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【03-02】

「文献を調査し、男性に好まれる行動パターンをケース毎にまとめました。これさえあれば、いかなる状況であってもベストの選択が可能です」

「ふむ。よくやってくれた」

「では、要点を説明させて頂きます」

 

 メイクを進める鈴奈の横で、レポートを読み上げる。

 

 じっくりと聞く事三十分。

 メイク終了とほぼ同時に凛華が説明を終えた。

 

「ふむ、大体は理解した。後は実践できるかだが」

「大丈夫です。まろみ様なら絶対にできます」

「むう、そうは言ってもな」

 

 言葉を揺らすまろみは、普段の過剰過ぎる自信に満ちた彼女とは別人だ。

 

「まろみ様、これで普段通りだと思います」

 

 鈴奈が手鏡を差し出した。

 

 ファンデーションが肌の荒れとクマを隠し、控え目に入れたチークとカラーリップが健康的な色を演出する。

 ナチュラルに見えるギリギリで、最大限の魅力を引き出した見事なメイクだ。

 

「見事だ。流石は鈴奈だ」

「ありがとうございます。では、次にお召し物を」

「ん、制服ではダメなのか」

「いけません、まろみ様」

「ダメですよ、まろみ様」

 

 凛華と鈴奈がステレオで即否定。

 

「まろみ様、デートは乙女の戦場と言えます」

「まろみ様、デートは乙女の晴れ舞台なんです」

「最高の装備を揃え、確実に勝利を掴まねばなりません」

「可愛い衣装を着て、確実に相手の心を掴まないといけません」

「むう、言いたいことは解る。解るのだがな」

 

 まろみがぷっと頬を膨らませ、視線を下げる。

 

「春乃がどんな格好を好むか、余は知らんのだ」

「ご心配には及びません。近衛侍女隊にお任せ下さい」

 

 スカートのポケットからホイッスルを取り出し、吹き鳴らす。

 

 甲高い響きに応えるように、執務室のドアが音を立てて開いた。

 と、衣類を吊るしたハンガーラックが次々滑り込んでくる。

 ハンガー動かしているのは、鈴奈と同じメイド服の少女達。近衛侍女隊だ。

 

 唖然とするまろみと凛華の前に並んだのは、高さ一メートル、八十センチ幅のハンガー六本。

 広々とした室内が一気に狭くなった。

 

「こ、これは一体」

 

 驚きでずれた眼鏡を直しながら、凛華が力なく尋ねる。

 

「こんなこともあろうかと、近衛侍女隊は密かにまろみ様の衣服を作成しておりました」

 

 一列に並んでびしっと敬礼。

 

 冷静に考えてみれば、一人の人間をお世話するくらい三人もいれば釣りがある。

 つまり近衛侍女隊の大半は日々退屈を持て余しているのだ。

 その暇な時間で有事に備え、まろみの服でも作っておこうと考えても不思議ではない。


 

 

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