[1] 運が悪いんじゃない! 間が悪いだけ!
俺は召喚士だ。
俺は魔法使いだ。
俺は教官だ。
俺は領主だ。
俺は国王だ。
親指一つで強力な呪文を発動させモンスターを意のままに操り可愛い女の子でうおーいッ! とかなるのだ。
世間様が何やらイベントやら忙しなくやってたりする最中、俺様は親指を動かし続けるから指紋とか摩擦熱で溶けてるんじゃないだろうか。
と
そんなように心配になることもあるがそれでも親指を止める訳にはいかない。何故ならイベントは待ってくれないのだから。
ホームボタン。
指紋認証・・・OK!
飛び込め、スマホゲームの世界!
「夏休みイベント、今日からだっけか」
「ガチャ引こうぜ。新キャラ使えそうだし」
「ん、あ、召喚石足りねぇ。10連出来ねえ」
「課金すりゃ良いじゃん」
「馬鹿野郎め、課金したらつまんねぇだろ」
「何で? 強いキャラ当たった方が良いじゃん」
「重課金者には分からんのだよ」
「まぁ、一平の場合は課金したところで引き弱いからなぁ」
「黙れ、親の金でパーティ充実させて何が楽しいんだ」
などと言ってみたところで俺こと一平ちゃんも親の金でスクスク成長中の高校生というご身分。総資産の差こそあれ肩書きは同じである傍らの友人に説教、もとい妬みをぶつける。
学校帰りに立ち寄ったマッグでバーガーポテトコーラを我が肢体へ科学変化させ、健全な思春期野郎から見れば生産性も魅力もない頭の悪い会話を飽きもせずやっていた。
「一平小遣い少ないもんな、バイトしたら?」
「バイトしたらゲリラダンジョンに対応出来ねぇ」
「対応ってなにさ。ほんとスマホゲーム好きだよね、ガチャの引き弱いけど」
「言うほど酷くないだろ」
「いや酷いって。先月に星4確定ガチャ10連やったら星2しか出なかったじゃん。キャラじゃなく不具合引いてどうすんの」
「ぐぅッ!」の音が無意識に飛び出した。
何故に何故で何故なんだッ!
「あの案件については運営に断固抗議したさ」
「で?」
「反応なし」
「ひでぇ」
「近々に裁判を起こす予定だ」
「ほー。金あんの?」
「お前払って」
「ひでぇ」
うっすらとした笑いが漂う。
はは・・・。
俺のスマホはくすりともしていない。
「お先に失礼っと」傍らの友人がしれっとガチャを回す。10連。「来てくれよぉー」とか抜かしてるけどお前さん当たるまでやるんだろうがってか左の拳うぜぇ。
さて人の事など気にしている場合ではない。今日から始まる新装ガチャの為に貯めていた召喚石は45個。単発で回せば9回。目当ての星5キャラが当たる確率は0.01%。
・・・厳しい戦いになりそうだ。
1連目:星2
2連目:星2
まぁ・・・ね?
3連目:星2
4連目:星1
5連目:星2
・・・・・・。
6連目:星2
7連目:星1
8連目:ちょっと待ってね。
溜息と共に顔面を手で覆った。
嘘だろ? おい、後2回だぜ? 一カ月の努力がもうお終いなんだぜ? やはり50個まで貯めるべきだったかもしれない我慢出来なかった!
スマホを握る指達が揃って緊張に震えている。
おちおちおちつけ奇跡を信じろででででるでる可能性は0ではない。今回もまたダメカーなどという寒い流れはいらないのだ!
8連目: 星1
いや待てと、おい待てと。
これはちょいと酷すぎやしないか。運営連中は俺の敵なのか、そうなのか。所詮は搾取する者とされる者の2種類の人間しかいない的な隔たりが存在するとかいう話しになってしまうのかと。
飛躍し過ぎた猜疑心が世界の中心辺りで愛を叫んだところで相手に伝わらなければ腹が減るだけで意味などないのだと青春時代を生きる若人らしからぬ考えに至らせた。
しかしドライをいくら気取ったところで希望を隠れ蓑にした卑しい欲求が抑えられるはずもなく、俺は最後のガチャを引くべく決意と覚悟とヤケを決めた。
9連目:星満天
「は?」