【02-12】
振り返る春乃の目に映ったのは、腕組みをして鋭い視線を向けている凛華だった。
微かに頬を膨らませている。
「凛華さん」
「草陰様、わたくしは仕事がありますので、これで失礼します」
固まる春乃に軽く礼をすると、凛華の横を抜けて階段を駆け下りて行った。
残されてしまったのは春乃一人。微妙に居心地の悪い空気になる。
「あの、凛華さん」
「無節操ではないという点については理解しましたが、女性としてはあまり好感の持てない態度ですね。すぐにまろみ様のお耳に入れ、対策を講じたいと思います」
くいっと眼鏡を上げて、恐ろしい発言をする。
「ちょっと、誤解ですってば」
「申し開きはまろみ様に直接お願いします。後ろ暗い物がなければ簡単ですよね」
冷酷に告げると、春乃を追い抜いて歩を進める。
「待ってくださいよ」
情けない声を上げる春乃に、くすりと小さく笑いをこぼした。
「なにか?」
その笑みが見られないよう、背中を向けたまま問う。
「誤解なんですってば。僕はずっと、その、なんていうか、まろみたんだけを……」
「解っていますよ。そんなことは」
弁解する春乃に、好意と呆れをブレンドした吐息を漏らす。
「春乃様」
教科書に載っているような理想的な回れ右をして、春乃に身体を向けた。
「個人的な趣向ですが、私はプリンが好きです」
「はい?」
「特に中央モールで販売されている『ふわふわプリン』が好みです」
「はぁ」
「このプリンはさっぱりとした甘みと、とろけるような食感が特徴です。毎日食べても飽きず、女生徒達に大人気の一品。つまらないことなど、全て忘れてしまう美味しさです」
いきなり始まったプリン話に、春乃が首を捻る。
そんな春乃の様子に、凛華が小さく息をついた。
「最近多忙で買いに行けないのです。月曜にでも時間を割いて足を運びたいと思っているのですが。と、ここまで言えば解りますね?」
「そういうことですか。解りました」
「では、心待ちにしております」
「でも、意外ですね。凛華さんがプリン好きだなんて、まるで普通の女の子みたいですね」
春乃の言葉に、凛華の細い眉がぴくりと動いた。
「なるほど、春乃様にとって私は普通の女の子じゃないというわけですか。その点については意識を改善して頂く必要がありますね」
左手でスカートの裾を掴み、静かに引き上げた。
白い太もも。普段では決して見ることのできない領域に春乃は思わずドキッとする。
しかし、そこにレザーベルトで留められていた伸縮式の警棒にはもっとドキッとした。
「春乃様、覚悟はよろしいですね?」
素早く警棒を引き抜き伸ばす。
二十センチ程の長さになった。
「え? 覚悟って言われても」
「よろしいですね?」
気迫に圧倒され、春乃はつい頷いてしまった。




