表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/165

【07-26】

「草陰様、そちらに散らかっているのは?」

 

 違和感が現れないように細心の注意を払いつつ、春乃の後方を指し示す。

 

 つられて背中を向ければ容赦なくハンマーで殴打するつもりだ。

 

 しかし、春乃は予想に反して立ち上がった。

 

「涼城さん、これ、なんだか解ります?」

 

 手にしていた軍服を少し広げる。

 

「まろみ様が普段着ておられる服、ですよね」

「実は今日、この服を着ていたまろみたんは偽者だったんです」

「もう、草陰様ったら。誰かが変装していたとでも言うんですか?」

 

 軽い口調で答える。あくまで冗談を聞いた風な反応だ。

 

 そんな鈴奈に、春乃は真面目な顔を崩さない。

 

「集会で看破された彼女は、ここまで逃げてきたんです。そして、隠しておいた服に着替えた」

「では、その偽者がこの近くに潜んでいると?」

 

 眉をひそめて尋ねる。

 

 ここまでの会話は鈴奈の想定内だった。

 後は追跡の協力を申し出ればいい。

 春乃という人間は、危険な場所で女子を先に行かせる人間ではない。

 悠々と背後が取れる。後はこのハンマーで。

 

「涼城さん、一つ聞いていいですか?」

「はい。なんでしょう?」

「どうしてなんですか?」

 

 ここに来て要領の得ない問い。

 

「どうして学区の支配者にまろみたんを選んだんですか?」

 

 鈴奈の心臓が跳ねた。

 

「あの、仰っている意味が解らないのですが」

 

 鎌を掛けているだけだ。落ち着け。

 自身に言い聞かせる。

 

「ひょっとして、偽者はわたくしだと?」

 

 震える声で搾り出す。

 ショックで泣き出しそうな表情まで添えた完璧な演技だ。

 

「グラウンドから、ここまでかなりの距離があります」

 

 それを無視して春乃は続ける。

 

「全力疾走して、かなり汗をかいてしまった。追っ手は直ぐにやってくる。服装を変えても、不自然に汗をかいていたら正体がバレてしまう。だから、制汗スプレーを使ったんですよね」

「制汗スプレーは使いました。でも、それは衣装整理で汗をかいてしまったからで……」

 

 バクバクと鳴り響く鼓動を押さえ込んで動揺を隠す。

 

「この軍服から、鈴奈さんと同じスプレーの香りがするんです」

「そんなはずはありません! だって!」

 

 はっと気付いて言葉を止める。

 しかし、遅かった。

 

「だって、これを脱いだ後でスプレーを使ったから。ですよね」

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ