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誤解ですクラスメイトです:前編

※バッドエンドですのでご注意下さい


今更、続編というかクラスメイト視点を書いてみました。実はスペック高かった主人公。

大学生活も終わりが近いこの時期、高校時代仲の良かった友人達と飲み会をすることになった。

互いの就活の成果やら近況やらを報告し終えた頃、酒が回り赤い顔をした友人の一人が口を開いた。


「高校の頃さ、俺密かに芳野さんが好きだったんだぁ」


―――お前もかっ!


そんな声があちこちから飛び出す。

芳野さんはウチのクラスの隠れアイドルだったからな。

今更驚くほどでもないカミングアウトだ。



当時、ウチのクラスの女子の中で一番可愛かったのは間違いなく芳野さんだ。


見た目は決して派手ではなく、メイクは多分していなかったし髪も染めてない。

スカート丈だって短過ぎず長過ぎず調度いい。


装いはダサくはないが普通だった。

だが健康的な可愛い顔立ちと艶やかに靡く黒髪、元気にはためくスカートの裾に当時男子共はときめいていた。


こちらを威嚇しているとしか思えないほど自分をカスタマイズさせた女子達や、小学生かと思うほど幼くパッとしない芋みたいな女子達の中では失礼だが肥溜めに蔓のごとく輝いていた。



さぞやっかみも多そうだが、どうしたことかわりと女子からの人気もあった。

何をするにも大して目立つことはなく、男子と特別に親しくするでもなく。

今思えばそれが容姿の愛らしい彼女の処世術だったのかもしれない。


性格的に表立つ子ではなかったので、男子達も彼女をあからさまにアイドル扱いすることはなく、ひっそり心の中で彼女の様子を注目していたのだろう。



俺も勿論そんな男子の一人だった。

あれは二年に上がった始めの頃だ。

隣の席がやたら可愛い子だったので少しドキドキしていた俺。

そう、『隣の席の君』は芳野さんだった。


その日のホームルームは委員決めで、俺は何かと面倒なクラス委員にクジが当たってしまいふてくされていた。

その間に図書委員を決めるクジが発表されたようで教室内が俄然騒がしくなる。


「ええー!? 俺図書委員!? マジ最悪なんですけど!」


クラスのお調子者にクジが当たったらしく、囃し立てる声があちこちで響く。


「しかも相手の女子誰!? え? 山本? 山本って誰だよ、知らねー!」


お調子者が馬鹿みたいにおどけたダミ声で叫ぶと周りから笑いが起こる。

と、同時に俺の前の席の女子の背が跳ね上がった。


確か、この子が山本だったはず。

昼休みには小数で集まりよく知らない漫画を見ていたり携帯を囲んで騒いでいる、根暗系女子。

チラッとその携帯から見えた画像は何かキラキラしたアニメの男だったから、恐らくオタク?なんだろう。

女子にも本当にオタクっているんだなと感心したので彼女のことは印象に残っている。


「ブスだったら最悪だよなぁ!」

「山本とか聞いたことねぇしブスの可能性大だぜ!」

「で、山本ってどいつ?」

「おーい、山本ー!」


こいつらは本当に高校生だろうか。

調子に乗って山本を捜し始めた馬鹿な男子数名。

山本の肩はより一層震え始める。

彼女の容姿はお世辞にも可愛いとは言えない。


「ちょっと、その言い方じゃ山本さんに失礼でしょー!」


女子のリーダー的存在の美沢がデカイ声で悪ノリをたしなめるが、どうも残酷な喜色が隠せていない。


「山本さんもあんなの相手にしなくていいよぉ」


ご丁寧に少し離れた席から猫撫で声で山本の方へ言い放つ。


「おっ、あいつが山本? どれどれ………うわ」


山本を見た奴らの顔がどんどん歪む。

次にどんな悲惨な言葉が飛び出すのか……誰かは好奇心を顔に滲ませ、誰かは愉快そうに、誰かは気の毒そうな悼ましげな顔で、誰かは興味なさげに見守っている時であった。


「あの……」


突如奴らの言葉を遮る者がいた。

隣の席の芳野さんである。


「私、本好きだし、図書委員に立候補したいんだけど、手を挙げるタイミング逃しちゃって……今からでも間に合うかな?」


教壇で進行役をしていた日直の奴に訊ねる。

日直が戸惑いがちに頷くと、芳野さんはホッと息を吐く。

隣だからこそ聴こえた小さなものだった。


「良かった……えっと、よろしくね」


自分に注目が集まっているのに気付くと、少し困ったようにお調子者に微笑む。

お調子者の顔が情けないほど真っ赤に染まるのを、男子達は恨めしそうな目で見つめた。


そんな彼女が周囲の反応を気にすることなく明日提出の化学のプリントを進め始めた頃には、山本の話題なんてみんなの頭から吹っ飛んでいた。


芳野さんと山本は恐らくそんなに親しくはない。

だが芳野さんの席からは山本の顔が良く見えるのだろう。

俺が本当の意味で芳野さんに興味を抱いたのはこの時からだ。




「実は俺も図書委員に立候補したかったんだ」


やはりというべきか、落ち着きかけた教室にそんな狡い声が上がる。

誰かが言い出すだろうと予想できていた。


しかし想定外なのはその相手だ。

まさかの櫻宮。

クラスどころか学校全体の王子様。

次元が違いすぎて嫉妬心も湧かない完璧男だ。


「図書委員面倒だったんでしょ? 代わってくれるよね?」


王子様の爽やかスマイルには強制力が半端なく、芳野さんと同じ委員という幸運に浮かれていたお調子者も泣きそうな顔で頷く他なかった。


櫻宮もまさか芳野さん狙いか……。

多くの男子に絶望の雰囲気が漂う。


肝心の芳野さんはその様子をチラッと確認しただけで再びプリントへと視線を戻す。


櫻宮に熱を上げる女子がほとんどの中で彼に騒がないってのも、普段女子達に相手にされていない男子にとっては高ポイントだったりする。


休み時間、芳野さんは友人に囲まれ櫻宮と同じ委員になれたことを羨ましがられていた。

未だ化学のプリントと格闘していた芳野さんは少し鬱陶しげだ。


「別にそこまで図書委員になりたかった訳じゃないし、代わってもいいけど……」

「本当!? やったぁぁ!!」


あまりにしつこい一人の友人に芳野さんが呆れ気味に折れると、その友人は大袈裟なほど歓喜した。


「じゃあクラス委員は任せたわねっ!」

「は? クラス委員って、ちょ、えええ!?」


こうして芳野さんはクラス委員を押し付けられていた。

あ……もう一人の委員って俺じゃん!

うわっどうしよう。

思わぬ幸運に一人にやけないように必死になった。



それから数日。

流石に次はクラス委員になりたいとは言えないのだろう。

多分芳野さんを追いかけて委員を代えてもイタチごっこになるに違いない。


櫻宮が俺に委員を交換しろと要求してくることはなかったが………見つめられている気がする。

いつもの爽やかスマイルではなく、ただただ真顔でジッと………。

それが物凄く恐ろしく感じるのは俺の被害妄想なのだろうか?


何やら背筋が寒い日々が続いているが、それでも俺は幸せだった。

芳野さんと思いの外仲良くなれたからだ。


もっと女の子らしい雰囲気を想像していたが、委員会で話してみるとホワッと柔らかいながらも気さくだった。

遠いアイドルのように思っていた子が意外と身近に感じられて嬉しい。

まさか芳野さんもあの格闘漫画が好きだったとは。

俺達が楽しく漫画について教室で語った翌日には、格闘漫画が愛読書だとこれ見よがしに休み時間に読んでいる男子が多数現れて可笑しかった。



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