表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/165

【02-18】

「そう、聞いてるよ」

「それは誤解っちゅうもんや」

「誤解だって?」

「ウチらが望むのはあくまで対話。争う気なんてあらへん」

「そうは思えないよ。現に昨日だって……」

 

 春乃の言葉が揺れた。

 

 撫子の瞳が今にも溢れそうなほどに涙ぐんでいたからだ。

 

「人に信じてもらわれへんのは辛いなぁ」

 

 ほっそりとした指先で目尻をそっと拭う。

 

「春乃はんは、まろみはんの幼友達。ウチなんかの言葉を信じろというのは、余りに酷やな。解った。今後、『ハルベルデ』は、春乃はんに近寄らん、それで堪忍したってほしい。この通りや」

 

 そう言うと、深々と頭を下げる。

 

「ほな、もう会うこともない。萩人、行くで」

 

 顔を上げると同時に踵を返した。

 

「いいのかよ、姫」

 

 いきなりの行動に萩人が狼狽した声を上げる。

 

「その呼び方、ここではあかん言うてるやろ」

「あ、済まん」

「いや、ええ。どんな時でもウチを信じてくれるのは、お前しかおらへんしな」

 

 半ば独り言のように呟くと、肩を落として歩き出す。

 

「ちょっと待って」

 

 その余りに弱々しい背中を、春乃が堪らず呼び止めた。

 

「一つだけ、一つだけ教えて欲しい」

「なんやろ?」

「対話を望んでいるなら、どうして僕を捕らえようとしたのかが説明できない。力で物事を要求するなんて矛盾じゃないか」

「春乃はんは、ええ人やな」

「茶化さないで真面目に答えてよ」

「そんなええ人には、想像もでけへんのやろな」

 

 撫子が小さく首を振る。

 

「まろみはんは学区の頂点。絶対権力者や。話したかっても近づくことすらでけへん」

「だから、僕を人質にするつもりだったと?」

「そう。交渉の場に、まろみはんを引っ張り出す餌になってもらうつもりやった。確かに手段は間違ごおてる。汚いやり方や。それでもな」

 

 くるりと身体を回転させ、春乃の方に向き直る。

 

「どれだけ非難を受けようともな。ウチらには、やらなあかんことがあるんや」

「そこまでして、何を求めるつもりなの?」

「嫌やわ。質問は一つや言うたのに」

「うっ」

 

 言葉を詰まらせる春乃に、撫子が表情を緩めた。

 

「ふふ、冗談や冗談。ウチらが求めているのは選挙なんや」

「選挙?」

「生徒会の役員人事は、まろみはんが独断で決めてはる。せやけど、それは歪な形や。ちゃんと立候補者を募り、生徒の承認を得るのが正しいやり方と違うやろか」

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ