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【05-09】

「どうやって今の余になったか。いや、それだけではない。入学からの記憶が、曖昧で薄っぺらく感じるのだ。思い出そうとすると、頭の中に靄がかかったみたいになってしまう」

 

 まろみが振り返る。

 今にも泣き出しそうな顔だった。


「余は怖い。不安になる。余は本当に菜綱 まろみなのだろうか。余は……余は……」

 

 俯いたまろみを包むように、そっと抱き寄せる。

 

 いきなりの行動にまろみが全身を強張らせた。

 が、その力も直ぐに抜けていく。

 

「大丈夫。まろみたんは、まろみたんだよ」

「どうして言い切れる?」

「僕がまろみたんを間違えるはずないじゃないか」

「八年も離れていたんだぞ」

「八年しか離れてなかったんだよ。百年離れてても、僕には間違わないよ。絶対に」

 

 まろみが顔を上げた。いつもより近い位置で見つめ合う。

 

 ふふっとまろみが笑いを漏らした。

 

「今時、そんな臭い台詞を口にできる人間がいるとはな」

「そ、その言い方は酷いよ」

 

 名残惜しい気持ちを抑えながら、春乃が抱擁を解く。

 

 後ろ髪を引かれつつも、まろみが半歩下がって距離を開けた。

 

「だが、お前の言葉は余に勇気をくれる」

 

 胸元を自身の左手で押さえる。

 

「春乃よ、お前が近くにいてくれるだけで、余は誰よりも強くなれる。不思議な物だな」

 

 上気した頬で、いつもの勝気な表情を作る。

 

「よし、そのカードは借りていくとしよう。まずは凛華と相談し、今後の動きを決めるぞ」

「そうだね。凛華さんなら力になってくれるよね」

「当たり前だ。余の信頼すべき副官だからな」

 

 二人揃って外に向かう。

 

 まろみがドアの横にあるインターホンを押した。

 上部にあるディスプレイに結衣が映る。

 

「用は済んだ。帰るぞ」

「解りました。直ちにお迎えに参ります」

 

 抑揚の欠けた声に、まろみと春乃が顔を見合わせた。

 

「ちょっと変な感じだったね」

「うむ、確かに妙だな。だが、ここでぼんやりしているわけにもいくまい」

 

 互いに頷くとドアに触れる。つうっとドアが開いた。

 

 階段を上がったところで、まろみの表情が険しくなった。

 

 館内の電灯が全て消されていたからだ。

 しかもカーテンが閉められ、太陽の光も遮られている。

 周囲を満たすのは薄い闇だけ。

 

「まろみたん、どういうことなんだろう」

「春乃、余から離れるな」

 

 不意に視界が白く染まった。

 いきなり光量の強いライトで照らされたのだ。

 

 手で目を庇う二人の前に生徒達が並んだ。

 その数十名以上。全員が警棒を手にしている。

 

 中央に一人が進み出た。結衣だ。

 

 


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