット!に素朴な代物なんですよ。
だから貴族であるジェラルド様達にお渡ししたら、余りの素朴さに失礼になるかも……それくらい素朴な物なんです」
と少し心配気に話す。
ディルクとジェラルドは目を丸くし
「思い付く品が有るのか?!
お主が直ぐ作れて、複数出来て色味まで変えられるのか?
な、何が必要だ?直ぐに材料を用意しよう!
是非作って見せてほしい!」
とクロエに噛み付くように聞いてきた。
クロエは苦笑しながら必要な材料をディルクに伝えると、直ぐに彼は材料を手に入れるため、森の家に向かった。
ジェラルドはクロエを感嘆の目で見つめながら
「クロエ、其方は本当に何でも出来るんじゃな……。
儂は驚かされてばかりだよ。
実に賢く優秀だ。いや凄い娘だよ、其方は!」
と掠れ声で話す。
クロエは慌てながら
「やだ、誉めすぎです!恥ずかしいですよ……。
それにアタシの作る品を見たら、ガッカリされる可能性の方が高いです。
だから余り期待しないでくださると助かるんですが……」
と困り顔でジェラルドに頼む。
「ガッカリなどする筈がない!其方がわざわざ作ってくれると云うのに、そんな失礼な事を考える訳がない!
い、いやしかし余りせっついてもイカンな。
う、うむ判った!冷静に大人しく見守る事にしような。
それで良いかな?」
と焦りながらジェラルドがクロエに答える。
クロエは焦りつつ答えるジェラルドを見て、堪らずクスクスと笑う。
「ありがとうございます。少し肩の力が抜けました。
でも作った品を見てご不満なら遠慮なく仰って下さいね?」
とクロエは嬉しそうにお礼を言ったのだった。
なるべく早く更新します!