【07-07】
「はい。今朝、女子寮でまろみ様を見かけたという話です。朝礼の打ち合わせをしていた時刻らしいのですが」
「なにを下らんことを」
鼻で笑いつつも、軍服姿のまろみは視線を揺らした。
閉じ込めたまろみ達が逃げ出した。
その可能性が当然ながら頭をよぎる。
登校前に地下牢の様子は監視カメラで確認しておいた。
二人ともベッドで眠っていたはずだ。
その直後に脱走したのだろうか。
だが、どうやって?
「まろみ様、どうなされました?」
「いや、なんでもない」
そこでドアがノックされた。
「武装風紀委員委員長、小鬼田です。火急の用件で参りました」
「ふむ、入れ」
顔に絆創膏を貼った函辺が室内に入り、敬礼する。
「どうしたのだ?」
「まろみ様の偽者を見たという情報が入りました」
「その話なら、今しがた凛華から……」
「しかも偽者が桔梗 撫子と接触しているらしいとの話です」
「『ハルベルデ』の、か」
「これはチャンスだと思います。我ら武装風紀委員にご命令下されば、直ちに寮に突入。『ハルベルデ』を一気に制圧し、偽者を確保してみせます」
「偽者をテコに撫子を退学まで持っていくわけだな」
「はい。撫子がいなくなれば、『ハルベルデ』は瓦解します。この機を逃す手はありません」
「なるほど、確かに千載一遇ではあるか」
まずはまろみを確保するのが先決。本物なら再度地下牢で記憶を塗り替える必要がある。
それに撫子は、もう用済み。放逐しても構わないだろう。
「よし、函辺よ。直ちに……」
「お待ちください、まろみ様」
了承を返そうとしたまろみを、傍らの凛華が遮った。
「寮内の戦闘はルールで禁止されています。桔梗さんが調査を拒否すれば、それまでです」
「ルールか。そうだな、ルールがあったな」
憎々しげにまろみが繰り返す。
『ハルベルデ』を保護し、まろみと対立させるために刷り込んだ絶対のルール。
それが邪魔をするとは。
「まろみ様の権限で特例を認めればいいじゃないか。簡単な話だ。今すぐに集会を開いて、今日の放課後だけ戦闘を許可するとすれば」
函辺らしい強引な意見に、まろみが顔を上げた。
「既に寮に戻っている生徒もいます。全校生徒に伝えることはできません。そのような状態で武装風紀委員が寮に雪崩れ込めば、不要な混乱を招くのは必至です」
「待て、凛華よ。函辺の考えは悪くない」
「強引なやり方は賛同できません。今後の生徒会運営に支障をきたします」
「最後まで余の話を聞け」
凛華の反論を制しつつ、にやりと口元を歪ませる。