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前編

ストーカーは犯罪、ダメ

クラスメイトであるその人は漫画の中の王子様そのものであった。

風にそよぐさらさらの髪。

色素の薄いきらきらの瞳。

キメ細やかなつるつるの肌。

まさに完璧な美がそこに存在する。


性格も温厚。

誰にでも惜しげなく王子様スマイルを分け与えて下さる。


おまけに勉学もスポーツも右に出るものはいないほどの文武両道。

父親は代議士、母親は大きな病院の経営者、家自体は旧華族で地元の有名な地主という正直現実味のない冗談みたいな存在だ。



彼と初めて廊下ですれ違った際は後光が眩しすぎて「目がぁ目がぁぁぁ!」と悶え苦しむリアクションを取りたくて仕方なかった。

彼のファンに殺されるからしないけどさ。


そう、彼には当然のように多くのファンが存在する。

色々な人間をダイ○ン並みに惹き付ける能力を有しているようで、中には彼に心酔し過ぎてストーカーと化す者も少なくない。


彼の跡をこっそり付け回し彼の私物を漁り、時に色仕掛け、時に脅迫して関係を迫る者が多くいた。

普段優しい彼だが、そんなストーカー達にだけは大変厳しい。


彼が直接ストーカー達に手を下すことはない。

だが信者達にさりげなくこぼすのだ。

「最近○○さんの強い視線を感じるんだ。そういえば物もよく無くなるし、少し気味が悪いというか……いや、俺の考えすぎだよね、忘れてくれ」


ふぅ、と溜め息を吐いたが最後、ストーカー認定を受けた生徒には次の日から壮絶な嫌がらせが待っている。

それに耐え抜き学校に残った生徒は今のところゼロ。

粘った子もいたが、そんな子は突然の交通事故にあったり親がリストラの憂き目に合い学校から強制退場。



怖い、怖すぎる。

目障りな者を直接手をくださず排除してしまう彼は私にとって恐怖でしかなかった。


彼が故意にストーカー達を追い出しているとは決して誰も口にしない。

だが、頭のいい彼が自分の発言の影響力を知らないはずがないではないか。


きっと私以外にも彼の恐ろしさに気付いている人はいるだろうが、彼を悪く言う人間は極刑という雰囲気が口に出すことを許しはしない。


もちろん私も人に言ったことはなく、触らぬ神に祟りなしとばかりに自分から彼に話しかけたり近寄ったりはしない。

決して、しない。




「やぁ芳野さん。また会ったね」


輝く笑顔にやはり「目がぁ目がぁぁぁ!」と叫びたい。

ついでにそのまま天空の城からまっ逆さまにフェードアウトしたいのだが。


「さ、櫻宮君。偶然ですなハハハハ」


偶然という部分を強調するが、それが逆にわざとらしいかも知れないと内心冷や汗をダラダラ流す。


「本当だね。滅多に人の来ない準備室で出会すなんて、ただの偶然とは思えないよね」


美しい笑顔のまま細められた目に、内心だけでなく額にも汗が浮かぶ。


違う違う違う違う!

本当に偶然なんっすよ!

私は断固としてあなたのストーカーとかではないですよ!


たとえ行く先々で出会してしまっても、それは本当に単なる偶然でしかない。

だが櫻宮君は完全に私のことを自分のストーカーだと疑っている……と思う。


彼の私を見る目が出会す度にギラギラしてきてるもん。

骨の髄までしゃぶりつくそうと狙っている捕食者の目ですもん。


殺られる!と思った。

このままじゃストーカー認定されて過去の人達同様にこの学校から消されてしまう。



極力彼の目に写らぬよう努力しているが、ほとんど効果はない。

毎日毎日、それこそストーカーのように彼に出会すのは何の因果だろうか。




それほどまでに私の日常は櫻宮君から始まり櫻宮君で終わる。


今朝だってそう。

閑散とした住宅街を一人通学中に響く後ろからの足音。

殺気を感じ振り返るとそこには櫻宮君が朝に相応しい爽やかな笑顔で立っているのだ。


ヒッと息を呑む私に彼はなんでもない様子で挨拶をする。

しかし目はギラギラと「またお前かよ、俺の周りを彷徨くなこのドブストーカーが」と如実に語る。


私は短く挨拶を済ませて競歩。

曲がり角に達して櫻宮君が見えなくなるとダッシュする。


それも今朝だけでなく毎朝だったりするから堪らない。

運転手付き高級車で送り迎えされていると噂があるが、どうやらそれはデマらしい。




昼は昼でまた出会してしまう。

彼とはクラスメイトなので学校の中で顔を合わせるのは致し方ない。

しかしトイレとか所用で席を立つ時のタイミングも一緒なのは何故。


今だってクラス委員だからって体よく教師に雑用を押し付けられ、こんな物置同然の埃っぽい準備室にやって来たら案の定。

扉を開けると彼は既に居た。

これではまるで私が彼を追いかけたようではないか。


「わ、私は次の時間に使う教材持ってくるように言われたんだ」


気付くと訊かれてもないのに言い訳が口から出ていた。

だから吃ったら余計に嘘臭いんだってば私のバカ野郎。


「そうなんだ。だったら手伝うよ、一緒に教室まで戻ろう」


櫻宮君は断る暇もなく運ぶ予定の教材の殆どを手に取った。

私に残ったのは僅かな量で、そんなところはやはり王子様である。


彼のすらりとした、しかし肩幅はしっかりとした背に暫くぼんやりと彼の後ろを歩いていたが、重要なことに気付く。

このまま人の多い教室の前を彼と一緒に歩くのは危険だ。

ファンからの恐ろしい睨みと悪ければ呼び出しまであるだろう。



「あ! 今日の数学の宿題してなかった! 櫻宮君、ごめん。私急いで戻るね。教材お願いします」


自分なりの演技力を集結させて早口で言いきると、櫻宮君と共に居たのがバレぬよう教室まで全力で走った。

後ろから小さくクスリと笑い声が聴こえた気がした。


そういえば櫻宮君はなんで準備室に居たのだろう。



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