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N戦士 一平ちゃん  作者: のらこ
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[2] 理不尽な招待

あそこで一際光り輝く星をなんと呼ぶ。最初に頭を過ぎったのはそんな疑問だった。理由は天体観測が趣味だとか都会の生活に疲れてしまっただとかいう訳では決してなく。ただあまりにも突然に、理不尽とも呼べる程の環境変化に脳が適応出来なかったからだ。


ぼんやりと今は夜なんだなと認識が始まった頃、ようやく本来到達すべき疑問にたどり着いた。


ここは何処だ?


俺はマッグにいて、気の抜けない友人と、飯食って、夏休みイベントの新装ガチャ、してたはずだ。

それなのに今はどうだ。夜の天井に無数の光点が散らばり、眼前に迫ってくる。


この匂いは何だ?


油の焼ける匂い。立ち昇る炎と煙の匂い。湿った石の匂い。およそ日常生活において感じる事のないであろう類の香りが鼻腔を刺激し、同時にえもいわれぬ不安感が襲ってくる。


周囲を見回すと、正確直角に削られた岩壁がぐるりと囲み、それに沿うような形で松明が等間隔に設置されている。正面には硬く閉ざされた錆びついた鉄扉が構えていた。そして、人工的に組み合わされた石の舞台に1人、スマホを握りしめた俺が立っていた。


拉致されたのか?


この場所に至るまでの記憶はない。身体に痛みがある訳でもなく、頭が混乱しているのを除けばいたって健康そのものだ。しかし見知らぬ場所にこうして立っている理由が分からない。

ヤバい交友関係があるとかヤバい団体に所属しているだとかそんな事情もない。考えれば考える程疑問の輪から抜け出せなくなっていく。


途方に暮れ、仰ぎ見る、天井が抜けた建造物の底から。


突如としてドラムロールが鳴り響いた。チャンピオンはこの方です! みたいなやつだ。俺は人様に評価してもらう程の功績を挙げたのだろうか? 実はサプライズで御招待しましたー的な。


鉄の破裂するような音と共に、正面の鉄扉がやおら開き始める。赤い光りの筋が広がり、俺の全身を包み込む。ほのかに暖かい光りに惹かれ、歩む。


そこに向かえば良い。


なぜだかそんな気がした。


誘われるように扉の先に出ると、眼前に広がる光景に絶句した。


彩色豊かな灯篭が舞い、高揚とした人々の明るい表情が溢れている。出店が軒を連ね、胃袋を刺激する香りを垂れ流す。遠くには海が広がっており、上空では花火が弾けた。


祭り。一言で表現するならまさにそれだ。先程までと一転しての賑やかな雰囲気。あまりのギャップに頭が痛くなってきた。



「9連目のキャラが出ましたッ! 何だかのっぺりした面構えの若者ですね〜。これはまたしてもハズレかぁ〜ッ?」


いきなり芝居がかった台詞が遠慮なくぶつけられた。何だと思う間も無く、民族衣装らしき着物という出で立ちの女性がこちらに向かってくる。美人というよりは可愛いらしい顔つきの女性で、わざとらしいニッコニコの笑顔を携えて、「驚いてます? 驚いてますよね? 僕はどうして此処にいるんだろうって。油べっとりの開いた口が塞がらないって感じですか〜?」


おっといけない、拭き取るのを忘れてた、、、


妙にテンションの高い司会者然とした女性に指摘され、思わず手の甲で口元を拭う。


「さあ召喚士様。彼の処遇をどうなさいますでしょうか?」


召喚士? 処遇?


女性司会者の視線の先には、つまらなそうに顔を顰める多くの観衆がいた。その中に、明らかに雰囲気の違う人物が2人、大仰な椅子に腰掛け俺を見ている。

2人共竜の顔を模した面を被り、全身を隠すように灰色のローブを纏っていた。


ふいに、矮小な俺の脳みそが警鐘をならした。こいつらはヤバい。きっとラノベとかアニメとかの見過ぎで残念な事になってしまったに違いない。

此処はやつらの拠点で、現実社会では生きにくいってんで作っちゃった理想郷か何かだろう。


助けて刑事さんッ!


この状況を打破する為、今出来ることは、

①握りしめたスマホで助けを呼ぶ。

②すぐにでも逃げられるよう態勢を逃走モードに変更する。

③神に祈る。


一先ずスマホの存在を知られてはまずい。取り上げられたら一貫の終わりだ。固く握りしめたまま、こちらの思惑を気取られぬようにポケットに差し入れる。


いくつかの選択肢を並べ逡巡していると、やつらの召喚士様、であろうローブの人物が、隣に座していた者に耳打ちする。


まさか、俺を海外の辺境にでも売り飛ばすつもりではあるまいなッ! いくら運が悪いとはいえ、これはあんまりじゃないかッ!


言伝されたローブの人物が女性司会者に歩み寄り、同様に耳打ちする。女性司会者は相変わらずニッコニコのまま、そういう意味では表情一つ変えず、


「残念ッ! 売却ですッ!」


人間えらいもので、身の危険を感じると守る為の行動を起こす。ので、俺はうつ伏せで死んだ振りをした。一瞬、あれ? これ違くね? とか思ったが反射的にやってしまったのだから仕方ない。いや待て仕方なくないだろッ!


頭上で複数の足音が聞こえる。あっさり取り囲まれたようだ。どうなる、俺の人生。終わりなのか。まだ始まってもいない気がするが、、、


心が深く沈んでいくのが分かる。

あの時と似ている。

諦め崩れたあの時に。


気配がする、耳元に、

神妙に声を潜めた女性司会者の声が、

降ってくる。


「その手にある物を、決して失くさないで」





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