115. 有り得ない執着
お読みくださりありがとうございます。
中途半端な切り方ですみません、
やがて老教師は沈黙を止め目を開けると、目の前で自身を見つめ続けている少年に語り掛けた。
「結論から言えば、別にその位は構わないと思うぞ?
儂とて其方やエレオノーラ、其方の両親が非常に辛い思いをしているのを知っておるしな。
又その状況が今後も続くのが判っておるのだ。……これ以後も耐え忍ぶ為に、心の拠りどころとなり得る物が欲しいという願いを持っても誰も咎めたり出来ぬよ。
だがやはりあの子を守るためには、例えその様な細やかな願いであっても一定の条件を付けなければなるまい。当たり前だが目立つ物、あの子との縁を繋ぐ物と容易に悟られる物は駄目だ。そしてそこまで細心の注意を払った物であったとしても、それがあの子へ災いを招く恐れが高まれば、直ぐに跡形もなく消滅させる事が可能な物にしなければならない。
さて、それらの条件を全て満たした上でどの様な物がそれに相応しいのか。又その物にクロエをどう関与させるか、じゃな。……中々に難儀だのう。
フム、オーウェンよ其方は何か考えている物でもあるのか?」
と、目の前の少年に老教師が尋ねた。
オーウェンは眉を寄せて思案していたが
「……何か身に付けられる小さな物なら、良いかと。でも一体どんな物が良いのかは全く……。
すみません、感情が先走ってしまって具体的な事は何も考えていなかったのです」
と俯いて体を小さくした。
ディルクは優しく笑んで
「構わんよ、その様に気に病む必要はない。だが其方が居る間にその何かが用意出来るかどうかだのう……。
ああ夜も更けてきた。オーウェンよ、この件に関しては儂に任せてくれぬか?
クロエと其方等を繋ぐ意味を持つ目立たぬ装身具で又高価でなく、しかも準備に時間が掛からぬ物、な。……幸いにも儂には考えが有る。安心せよ」
と請け負った。
オーウェンは驚いて
「えっ!もう先生には何かお考えが有るのですか?!
ご相談したばかりですよ?
……あの、今お教え頂けないのですか?」
と食い下がる。
ディルクはニヤリと笑って
「今は未だ考えが固まりきっておらぬ故、駄目じゃ。
この件については当たり前だがクロエにも関与させねばならぬしの。
まぁ任せよ、悪いようにはせぬから」
と軽く頷いて見せる。
オーウェンは嬉しそうな表情を見せ、大きく頷くと
「分かりました!仰る通りに致します。ありがとうございます。
ですが、僕の我が儘で先生にご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ありません。
どうかよろしくお願いします」
と詫びた。
ディルクは手を軽く振ると
「あぁもう気にするでない。其方は未だ子供なんじゃぞ?我が儘で当たり前であろう。
余りに目に余る我が儘ならば儂も聞く耳を持たぬが、この我が儘はそうではない。
……寧ろ我が儘ですら無いわ。
だから気にするな、分かったか?」
とオーウェンを諭す。
オーウェンは唇を噛み締めて再び頷くと、立ち上がった。
「……はい。では僕はそろそろ戻ります。祖父も心配していることでしょうし。
急にも関わらず、僕の話を聞いてくださってありがとうございました」
と再びディルクに礼を述べる。
ディルクも立ち上がると
「構わぬよ。どうやら儂の“役割”らしいからな、こういう事は。
さぁ遅くなってしもうたな。あちらまで送ろう。……其方を独りで戻らせたら、コレットに叱り飛ばされてしまう。コレットは儂を家族の様に分け隔てなく接してくれるのじゃが、又その分容赦も無いのでな。……子供の其方を放って置いた等と思われたら、儂の明日は絶食になるやも知れん。くわばらくわばらじゃ」
とオーウェンに軽口を叩く。
オーウェンはクスッと笑いながら、ふとディルクが最後に言った“くわばらくわばら”の言葉に反応を見せ
「……?先生、今の言葉はどう言った意味が有るのですか?」
と首をかしげて尋ねてきた。
ディルクはしまった!と云う表情を見せると
「……いや、取り立てて何の意味もない言葉なんじゃ。実際使うとるこの儂にも由来や意味はわからん。儂の近くに居た“誰か”が良く使うておった言葉だと思うのじゃが、さて誰であったかのう……。
まぁつまりは“昔から”の口癖なんじゃよ。軽口を叩いたりするとついつい出てしまう。
余り気にしてくれるなよ?年寄りはたまに訳のわからん事を言ったりするもんなんじゃからな、オーウェン。
さ、行くとするか?」
と適当に誤魔化して、オーウェンを急き立てる。
オーウェンも頷き、それ以上“くわばらくわばら”について追求はしなかった。
オーウェンを森の家に送り届けた後、ディルクは小屋に戻りながら
「さて、ああは言ったものの装身具か……フム、無理だな。儂では全く思い付かんわい。
やはりこれは、あの何が飛び出して来るか分からん面白娘の出番じゃろう、ウム。
となれば、明日アレと話をしなくてはならん。
まぁジェラルドとガルシアに他の子供達の指導をやらせるとするか。
あの馬鹿も視察をほぼ終えとる筈じゃしな!……あ奴の家族の為に儂も動いとるんじゃから、その大本たる奴をせめて馬車馬の様にこき使わんと割りに合わんわい。
ガルシアも同じ様なモノじゃ。年寄りが動いとるのに若い者を暇させてはならん。
視察終了まで奴等に休息は要らんわい!」
と腕組みをしながら一人自分の言葉にウンウンと頷いていた。
次の日の朝。
朝食後、クロエ以外の子供達はガルシアやジェラルドに付いて行動することになった。
具体的には木工をしたり、午後から畑に行く等である。
クロエは視察早々かの地で体調を崩したからと云う理由で、今日の子供達の予定から外す事になったと大人達が子供達に説明する。
ミラベルとコリンから、クロエを外す事に少々異議が持ち上がったが、当のクロエが“かの地”に行くのが未だ少し怖いと言った為直ぐに納得した。
朝の内はミラベルは母達の手伝い(プラス井戸端会議)をし、後の子供達は木工作業に取り組むためガルシアと共に木工の作業小屋に入る。
でジェラルドはというと、結論から言えばディルクの思惑通りにはいかなかった。
「先生、私もクロエと話があるのです。私も一緒に話をしたい。よろしいですよね?視察終了まで時間も無いことですし」
と、ディルクに自分もその話し合いに同席させろと提案したのだ。
ディルクは最初剣もホロロに却下した。
しかしジェラルドも堪えない。結局根負けしたのはディルクだった。
嫌々了承し、朝からクロエに2人の爺と話をしてくれぬかと頼んだ。
勿論彼女が嫌がる理由は無いので、朝から小屋にクロエを引き連れて爺2人と籠ることになったのだった。
「先生、ジェラルド様?アタシとお話ってどんなことでしょう?
まさか又アタシ何かやらかしてしまいました?その叱責ですかね?」
と爺2人におずおずと尋ねる幼女。
ジェラルドは首をブンブン横に大きく振って彼女の懸念に対して、否定を露にしながら
「違うぞっ!其方を叱責などする訳が無い!その様に怯えずとも大丈夫だ、安心せよクロエ」
と気遣う。
ディルクがチラッとジェラルドを見て
「馬鹿が。儂等相手にクロエが怯えたりする筈無い。分かっとらんの。
これは賢く強い娘じゃからな。儂等なんぞ手玉に取ってあしらうなんぞ、お手のものよ。のう?クロエ」
とジェラルドを馬鹿にしつつ、幼女をからかう。
クロエはチラリとディルクを見ると
「何か企んでますね、先生?
何気、今の台詞にアタシへのイヤミな誉め言葉が多いし?
冗談は要りませんから、早く企みをぶっちゃけてくださいな。気になるじゃないですか」
と幼女の口から辛辣な台詞が吐かれた。
そんな辛口幼女にディルクが堪えるわけもなく
「フム、話が早い。流石クロエ。では早速相談じゃ。
其方、何か手作りの装身具を作れぬか?出来れば2、3日で同じものを幾つか。どうじゃな、無理か?」
と訳のわからない話をしだした。
「ハイッ?!装身具、ってアクセサリーの事ですか?!
これは予想もつかない相談だったわ……。て言うか複数?又何で?」
とディルクを驚いた顔で見つめながら、突っ込みを入れ尋ねる。
ディルクがウムと頷き
「どう云う効果を生むか解らぬが、出来れば“其方”が考えて作り、身につけられる物で比較的簡単に作れ、老若男女誰が身に付けても余り拒否感を持たなくてすむもの。
無駄に目立たない物が良いが、後高価でないものが欲しい。どうじゃな?」
とクロエの前に身を乗り出すようにして聞く。
「ちょ、ちょっと待ってください!物凄く具体的に条件が山程つけられてましたけど?
て言うより、突然すぎて直ぐに返答出来ないですよ。取り敢えず訳を聞かせてくださいな?」
とディルクの前に両手を突き出して、彼を押し留める様な身振りをしながら訳を聞こうとするクロエ。
ディルクは体を引き
「ま、確かにそうじゃ。訳か?
単的に言えば癒しのため……か。
実はオーウェンから相談を受けてな。其方との繋がりが欲しいらしい」
と言葉少なではあるが訳を話し出すディルク。
クロエが驚いて聞き返す。
「オーウェンお兄ちゃんがそんな事を?で、でも何で?
確かにお亡くなりになった妹さんの代わりと思って下さいとアタシも言いましたが。
でも、所詮アタシは仮初めの“妹”ですよ?あんなに利発なオーウェンお兄ちゃんがそこまでどうしてアタシなんかと……。
あ、後複数って仰いましたよね?どういうことです?まさか……」
と幼女が眉を潜める。
「オーウェンが家族の分も欲しいと言うとるから、複数なんじゃよ」
とディルクがアッサリと複数の“意味”を話した。
クロエが頭を抱えて
「え、え?い、意味が皆目解らない……。実際は赤の他人であるアタシとどうしてそこまで?
確かに妹さんと似ていたのかも知れないけど、だけど赤の他人のアタシとの繋がりを家族の分もなんて有り得なくない?!オーウェンお兄ちゃん、一体どうしちゃったの?
な、何かアタシが理解出来る理由がある筈です!
それを言ってください、先生。何故アタシとの繋がりが欲しいとお兄ちゃんが言ったのか、その訳を!」
とディルクに更なる詳しい説明を求める。
ディルクは腕組みをしながら
「……其方を治癒魔導で助けた際に、オーウェンは其方と魔力を交えたであろう?
その時に感じたそうだ、亡くなった妹が持っていた魔力を」
と爆弾発言をした。
「えっ嘘っ!何で?!アタシの中に亡くなった妹さんが居ると仰るんですか?!
そんな馬鹿な!だってアタシ、アタシの中に他の人を感じたことなんか無いですよ?
オーウェンお兄ちゃんが勘違いしていませんか?」
と焦るクロエ。
ディルクは苦笑しながら
「そうではない。其方の魔力は、亡くなった妹と寸分変わらぬ魔力の香りがするらしい。そう、申しておった」
と訂正する。
クロエは訝しげに
「同じ魔力の香り、ですか?」
と聞く。
ディルクが頷くと
「オーウェンの持つ魔力をあの時其方も感じたと思うが、あの子の魔力は其方にとっても違和感が無かったであろう?違うか?」
とクロエに質問する。
クロエは頷いた。
ディルクはそんなクロエを見つめつつ
「実は血の繋がりが有っても、魔力は違う系統と云うのはほぼ当たり前の事なんだ。シェルビー家も珍しくガルシアとコリンは魔力がそっくりじゃが、後の子供達は全く違う。
……其方も含め家族全員魔力の系統はバラバラなんじゃよ。それは何となく解るか?」
と質問を重ねる。
又クロエは頷く。
(何となく解る。明らかに母さんとアタシは別の“魔力”を持っている。……魔力暴走の時に違和感感じたしね。ただ優しい魔力だとも思ったけどね)
と心の中で呟いた。
ディルクは淡々と
「そして、オーウェンと亡くなった妹は、ガルシアとコリンの様に魔力がそっくりじゃったんじゃよ」
と打ち明ける。
クロエはホーと言いながら頷いた。
「そうなんですか……。
ホントに亡くなった妹さんはアタシとの共通点が多いな」
と溢す。
「オーウェンも驚いておったわ。あんなに違和感の無い魔力は初めてだったと。
治癒魔導の下許を取るためにあの子は何人もの魔力を体感している。
だから勘違いなど決してしない。
加えて、オーウェンの魔力は今のところ彼以外に見つかって居らぬ種類の魔力と云われているのだ。
だから驚いたんじゃよ、オーウェンは」
とディルクは説明をした。
なるべく早く更新頑張ります。