【07-17】
「ひぃぃ」
喉の奥から弱々しい悲鳴を漏らすのが精一杯だった。
瞬く間に打ち倒される。
メイド達は、六人残っていた。一人を相手にするなら十分過ぎる戦力だ。
しかし、士気は完全崩壊。
偽まろみにコントロールされていなければ、我先にと逃げ出していただろう。
そんな状態で戦うなんて到底無理。
震えながら、弱々しく警棒を構えるだけだ。
函辺が警棒を振る度にメイド達は地に転がっていく。
一人一発。最低限の攻撃で終わらせた。
「ハコベさん、ありがとう」
「近衛侍女隊なんて、こんなもんだ」
額に浮かんだ汗と、荒く乱れた呼吸。
函辺の様子はどう見ても尋常ではない。
「やっぱり怪我が」
「正直、かなりきつい。だが、今は偽者を追うのが先決だ」
痛み止めを飲んではいたが、全力での戦闘には厳しい。
激痛で目まいがする。
「後は僕に任せて」
「冗談は止めろ。お前の方がもっと厳しそうだぞ。もう走るのも限界って感じだ」
痛みを押さえ込んで、口元を緩ませた。
「ハコベさんに言われると辛いな」
「これが片付いたら、身体を鍛えてやるよ。楽しみにしてな」
「春っちは今のままでいいと思うよ」
割り込んできた一言。二人が顔を向ける。
長い髪を頭の左右でリボン留めした少女が校舎から姿を見せた。
「桜木か、厄介な奴が残ってたな」
函辺の声色に獰猛さが宿る。
「まろみ様の命令なの。ごめんね。こっから先は通せないんだ」
残念そうに告げる桜木に、春乃が半歩近づいた。
「桜木さん、その命令を出したのは偽者なんです」
「偽者とか、そんなの関係ないんだってば」
「じゃあ、どうして」
「ここで追っ手を止めたら、卒業までの座学を免除してくれるって」
「そんなことで」
「春っち、私にとっては大事な問題なんだよ」
「桜木さん、よく考えてよ。偽者を逃がしたら……」
「もういい。時間の無駄だ。邪魔をするって言うんなら仕方ないだろ。力で押し退ける」
函辺が春乃の前に進み出た。
それを見た桜木は小さく首を振る。
「委員長、無理だよ。肋骨が折れてるんでしょ。そんなんで勝てるわけないよ」
驚く春乃。
自分が想像していたよりも、函辺の怪我は遥かに大きかった。
「ハコベさん」
「余計なことは言うな。今は偽者を追うことだけを考えろ。自分がその道を開けてやる」
「でも」
「お前はお前のやるべきことがあるんだろ」