【05-08】
「でも、誰が」
「撫子が映っておるのだ。『ハルベルデ』の連中に決まっておる」
「ここは立ち入り禁止だよ。撫子さん達にできるとは思えないよ」
「む。それは一理あるか。『ハルベルデ』でないとするならば、『サトリ』かも知れん」
「サトリ?」
飛び出した名前に春乃は驚いた。
「そうか、春乃には話してなかったな。余に抗する勢力は二つある。一つが撫子の『ハルベルデ』。そしてもう一つが『サトリ』と名乗る謎の存在だ」
「謎の存在」
「男か女か。個人か組織なのか。一切解ってはいない。サトリとは情報テロリストだ。学区内のあらゆる情報を盗み見、好き勝手に改竄する」
「そんなことをするの?」
「ふむ。短絡的な『ハルベルデ』に比べて、陰湿で手強い相手だな」
穏やかに話すサトリという少年からは想像できない話だ。
それに彼が口にした言葉。「ボクは君とまろみの味方だよ」というのは、嘘とは思えなかった。
「ねえ、まろみたん」
別の可能性を考えて、口を開く。
「まろみたんは、本当に会長に立候補したの?」
「もちろんだ。でなければ、今の余があるはずがないのだからな」
「どんな演説をしたか覚えてる?」
「そ、それは……」
言葉を詰まらせる。
その目に映る不安が、自身の中に答えがない事を語っていた。
「だが、余は生徒会長。学区の支配者なのだ! それが選挙で勝ったなによりの証拠だ!」
「まろみたん、現在というのは過去と過程を積み重ねた結果なんだって」
「どういう意味だ?」
「友達が言ってたんだけどね。今っていうのは、いきなりできる物じゃない。ちゃんと過去から続いてきた路があるんだよ。思い出して、まろみたんがどうやって今に至ったか」
泣き虫で引っ込み思案だったまろみ。
そんな彼女がここまで変われたというのであれば、何か大きなきっかけがあるはずだ。
しばしの沈黙の後、まろみは首を振った。
「余は学区の支配者、菜綱 まろみだ。それが絶対の真実だ。過去や過程に意味などない」
「それは違うよ」
「違わん! 今、現在だけが全てなのだ!」
そう言い放つと、春乃に背を向ける。
「実につまらぬ時間を過ごした。さっさと帰るぞ」
「待って」
咄嗟に手を伸ばして肩に触れる。
と、まろみの身体が震えているのに気付いた。
「解らぬのだ」
まろみが小さくこぼした。




