【04-03】
「ですが、私の特訓は厳しいですよ。生半可な覚悟では……」
「凛華よ。余に覚悟を問うのか?」
凛華が息を飲んだ。
目の前に立っているのは、自分の料理の出来に不安を抱える小さな少女ではなくなっていた。
そこにいたのは、学区に君臨する恐るべき支配者だ。
「余を誰だと思っている。余は絶対支配者、菜綱 まろみなのだぞ」
「失礼しました」
「貴様の特訓とやら楽しみにしている。今日の放課後から早速始めるぞ」
「はっ、了解致しました」
最敬礼する凛華に、まろみは満足気に頷いた。
※ ※ ※
同時刻。春乃は食堂の隅っこでパンを齧っていた。
お昼の食堂は弱肉強食の世界。
誰もが我先に食い物に群がる状態であるはずだ。
にも拘わらず、春乃の座る周囲には、ぽっかりと空間が出来ている。
見えないバリヤーがあるように、五メートル半径には誰も近寄ろうとしない。
腫れ物扱いは、依然健在。
自分から積極的に話し掛けているが改善の兆しすらない。
「随分と暗い顔をしているな。折角の飯が台無しだ」
まさか自分に向けられた言葉だとは思わず、春乃は緩慢な動作で首を向けた。
「あ、ハコベさん」
「空いてるんだろ? いいか?」
向かいの椅子に腰を下ろすと、提げていた袋から弁当袋を取り出した。
意外にも手の平サイズの小ぶりな物だった。
丸っこいデザインで、実に女の子らしい。
「なんだ? 不似合いだとか思ってるのか?」
「あ、そうじゃなくて。随分と小さいなって。沢山食べる人かなって思ってたから」
言い終えてから、デリカシーを欠いた発言に気付いた。
「あ、ごめん。なんて言うのかな、その」
「変に気を遣うな。確かに自分は人より若干多めに食べる方だ。あくまで若干だぞ、若干」
相変わらずの砕けた話し方。
友人として接してくれるのが嬉しい。
「とは言え、来月は身体測定があるからな。体重は減らしておきたいんだ」
「ハコベさんでも、そういうのを気にするんだ」
「草陰、お前は自分をどういう目で見ているんだ?」
「そうじゃなくて。ハコベさんってスタイルもいいし、そんなの気にしないのかなって」
「ば、バカを言うな」
珍しく上ずった声を上げた。




