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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
10/292

1-10 自然その2

お読みくださりありがとうございます。


少し更新遅れました。


寝落ちしてました(笑)


少しファンタジーが入ります。

(凄いよ、こんなに変わった花があるの?何で透明?何で膨らむのよ?で、破裂するって冗談かって。赤くなるのは何で?わからん、全くわからん。)


クロエはミラベルが破裂させた花の残骸をジーと見つめる。


ミラベルはクロエの反応が楽しいらしく、又別の花を持つ。


次にミラベルが持った花は、薄い金色の小さなラナンキュラスのような花。


花弁が幾重にも連なるのだが、花弁が1枚なのだ。


まるで1枚の長い布を巻いたような花。


ミラベルがその花の花弁の端を持って引っ張ると1枚の花弁がクルクルとほどけた。


残ったのは1枚の薄い金色の長い花弁と、小さな雄しべ雌しべに囲まれた白い(かたまり)


するとミラベルは花弁の端を持って折り曲げた。


今まで柔らかかった花弁が折り曲げた部分からパキンッと折れた。


まるで薄いクラッカーのようだ。


その欠片を今度は花弁を取られて裸になった茎の白い塊に付ける。


白い塊は欠片にクリームのように載っかった。


カナッペのようなその欠片をミラベルはパクンッと食べる。


ミラベルはンー!と唸ると美味しそうに笑った。


彼女の美味しそうに食べる様子に、またもや(よだれ)がダラダラと出てきたクロエ。


ミラベルはチラッとクロエを見ると、ウフフと笑って茎の上の白い塊を指で(すく)う。


その指をクロエの口許に持っていく。


クロエはドキドキしながら差し出された指をパクンッと食べる。


ミラベルの指をチューチュー吸う。


すると指の先に付いていたクリームの味が分かって愕然とした。


(これっ。これ生クリームッ!完全にあの純生クリーム!なんて濃い…。花の蜜も混ざってるのかな、甘いし!凄いよ、高級生クリームの花が咲いてるよ~!感動~!)


花弁のクラッカーも味わってみたい。


そう考えたクロエは手を伸ばして、ミラベルの持つ固くなってしまった花弁を取ろうとする。


「ダメよクロエ。これは□□□□□□、□□□□□□」


どうやら花弁のクラッカーは、赤ちゃんのクロエにはまだ食べさせられないものらしい。


ショボンとする妹に、姉は別の花を見せる。


次は紫の花だ。


見た目は前の世界の百合の花を小さくして花自体を直立させたようだ。


少し茎が太い。


ミラベルは雄しべと雌しべをむしり取ると、又口に茎の部分を咥えて息を吹き込む。


プー!プー!プー!


間違いなく小さなトランペットだ。


紫の可憐なトランペット。


次から次に出てくるファンタジーな花々にすっかり心を奪われ、夢中になるクロエ。


(なんて芸達者な花達なの!お伽話の世界だよ。

うわぁ、飽きない、楽しい、美味しい!)


女性ばかりで楽しそうに笑っていると、兄のライリーとコリンがやって来るのが見えた。


どうやらコリンが畑に飽きて愚図ってきたようだ。


母とミラベルは苦笑してコリンを迎える。


ライリーはコリンを母に預けると父の手伝いをするため、すぐに畑に戻る。


コリンは愚図ったせいで喉が渇いたのか、母になにか飲ませてほしいと言っているようだ。


母はミラベルにポットのような筒を渡すと、何かを頼んだ。


ミラベルが頷いて、小川に駆けていく。


どうやらお水を汲んできてと頼んだらしい。


ミラベルが戻るまでに母は、バスケットからカップと小さなもう一つの筒を出した。


カップに少しだけその中身を入れる。


ミラベルがポットから水を(こぼ)さないよう気を付けながら、幾分早足で戻ってきた。


母がそのポットを受けとると、何かの液体を入れたカップにその小川の水を注ぎ入れた。


スプーンのような器具でかき混ぜると、そのカップをコリンの口許に持っていく。


コリンは美味しそうにゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干していく。


小さなコリン用のカップはすぐに空になった。


満足したコリンは母にニコッと笑う。


ミラベルも自分のカップにさっきの小さな筒から液体を入れ、水を混ぜてコリンの飲み干したジュースらしきものを器用に作る。


その様をじっと見ていたクロエは、二人が羨ましくてしょうがない。


(何それ?何か美味しそうな香りが微かにするんですけど?

この香りってアタシの今のお気に入りの果実水の香りですよね?ね?

ください、アタシにも分けてください~!)


またもや(よだれ)が止まらないクロエ。


おっぱいか果実水しか味わった事が無いので、今マイブーム?の果実水が有ると分かると居てもたってもいられない。


母にア~ウ~と必死におねだりをする。


しかし母はおっぱいを欲しがっていると勘違いしてしまい、おっぱいを飲ませようとする。


この悲しきミステイクに彼女は(違うの~!)とばかりに、生まれて初めてのイヤイヤをしてしまった。


おっぱいを嫌がったことの無いクロエがおっぱいを拒んだ!と母は大いに驚いた。


体の具合が悪くなったのかと、母はクロエのおでこを触ったり、いやオムツが濡れたのかとオムツを調べたり。


自分の意図せぬ方向に物事が進んでいき、クロエは慌てる。


(違うんです!果実水が飲みたいだけなんです!お願い、分かって~!)


アウアウ言いながら手足をバタつかせるクロエを見て、母は眠くなったようだと考えた。


とうとう抱き上げられ、あやされる事になってしまった。


願えば願うほど違う方向に話が進むので、果実水のおねだりを諦めざるを得なかった。


なんという悲しいすれ違い。


言葉の壁は余りにも大きかった。


母にあやされながら彼女は思う。


(うう、早く言葉を覚えるんだ。何とか意思を伝えられるように頑張るんだ。

でないとこんな辛い責め苦が又起こってしまうよ。雅時代から通じて、今の今ほど言葉を勉強したいと思ったことは無い!

この歯がゆさツラさ、忘れまじ~!うえ~ん!)


母の胸に悔し涙にくれる顔を押し付けて、彼女はそう心に誓った。


しかしやはり4ヵ月の赤ちゃんであるから、あやされるといつしか眠ってしまったらしい。


ふと気が付くと畑のごく近くに敷物を敷いて、彼女は寝かされていた。


辺りを見回すと母達は畑仕事に精を出していた。


邪魔しちゃいけないと、クロエは泣かずにその場で辺りを観察することにした。


空は青。雲は白い。


そこは前の世界と変わらない。


風は優しく、野原の花や草の香りを含んで(かぐわ)しい。


思い切り深呼吸をする。


森の中の家も綺麗で木の芳香が仄かに薫る素敵な空気だが、野原の空気は又違ってカラフルで軽やかな魅力的な空気だと感じる。


この世界は本当に自然が豊かだ。


クロエは横を見てみる。


敷物の周りの花や草が風に微かに揺れている。


さっきの不思議植物達も揺れているのだろう、どこかで鈴の音がしている。


風の香りにはさっきの生クリームの花の甘い香りが混ざっている気がする。


その香りを楽しみながらクロエは思う。


遠く離れた前の世界の家族を。


ここしばらく生活に溶け込むあまり、思い出さなかった前の世界の家族。


花を見ているうち、花好きだった母を思い出したのだ。


きっとこの素敵な花園を見たら喜んだろうなと。


一緒に花を探して楽しみたかった。


乃理子は花を使って色んな事をしていた。


押し花やドライフラワーを作ったり、押し花を使った絵を描いたり、ブリザーブドフラワーを造ったり。


確か花を使ってポプリや、花茶も作っていた。


花を描くボタニカルアートは雅も一緒に習いに行き、実は彼女の数少ない取り柄でもある。


花に囲まれ、花を愛した母。


今の生活に不満がある訳じゃない。


今の家族もクロエを大事に大事に愛し、育ててくれている。


もちろんクロエも今の家族が大事だし、愛している。


だがふと、どうしようもない感情が時々沸き上がってくるのだ。


羽海乃の家族はどうしてるだろうかと。


皆まだ悲しんでいないだろうか。


もしかしてもう悲しむ時は過ぎて、雅は家族にとって過去の人間となったのだろうか、と。


悲しんでばかりでは辛いから、悲しま無くなっていれば良いとは思う。


でも忘れ去られるのは身を切るように辛い。


我が儘だが悲しんでくれてたら少し嬉しい気持ちがするのは否定できない。


まだ雅に寄り添ってくれていると感じられるから。


自分自身が皆を置いて先立ちながら、何を勝手な事をと思う。


だが、気持ちに嘘はつけない。


思っていてほしい、少しで良いから。


勝手な娘で、妹で、姉でごめんと。


でも、そうなのだ。


雅はクロエの中に居る。


雅は前の世界の家族を愛しているから。


忘れないでほしいと。


野原の花達に囲まれて風に優しく吹かれているうちに、彼女の目から涙がこぼれた。


止まらない、どうしても。


心がざわつく、前の世界を懐かしんで。


すると、不思議なことが起こった。


クロエの周りに小さな蛍の様な光が集まり始めた。


泣いているクロエは気付かない。


小さな光はクロエを囲み、彼女を慰めるように優しく点滅する。


周りの花や草が香りや花びらを飛ばし、彼女を優しく包み込む。


彼女の周りにはいつしか小さな野原の動物が座り、蝶などの虫が軽やかに舞い踊る。


その真ん中で再びクロエは微睡(まどろ)み始める。


遠く離れた前の家族の夢を見ながら。





その様子を感嘆した様子で父や母、兄姉が見守っていたのを、勿論クロエが知るはずもなかった。




次話は明日か明後日投稿します。

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