お正月編 後編
城下町の中心は多くの人で賑わっていた。
リオとカリューの二人は人混みの中を並ぶ店を見ながらゆっくりと歩いていた。
「のうのう主人!あの果物買ってくれ!」
目を輝かせてカリューは黄色く綺麗に色付いた丸い果物を指さす。
「ん?あ、あれか値段にもよるけど....」
そう言って値札に目をやると──
「1個3000ネル....30個セットとかならともかく1個!」
値段の高さに思わず声が裏返る。
「のうのう、主人!いいだろ〜」
カリューの目には(買ってくれ!)と書いてある。
「カリュー、あれ一般の庶民が食べれるような代物じゃないって....あっちので我慢してくれ....」
そう言うと向かいの店の100ネルぐらいの安いトゲが特徴的な果物を指さす。
「主人....もうあの果物飽きたぞ....まだ家にたくさんあるだろう....今年も最後なのだからたまには贅沢したって....」
「分かった....買ってやる」
リオはカリューの最もな説得に負ける。
「ただし!!俺にも半分くらい分けろよな!」
「もちろんだ!主人!」
カリューは上機嫌でリオについていく。
「おばさん、この果物1つ下さい」
3000ネルもする果物を指す。
「そんなに高い果物を買うのかい?若いのに小遣いを叩いてまで買いたかったのか!なら1500ネルにまけてやるよ!」
店のおばさんは驚いた顔でリオを見てくる。そして半分まで割引してくれた。
「あ、あの!ありがとうございます!」
そう言ってリオは店を後にした。
──(よっしゃ、交渉しなくても済んだ!)
「主人....お金持ってなかったのか?」
カリューがじーっと怪しむ目で見てくる。
「そんなこと気にするな!それより半分くれ」
お金のことから急いで話をそらす。
「お〜!忘れてた!はい主人!」
そう言うとかじりかけの果物をリオの前に差し出す。
リオは差し出された果物を思いっきりかぶりつく。
「あー!主人!半分より多く食べてないか!」
果物を見てみると明らかに半分より多く減っていた。
果物にははっきりとリオの大きな歯形がくっきりと残されていた。
「ん、そんなの気にするなって。これすごくうまいね」
リオはとても美味しそうに頬張っている。
「確かにうまいな!さすがは3000ネル」
「カリュー....値段を言うな....何故か悲しくなってくる」
「やっぱり無理をしたんだな….もう財布にはお金はいってないんだろ?」
「はい....」
リオの財布の中身は12ネルしか残っていなかった。
12ネルだと安いお菓子ぐらいしか買えない。
「まぁ、気にするな!なんとかなる!」
空元気を出していることは見え見えだった。
「お金の話よりイベントはないのか?」
「イベントといえば行く前に言った花火があるぞ!城から日付が変わった時に大きなのが一つあがるらしい」
「それじゃあ花火が良く見えそうな場所探すか!」
そして二人は花火がよく見えそうな場所を探す。
───そして、11時50分頃....
「しゅじーん!もう人が多くてほとんど場所取られてるぞ〜!」
花火は一発だけしかあがらないのだ。それを一目見ようとたくさんの人が城の近くへと押しかけていた。
人混みでリオとカリューの身長では花火なんて見えそうになかった。
「そうだな....もう時間もないし....」
どんどん時間が経っていく。
「主人....残念だか諦めよう....私は構わないから」
明らかに残念そうな顔をしている。
カリューは表情が顔に出てしまうタイプだ。
(そんな顔されたら困るっての)
「え?主人、もうどこも見えそうなところはないぞ?」
今度は少し期待を含めた顔で聞いてくる。
「ないなら、こうすればいい。カリュー、人気のないところを探してくれないか?」
何を考えているのかカリューには理解ができなかった。
「それならたくさんあるぞ?ほら、あのへんとか」
そう言って路地裏を指さす。
「よし」
リオはカリューの手を引っ張り、人をかき分けて路地裏へ向かう。
「しゅ、しゅじん!」
いきなり手を引っ張られたためバランスを崩すが、リオが支えてくれる。
「おっと、大丈夫か?」
カリューの目には今のリオは少しかっこよく見えた。
しばらくカリューはリオを見つめたあと
「だ、大丈夫だ!早く向かうぞ!」
───そして路地裏へ着く。
ついた途端いきなりカリューをだき抱えた。
いわゆるお姫様抱っこである。
「しゅ、しゅじん!何をして....」
「行くぞ!」
そう言うとリオはカリューを抱えたまま『ウィンダムフライ』を唱えて一気に空へ飛び立つ。
「こうすれば、見えるだろ?」
そして、大きな一発の花火があがった。
「主人....」
カリューは涙を目に浮かべている。
「ど、どうした!カリュー!今の見えなかったか!」
いきなり泣き始めたので、リオはあたふたとパニックになる。
「いや、何でもない」
カリューは涙を腕で拭って、笑顔を見せた。
「何でもなくはないだろう」
心配してカリューを見つめる。
「本当に何でもない....主人!ありがとう!」
そう言ってカリューはリオの額へとキスをする。
夜空でカリューの笑顔が輝いた。
「ということが正月にあったんだよ」
「はは〜ん、カリューも乙女なところあるんだな!」
リオはニールに正月にあったことをすべて暴露した。
ニールはニヤニヤしながら美味しそうにモンブランを食べているカリューを見ている。
「二人共何を話しているんだ?」
一緒に来ていたフローリエ先生が聞いてくる。
「いえ、何でもないですよ。それよりこの前食べられなかったこの店限定ケーキ頂きますね」
リオは美味しそうにモンブランを頬張っているカリューを見ながらケーキを遠慮なく食べるのであった。