【02-04】
数秒間。密度の高い時間の後。
春乃が表情を緩めた。
「解った。君を信じてみるよ」
「ありがとう」
春乃がネックレスを身に付けるのを確認し、サトリはほっと安堵の息をついた。
「少々強引だったからね。断られるかと思ったよ」
「君は嘘をついて人を貶めるような人間じゃない、と思うんだ」
「なるほど。どうやら君は人を見る目があるようだ」
「自分で言うかな。そういうの」
「仕方ないさ。誰も言ってくれないんだからね」
他愛ない冗談に、緩い笑いが生まれる。
「やれやれ。厄介な奴が来たみたいだ。ボクはそろそろ姿を消すとするよ」
眼鏡を掛けると、キャップのひさしを深く下ろした。
帽子の動き具合から、かなりの量の髪を押し込んでいるのが解る。
「じゃあ、転校生、近いうちにまた会いに来るよ」
一方的に告げると、返事も待たず踵を返した。
そのまま、門を潜り寮の敷地内に消えていく。
「春っちぃ!」
迫ってくる足音に春乃は顔を向けた。
左右に結んだ髪をふりふりと揺らしながら、桜木が駆けてくる。
「春っちぃ! お迎えにきたよぉ!」
春乃の前で急停止すると、にっと天真爛漫な笑みを浮かべた。
「あ、桜木さん、迎えって?」
「昨日のこともあるし念の為にね。っていうか、私と春っちの仲じゃん。咲夜ちゃんでいいよ」
「いや、ちょっと慣れ慣れし過ぎるかなって。ハコベさんも苗字で呼んでるし」
「むう、委員長は下の名前なのになんか不公平な感じ。あっ!」
そこで驚愕の表情に変わる。
「ひょっとして、春っち、委員長が好きなの? 惚れたの? ラヴラヴになりたいの?」
「そんなわけないって」
「だよねぇ。あんな凶暴な女は嫌だよねぇ」
「ははは」
笑いながらも、直ぐに「凶暴っていうのは違うね。素敵な人だと思うよ」と訂正するつもりだった。
しかし、不運にも、春乃の後ろに立つ人物の言葉が少しだけ早かった。
「そうか、凶暴か」
聞き覚えある声。
逃げ出したくなる衝動を堪えて振り返る。
目を閉じて腕組みの姿勢で立っていたのは、もちろん武装風紀委員長である函辺。
小刻みに痙攣しているこめかみが、彼女の心情を大いに表していた。
「確かに自分は少々気が強い。それは認めよう。腕っ節も強い。格闘術に関しては、学区でナンバーツーだ。家事全般も不得意だしな。女子としての魅力に欠けると言われたら、否定はできないかもしれない。しかしだ」
「ひっ」
目を開けた函辺の鋭い視線に、春乃は情けなくも悲鳴をこぼしてしまう。
それほどまでに怒りと悔しさに満ち満ちた目だった。




