【06-20】
「助かりました。ハコベさん、凛華さん」
改めて春乃が頭を下げた。
その右側、半歩下がった位置で、まろみも深々と礼をする。
「よせよ。友の窮地を救うのは女として当然だ」
照れて居心地の悪い顔になる函辺。
「ハコベさん、大丈夫ですか? 酷い怪我だったんじゃ」
「打撲程度だ。問題ない。折角の美人が台無しだけどな」
頬と額に貼られた絆創膏を指差し、にぃっと笑みを見せた。
そんなやり取りに、傍らに立つ凛華の表情が暗くなる。
函辺の首元にかなりの汗が浮いているのに気付いていた。
無理して痛みを押し込めているのが、凛華には筒抜けだ。
「でも、よくこの場所が解りましたね」
「まあな。実は情報提供者がいてくれたんだ」
「情報提供者?」
「その方は別の場所で救出の支援をして下さっています」
凛華が補足した。
サトリは別行動。セキュリティを無効化すると言っていた。
「ところで、非常に伺い辛いことなのですが……」
ちらりとまろみに視線を向ける。
「あの、信じてもらえないかも知れないですけど、私が本物の菜綱 まろみです」
か細く消え入りそうに告げた。
「彼女はまろみたんです。僕が保障します」
「春乃が言うんだから間違いないな」
「そうですか」
快活に答える函辺とは対照的に、凛華の声は沈んでしまう。
今のまろみからは普段のまろみ、学区の絶対支配者としてのまろみらしさを一切感じないのだ。
「ここまでは良し。で、ここからだな。どうやって偽者をぶっ倒してやるか」
函辺らしい血気盛んな意見だ。
「春乃様」
凛華が声を上げた。まろみではなく春乃に、である。
「私はお二人がこの学区を去るべきだと思います」
「おい! なに言ってるんだよ!」
「ハッキリ言わせて頂きますが」
函辺の反論を無視して続ける。
「この学区は、偽まろみの支配下にあります。我ら四人では、どうすることもできません。下手な抵抗をしたところで捕縛されてしまうでしょう」
その後に待っているのは記憶の改竄。偽まろみの思うままだ。