【03-03】
「これが材料費、その他の領収書になります」
鈴奈の差し出した紙を受け取った凛華の表情が険しくなる。
「……仕方ありません。予算が出るように善処しましょう」
「ありがとうございます」
そのやり取りに近衛侍女隊全員が安堵の息をついた。
「それにしても、かなりの数だな」
一つのハンガーに掛かっている服は三十着以上。
全部で二百着近くある計算になる。
「では、まろみ様。直ぐに服を決めましょう」
「む、そうだな。だが、どうやって」
「着ていくのです。片っ端から」
「むむ?」
語尾がやや上がる。
まろみにしては珍しいリアクション。
「時間がありません。急ぎましょう」
再びのホイッスルに、鈴奈を除く近衛侍女隊の九名が服を手に、まろみの前に並んだ。
「解った。試着していこう。ところで、鈴奈よ。お前は何をしているのだ?」
傍らで一眼レフのデジカメを構えている鈴奈に尋ねる。
「まろみ様が様々な衣装を着るという珍しい機会。写真に収めておかねば勿体無いと思いまして。あ、ご安心ください。これはわたくしが毎晩眺めて悦に浸るための物ですから」
とてもご安心できない事をさらりと口にする。
「ところで、草陰様の好みが解りませんか? 漠然とでも情報があれば助かるのですが」
「ふむ、それなら解っておる。春乃は幼女性愛者なのだ!」
まろみの一言に、鈴奈を始め近衛侍女隊達全員が凍り付いた。
※ ※ ※
時を戻して十時前。
薄暗い執務室で、まろみが口を開く。
「凛華よ。もう十分過ぎるほど待たせたのではないか」
「いえ、最低でも十時五分までは我慢してください」
「だが、それでは遅刻になってしまう。春乃が怒って帰ってしまったらどうする気だ」
「まろみ様、恋愛には作法があるのです」
「れ、恋愛?」
裏返った声でリピート。
「そ、そそれは違うぞ。今日は春乃をモールに案内するだけで……」
「解っております」
まろみの言葉を遮る。
「まろみ様のお気持ち、常にお側でお仕えしている私には解っております」
「そんなのわたくしにだって……」
ぼそりと呟いた鈴奈だったが、すぐさま凛華の鋭い殺気に気付いて首を振る。
「あ、いえ、流石は御形さん。その洞察力に感服いたしました」
「ふむ、よろしい」
涼しい顔でそう告げると、左手でくいっと眼鏡を上げた。
「デートの際に男性を待たせるのは、古くからの格式に則った、言わば作法なのです」




