表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/165

【02-04】

 数秒間。密度の高い時間の後。

 春乃が表情を緩めた。

 

「解った。君を信じてみるよ」

「ありがとう」

 

 春乃がネックレスを身に付けるのを確認し、サトリはほっと安堵の息をついた。

 

「少々強引だったからね。断られるかと思ったよ」

「君は嘘をついて人を貶めるような人間じゃない、と思うんだ」

「なるほど。どうやら君は人を見る目があるようだ」

「自分で言うかな。そういうの」

「仕方ないさ。誰も言ってくれないんだからね」

 

 他愛ない冗談に、緩い笑いが生まれる。

 

「やれやれ。厄介な奴が来たみたいだ。ボクはそろそろ姿を消すとするよ」

 

 眼鏡を掛けると、キャップのひさしを深く下ろした。

 帽子の動き具合から、かなりの量の髪を押し込んでいるのが解る。

 

「じゃあ、転校生、近いうちにまた会いに来るよ」

 

 一方的に告げると、返事も待たず踵を返した。

 そのまま、門を潜り寮の敷地内に消えていく。

 

「春っちぃ!」

 

 迫ってくる足音に春乃は顔を向けた。

 

 左右に結んだ髪をふりふりと揺らしながら、桜木が駆けてくる。

 

「春っちぃ! お迎えにきたよぉ!」

 

 春乃の前で急停止すると、にっと天真爛漫な笑みを浮かべた。

 

「あ、桜木さん、迎えって?」

「昨日のこともあるし念の為にね。っていうか、私と春っちの仲じゃん。咲夜ちゃんでいいよ」

「いや、ちょっと慣れ慣れし過ぎるかなって。ハコベさんも苗字で呼んでるし」

「むう、委員長は下の名前なのになんか不公平な感じ。あっ!」

 

 そこで驚愕の表情に変わる。

 

「ひょっとして、春っち、委員長が好きなの? 惚れたの? ラヴラヴになりたいの?」

「そんなわけないって」

「だよねぇ。あんな凶暴な女は嫌だよねぇ」

「ははは」

 

 笑いながらも、直ぐに「凶暴っていうのは違うね。素敵な人だと思うよ」と訂正するつもりだった。

 しかし、不運にも、春乃の後ろに立つ人物の言葉が少しだけ早かった。

 

「そうか、凶暴か」

 

 聞き覚えある声。

 逃げ出したくなる衝動を堪えて振り返る。

 

 目を閉じて腕組みの姿勢で立っていたのは、もちろん武装風紀委員長である函辺。

 小刻みに痙攣しているこめかみが、彼女の心情を大いに表していた。

 

「確かに自分は少々気が強い。それは認めよう。腕っ節も強い。格闘術に関しては、学区でナンバーツーだ。家事全般も不得意だしな。女子としての魅力に欠けると言われたら、否定はできないかもしれない。しかしだ」

「ひっ」

 

 目を開けた函辺の鋭い視線に、春乃は情けなくも悲鳴をこぼしてしまう。

 それほどまでに怒りと悔しさに満ち満ちた目だった。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ