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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
103/292

107. 野原で昼食を

お読みくださりありがとうございます。

更新再開します。

今話は絵を見た周りの反応とお昼の情景です。

 周りに居る者達の“空気”が何となくおかしい事に気付いたクロエ。


「……皆どしたの?なんか変だよ~?」

 と呑気な声をあげる。


 しかし内心は自身の描いた絵で周りが戸惑っている事は百も承知していた。だが敢えて呑気な体を装う。


(そりゃ1才児がこんな絵描いたら、誰だってビビるわよね。アタシだって皆の立場ならヘタしたら叫んでるわ。

 ……見せなくて済むならそれに越したことは無かったんだろうけど、アタシは描きたいし、絵自身も役に立てて貰いたい。ならば端から普通に描いて見せた方が得策。その上で対処する!

 どうせ変な子だってのは既に折り紙付きなんだ。さっきの“神憑り父さん”の言葉からしても、アタシの絵が森を出ていくことは無い。ならば知る人は限定される。ここに居る人達はアタシの家族と味方ばかりだし、何とかなる。先生もそう言ってたし。

 ……後は余り動揺を長引かせないように、アタシが上手く言葉や態度で、皆の困惑を落ち着かせるかだよね!さて、と……)


 胸の中で算段しながら、周りに対して小首を傾げる。


「……こんな絵、大人でも描けないよ?クロエは未だ絵なんて見たことも無いんじゃないのか?なのにどうして……」


 オーウェンが何とか言葉を絞り出すように尋ねる。


 クロエは困ったように笑いながら

「ん~、何でかな~?遊びと一緒なの。頭に浮かぶの。

 こんな風に筆を動かしたら、自分の描きたい花が描けるかもって。

 描きたい物自体が“絵”って言葉は後から知った。

 でも描きたい気持ちは……歩けなくて、喋れない時からずっとあったんだよ。

 でも今は喋れるし歩けるから、先生に頼んでみたの。絵を描きたいって。そうしたら道具をくれて。

 初めて描いた時は先生もビックリしてたよ~!アタシは考えていた以上に上手く手を動かせて描けて、嬉しかった。

 でもアタシの絵ってそんなに変わってる?皆だって絵くらい描けるでしょ?

 え、だって皆描けるって普通に思ってたんだけど……。違うの?」

 と反対に皆に尋ねる。


「描けないよっ!少なくともアタシ無理!字は何とか書けても、絵はこんなに細かく描こうなんて考えた事も無い!」

 とミラベルが首をブンブン横に振って異を唱える。


「僕なんか字だって未だ上手く書けないよ!絵なんて無理だ!」

 とコリンがミラベルより更に激しく首を横に振る。


 ライリーとオーウェンは顔を見合わせて

「……ライリー、君描けるか?クロエの絵を見たら、僕の絵なんてとても人に見せられる代物じゃないよ……。君は?」

 と自嘲しながら聞くと、ライリーも

「……僕の顔を見たら分かりますよね?多分オーウェン様と大差無いです。

 字や文章、計算はある程度自信が有るのですが、絵なんて……。せいぜい木工のための簡単な設計図位ですよ、僕が描けるのは」

 と肩を竦める。


 テオは未だ呆然としつつも

「……美しい絵なんて絵師しか描けないと思っていました。初めて絵が描かれていく過程を見ました……。

 それも1才になられたばかりのクロエ殿が……。これは現実ですか?

 わ、私なんて……図面も引けません。簡単な地図すら満足に描けず、ヘタクソと言われている有り様ですのに……!

 まこと、クロエ殿の手は奇跡の手ですね。自分の目で見たのに未だ信じられない……」

 と気持ちを素直にペラペラ喋る。


 だが誰も騎士の饒舌な告白を笑うゆとりなど無く、その通りだと頷く。


 クロエはそんな周りの言葉にボソッと呟く。


「そっかぁ。やっぱアタシって変なんだ……」


 周りがえっ、と焦る。


「変なんて言ってないよ!すごく上手くてビックリしただけだよ!」


「そうよ!変なんて事無い、寧ろ誇る事よ!」


「ぼ、僕クロエに絵を習いたいよ!すごく羨ましいもん!ホントだよ、変じゃない!」


「私は本当にクロエ殿が羨ましいです……。この絵の半分でも描けたなら私も仲間にヘタクソとは……クッ」


 大人1名を除き、皆がクロエを宥めようとする。


「……だってアタシだけなんて……変。皆も吃驚してるし。

 ホントにアタシ描いても良いのかな……?皆気味悪くないの?」

 と小さな声でこれ見よがしに呟く。


 又々皆が慌てる。


「気味悪いなんて、誰も思ってないから!だから安心して?ね?」


「そうだよ、クロエは絵を描きたいんだろ?もっと見たいよ。描いて描いて?」


「そうですとも!私もクロエ殿を見て勉強します!一体私には何が足りないんだ……?」


 代わる代わる皆がクロエを宥める。


 クロエはそんな周りに戸惑った目を向けながら、内心で

(ごめんね、皆!あんまり突っ込まれたら困るから、ちょっと演技しちゃった。……大分大根だけど。

 これで少なくとも表立っては面と向かって色々聞かれたりしなくなるかな。……別に悪いことしてる訳でも無いのにね。

 はぁ、絵を描くのも何をするにもこの苦労だ。やりたいことやるのは中々大変だわ、ホント……)

 と呟き、皆に分からないようにこっそりとため息を吐く。


 そんなクロエを苦笑しながら見つめていたライリーは

(“鉛筆”を作り出したクロエなら、こんな能力を持ってても不思議じゃない。

 だけど皆から騒がれるのが嫌なんだろうな。色々聞かれても答えようが無いからね。

 ……苦労するな、クロエの中の“誰か”も)

 と密かに同情を寄せるのだった。




 そうこうしている内に昼食の準備が出来たとお呼びが掛り、子供達とテオも戻った


 クロエの絵はテオが大事そうに画板ごと抱え、昼食の用意がされた荷車近くに行く。


 昼食のデザートには先程のみかんや林檎、桃等のフルーツが綺麗にカットされ、美しく盛り付けられていた。


 今回はチーズフォンデュだ。野原の中で火を使うのは厳禁なので、火の魔晶石を使った魔術法具でチーズを溶かし、適温で保温しながら取れ立ての野菜や持参したパンやミートボール様の肉をつけて食べる。


(おお、フォンデュも出来るんだ!景色と言い、料理と言い、スイスに居る気分?!まぁスイスに行ったこと無いけど。異世界とは思えないね~!

 でもってフルーツは日本っぽいと。なぁんかちぐはぐ~。アタシ個人の感覚だけど。

 何にせよ、美味しいものなら大歓迎よ!)


 いそいそと腰を下ろし、そわそわしながら給仕して貰うのを待つ。


 野菜をちんまり盛り付けた小さな器を受け取り、フォークで野菜をぶっ刺すとウキウキしながら蕩けたチーズの鍋にそれを浸けようと手を伸ばす。


 そんな彼女の手をグッと掴む者が居た。


 ミラベルである。


「ダァメ!火傷しちゃう。アタシが野菜をチーズに浸けたげるから。それを食べなさいね。分かったわね?」


 ミラベルの言葉を聞いたクロエの顔からウキウキが消え、変わって死刑宣告を言い渡された直後の様に悲愴な表情になった。


「うそ……自分で浸けちゃダメなの?アタシから楽しみを奪うの?

 トロトロのチーズが糸を引く感触を味わいたいのに……」


 フォークを握り締め、そのフォークに刺さった野菜が動揺した彼女の抑えられない震えを受けて、プルプルと揺れる。


 ミラベルの注意を受けたクロエの余りの哀れさに、周りがドン引きし

「……何か哀れだから、やりたいようにやらせてあげれば?」

 と思わずミラベルに取り成す言葉を掛けてしまうコレット。


 ミラベルもクロエの何とも言えない情けない表情を見て

「……食べ物が掛かるとここまで変わるか。とんでもなく賢い子なのに、何でこんなに食い意地が張ってるんだろ……。

 もうっ!良いわ、解った!

 慌てて火傷しちゃダメよ?!気を付けるのよ、良いわね?」

 としぶしぶ手を離した。


 パァァ~とお許しが出た途端に溢れんばかりの笑顔になったクロエは、大きく首を縦にブンブン振り

「うんっ!ありがとーっ!気を付ける!お姉ちゃん大好きーっ!」

 とミラベルに叫んだ後、勢い良くフォークをフォンデュ鍋に突っ込んだ。


 トロ~とチーズがフォークの先に刺さった野菜、正確には蒸かした芋モドキに絡み付く。


 ホワァァーッ!と表現しがたい歓声を上げるクロエ。


 そんなクロエを周囲の者達は唖然として見守る。


「ク、クロエ?気を付けるんだよ?熱いからね?」

 と心配で思わず声を掛けるオーウェン。


「んっ!ダイジョーブ!」

 とオーウェンの方を見もせずに返答するクロエ。


 ……最早目の前の芋モドキしか彼女の視界には存在しなかった。


 糸を引くチーズ、それが絡み付く芋モドキ、ほこほことそれらから立ち上る湯気と芳香が彼女の五感を刺激して止まない。


「いっただっきまーすっ!」

 と大きな声で食事の前の挨拶をし、フォークの芋モドキをバクッ!


「っ!あっづーっ!!アチャイアチャイッ!」

 と口を押さえて悶絶するクロエ。


「……言わんこっちゃない。全く」

 とおでこを押さえ首を横に小さく振り嘆くディルク。


「ああっ!もう、だから言ったのに~!絶対にやると思った~!大丈夫?!お口見せて?」

 とミラベルが慌てて甲斐甲斐しく妹を気遣う。


 しかし涙目になりながらも口から芋モドキを吐き出さず、悶絶しながらモゴモゴ咀嚼するクロエ。


「……妹だけど尊敬するよ、クロエ。やっぱり僕は食い意地でもお前に負けてる」

 と溢すコリン。


「……そこは負けてて良いぞ、コリン。食い意地は競うものじゃない」

 とライリーがため息を吐きながらコリンを諭す。


 オーウェンは唖然としたまんま、悶絶するクロエを見ている。


「ウムッ!元気があって良いぞ、クロエ!……じゃが、次はちゃんと冷ますんじゃぞ?

 さぁ、儂等も頂こうではないか。コレット、良いかな?」

 と場を落ち着かせるためにジェラルドが明るく皆に声を掛ける。


 コレットも慌てて

「は、はい!では皆様、よろしいかしら?

 ……いただきます!」

 と思わず食前の挨拶を皆に促した。

「いただきます!」

 と一斉に声が上がり、幾つか用意されたフォンデュ鍋に各々思い思いの食材を刺してチーズを絡め始める。


 ミラベルに介抱されたクロエは唇を赤くしながらも、ミラベルの監視の元、又もや果敢にフォンデュ鍋に齧り付き食事を再開する。





 ……こうして和やかに昼食の時間が過ぎていった。


次話は明後日投稿です。毎日投稿は家族の退院後から始めたく思います。

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