【04-12】
「凛華!」
「凛華さん!」
二人の声に頷くと馬をドラゴンに走らせた。
双方の距離が瞬く間に縮まっていく。
一条の光となって突き進んでくる凛華を、ドラゴンが鋭い爪で迎え撃たんとする。
ドラゴンの圧倒的な攻撃が凛華を捉える寸前、剣が優美な弧を描いた。
信じられないほどの切れ味。ドラゴンの手首が飛んだ。
痛みと屈辱の混じった叫びが、先刻以上の咆哮となり、薙ぎ払うかのごとく空間を弾く。
「邪悪なドラゴンめ! この御形 凛華が居る限り、まろみ様に指一本触れさせません!」
「凛華! 痛いではないか!」
ドラゴンがその凶暴なる体躯には有り得ない、細い怒声を発した。
「そ、その声は?」
「余に武器を向けるとは無礼者め!」
くねくねと胴体を動かしたかと思うと、ジィィィィという間抜けな音を立て、背中に付いたジッパーが下りた。
「まさか、だって」
顔色を失う凛華の目前で、ドラゴンの背から人間の頭部がにょっきりと現れる。
肩までのストレートボブと銀色のカチューシャ。やや目尻の上がった強気な瞳。
それは紛うことなき己が主君、菜綱 まろみだ。
大きさ以外は、まったく違和感がない。
「凛華、まさかお前が余を裏切るとはな」
混乱する凛華に、まろみが冷たく告げる。
「違います! 私は!」
「今のは痛かったぞ。痛かったんだ。すっごく痛かった」
「お待ち下さい! 私は決して……」
「言い訳など聞かぬ! 余はお前を許さぬぞ! 絶対にだ!」
ドラゴンの着ぐるみから上半身だけを出した状態で、もたもたと足を踏み鳴らす。
駄々っ子を思わせる仕草さだが、その大きさが問題だった。
たちまち周囲の地面が揺れ、凛華はバランスを崩して倒れ込んでしまう。
「まろみ様、私の話を聞いてください!」
「うるさい! お前のような奴には天罰だ!」
まろみがほっそりとした指先を空に向ける。
と、いきなり落下してきた紫色の粘液の塊が凛華を頭から飲み込んだ。
甘ったるい香りにむせ返る。これはブルーベリーのジャムだ。
鎧の隙間から染み込んで来るねっちょりとした感触に、凛華は実に女の子らしい甲高い悲鳴を上げた。
「これで終わりと思うな」
タラコソースに納める豆。マヨネーズとケチャップ。カラシにワサビと言った物が次々と凛華に降り注ぐ。
※ ※ ※
「止めて、止めて下さい。まろみ様……」
「凛華さん、凛華さん」
激しく身体を揺する振動と繰り返される名前に、凛華がゆっくりと目を開く。




