【06-21】
「そんなのやってみなくちゃ解らないだろ!」
「解ります。偽まろみの号令で、学区の全員が敵になります。それに抗する力があるとすれば」
ちらりとまろみに目をやる。
それに気付いたまろみは、春乃の背中に隠れてしまう。
「いえ、お二人が危険を冒してまで、この学区に留まる必要はありません。お二人はお二人の路を進むべきです」
本物のまろみと春乃を逃がし、自分は『ハルベルデ』に参加、偽まろみの打倒を目指す。
熟考の結果に行き着いた凛華なりの結論だった。
だが、それは自身を一歩進ませる為の理屈に過ぎない。
本心を言うならば。
「自分は嫌だね。戦いもせず尻尾を巻くなんて、そんな情けない真似ができるかよ」
「安っぽい感情論を持ち出さないで下さい! 私だって悔しいんです! でも無理な物は無理なんです!」
床を踏んで声を荒げた。
「私だって、私だって偽者なんかの好きにさせたくありません! できることなら、本物のまろみ様を支えて戦いたい! でも! 今のまろみ様は! こんなまろみ様は!」
珍しく感情を爆発させた凛華に誰もが言葉を失う。
凛華の熱が沈黙で冷え切るまで、しばしの時間が必要だった。
「申し訳ありません。言葉が過ぎました」
「そんなことありませんよ。僕は今の凛華さんの言葉を凄く嬉しいと思ったんですから」
「嬉しい?」
「まろみたんのことを、そんなにも想ってくれていたってことですよね」
いつもの優しい微笑を浮かべた。
「私は、私はただ……」
「どこをどう取ったら、そんな都合のいい解釈ができるんだか。呆れるな」
函辺が大袈裟に肩を竦めた。
だが、その口ぶりとは裏腹に穏やかな顔をしている。
「草陰、お前はどうするべきだと思ってるんだ?」
「そうですね、春乃様の意見を聞かせて下さい」
戦いを掲げる函辺と、逃避を推す凛華。
相容れぬ主張を少し引いた形になった。
「難しいな。正直なところ」
やや首を傾げて考える。数秒後、導き出された結論は。
「僕はどっちでもいいかな」
「なんだよ。それ」
「そんな、いい加減な」
あっさりとした発言に虚を衝かれたようになる。
そんな二人を残して、春乃は背中に隠れている小さな幼馴染を振り返った。
「ね、まろみたんはどうしたい?」
まろみが顔を上げる。