【06-18】
「で、あれば偽者の背後には、かなり大きな組織があると推測できます」
「鋭いね。実のところ、人類全体に影響を及ぼすレベルの秘密組織が噛んでいる」
「そんな非現実的なことが」
「なんて、そういうメルヘンがあっても悪くないんじゃないかな」
やんわりとはぐらかし、サトリは踵を返した。
「さ、行こう。誰かに見られると、風紀上の問題が発生してしまうからね」
そう言うと振り返ろうともせずに歩き出す。
仕方なく、凛華と函辺が後に続いた。
※ ※ ※
「春くん! どうしたの! 春くん!」
悲鳴に近い叫びに春乃は目を開けた。
頭の中で甲高い音が反響しているような気がする。
あまりの不快感に遠のきそうになる意識を、なんとか手繰り寄せる。
「春くん! 春くん! しっかりして!」
「まろみたん」
掠れながらも、なんとか声が出た。
壁の向こうでまろみが大きく安堵の息をつくのが解る。
「春くん、大丈夫? すごく苦しそうに呻いていたから」
「ごめん。心配掛けちゃったね」
近くに転がっていたペットボトルの水を一口含む。
少しだけ気分が楽になる。
部屋の隅。いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「心配掛けてごめんね。少しうなされてたみたいなんだ」
全身にねっとりと汗をかいていた。
ずっと噛み締めていたせいか、奥歯がだるい。
「情けないよね。夢なんかでさ」
「そんなことないよ」
「まろみたんは、よく眠れたみたいだね」
「うん。春くんが貸してくれたお守りのお陰、かな?」
「意外にご利益あるもんだね」
「春くん、こっちに来て。お守り返すから」
「待って。できれば預かっておいて欲しいんだ」
「でも、それじゃ春くんが」
「勘弁してよ。怖い夢見たから、お守り返してなんて。ちょっとカッコ悪過ぎるからさ」
できる限り明るい口調で告げる。
「うん。解った。じゃあ、もう少し借りておくね」
会話が途切れた。
重い空気が漂い、静けさが沈殿していく。
春乃は不安気に俯くまろみを想像してしまう。
少しでもまろみを安心させてやりたい。そう思う春乃だが、言葉が見つからない。
まろみが眠っている間、部屋をくまなく調べた結果、脱出できそうな気配すらなかったのだ。
「ごめん。僕は……」
何もできない非力な自分。
あまりに圧倒的な現実に涙がこぼれそうになる。