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【02-11】

「ほら、鈴奈さんと瀬莉さん、三人は親友だって」

「何を言っているのだ?」

「だって……」

 

 始業を告げるチャイムが会話に割り込んできた。

 

「春乃様、そろそろ教室に向かわねば」

「あ、はい。そうですね」

「凛華、教室まで春乃を送ってやってくれ」

「了解しました」

 

 小さく頭を下げる凛華から春乃に移ったまろみの目が、すうっと鋭くなる。

 

「春乃、凛華は余の大切な副官だ。下劣な感情でよからぬ行動を起こすでないぞ」

「それは誤解だってば!」

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 放課後。

 春乃は疲労感で重くなった身体を引きずるように、まろみの執務室に向かう。

 

 転校初日、気疲れはあるだろうと覚悟していた。

 しかし、それは想像以上だった。

 クラスメイトはおろか、教官でさえ春乃を腫れ物扱い。

 こちらから声を掛ければ愛想良く対応してくれるが、必要以上に関わろうとはしない。

 

「草陰様はまろみ様の幼馴染であられる。失礼のないように」

 

 春乃は担当教官にそう紹介された。

 つまり春乃は学区にとって特別な存在という事だ。

 

「先行きが不安だよ」

 

 この居心地の悪い状況が改善されるのは、いつになるだろう。

 ゴールの見えない迷路に入り込んだ気分になる。

 

 階段を上りながら春乃は考える。

 まろみの存在は教官達を初めとする大人達より上に位置するようだ。

 生徒の一人に過ぎないはずなのに。どうにも奇妙なヒエラルキーだ。

 

 最上階に続く踊り場に鈴奈が立っていた。やはり濃紺のメイドスタイルだ。

 春乃の姿を見るや、いきなり深々と頭を下げる。

 

「草陰様、今朝は申し訳ありませんでした」

「あ、いえ、そんな」

「草陰様はまろみ様の幼馴染。その草陰様に暴言を吐き、あまつさえ、お庇い頂いたというのに逃げ出すなんて、非礼にも程がある態度。いかなる罰も甘んじて受ける覚悟です」

「顔を上げてください。僕が悪かったんですから。涼城さんが謝るなんておかしいですよ」

「でも」

「お願いします。顔を上げてください」

 

 恐る恐る鈴奈が頭を上げる。

 

「あの、わたくしを許して頂けますか?」

「許すもなにも。むしろ昨日から色々と助けてもらって、感謝しているんですから」

「草陰様」

 

 安心したのかチャームポイントである温かい笑みが戻った。

 

「うん。涼城さんにはやっぱり笑顔の方が似合いますね」

「もう、草陰様。ご冗談を」

 

 口元に手を当てて、恥ずかしそうに身体をよじった。

 

「ホントですよ。とても可愛くて魅力的です」

「いやだ。もう。冗談ばっかり。そうやって色んな女の子に、声を掛けているんじゃないですか?」

「酷いな。僕は誰にでも声を掛けたりしませんよ」

「声を掛ける際には相手を吟味してから、というわけですね」

 

 冷たい声が背後、階段の少し下からだった。

 

 


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