【01-03】
写真の下部には、こんなメッセージが添えられていた。
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春くんへ
私にも親友ができたよ。
真ん中の美人さんが、佐藤 瀬莉ちゃん。
右の可愛い子が、涼城 鈴奈ちゃん。
二人ともとってもいい子なんだ。
ハイスクールも別になっちゃったね。卒業したら会えるかな。
まろみより
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「まろみたん」
八年前。急な引越しで離れ離れになってしまった幼馴染。
それ以来、週一のペースでメールのやり取りを続けてきた。
だが、五月に送られてきたこのメールを最後に、返信が途絶えてしまっている。
彼女に何か悪いことが……。
発車を告げるアナウンスが、不吉な想像をかき消した。
手帳を閉じると同時に、車両が揺れる。
予想よりも大きな振動に、春乃は腰を上げそうになった。
「揺れるって聞いていたけど、こんな感じなんだ」
ふうっと息をついて、窓に流れる景色を見つめる。
今まで住んでいた街並みに比べると十分の一の高さもない、あまりに小さく不恰好な建物達。
その向こうに見える空は、澄み切った理想的な青。
「きっと大丈夫だよ」
そんな言葉が自然に漏れた。
※ ※ ※
春乃は息を飲んで固まった。
彼にそれほどまでの衝撃を与えたのは一枚のポスター。
今日から通う学校の外壁に張られた物だ。
幅、約一メートル。縦は壁の高さギリギリの二メートル弱。
フルカラー天然色で写っているのは、一人の少女だった。
目尻の上がった大きな瞳に形の良い鼻。上品に造られた薄桃色の唇。
髪は肩までのストレートボブで、銀色のカチューシャで額を露にしている。
もし淡い色の服を着て愛らしく微笑んでいれば、誰もが「いいね、この子」と呟くだろう。
しかし、その少女はそんな愛らしさとは無縁だった。
表情は険しく、ポーズは薄い胸をそらした威圧的な物。
身に付けているのは、黒を基調にした上下。
金に輝く襟章のついたシンプルな上着と細くシャープなデザインのズボンだ。
靴はがっちり厚みのある軍用ブーツで、腰には儀礼用の小剣まで挿している。
まるで旧時代の軍将校といった出で立ち。
足元には「立ち上がれ! 第十一学区の生徒達よ! 他学区のクズ共に我らの力を見せつけてやるのだ!」と、赤い扇情的な文字が並んでいる。
春乃が視線を横にずらす。
十センチほどの間隔を空けて、別のポスターが貼られている。
同じ少女が胸の前で拳を握り、勝気な表情で見下ろすような視線を向けていた。
「我のもたらす物は支配ではない! 開放なのだ!」と書かれている。
つつっと春乃の目が移動する。
横には別の一枚。その隣にもまた一枚。いや、校門までポスターが続いている。
こんな怪しいポスターが大量に貼られているのも驚きだが、それよりも彼を驚かせたのは。
「まろみたん、だよね」