お部屋で
「さ、入ってくれ」
「お邪魔します・・・・・・」
会長に手を引かれて入ったのは、もちろん会長の部屋である。
部屋の中は広く、十畳程度はあるだろうか。白色の家具や壁紙で統一されていて、清潔な印象を受ける。可愛らしい人形がソファの上にあるのもポイントだ。
「あまり、じろじろと見ないでくれ。招いておいて失礼かもしれんが、私も女だ。恥ずかしいこともある」
「配慮が足りませんでした。・・・・・・女性の部屋と言うのは、初めてなもので」
「まあ、いいさ。適当な場所にかけたまえ」
お言葉に甘えて、二人がけのソファに座る。柔らかい感覚が身体を包む。やはりこれも高級品なのだろうか。非常に気になる。
「夕食までまだ少しかかるだろうからな。少し、話でもしようか」
対面にあるソファに身を下ろし、会長が告げる。
話すのは構わないが、正直に言うと、俺にはトークスキルが無い。会長を楽しませることが出来るか、不安が残る。
「そう、不安そうな顔をするな。気楽に話してくれていい」
「気を遣わせてしまってすいません」
「そうだな・・・・・・。最近の学校生活はどうだろうか。副会長に任命した私が言うのもなんだが、楽しく送れているだろうか?」
心配そうに陰りのある紅蓮の瞳をこちらに向けながら、俺に質問をしてくる。彼女に彼女にとっては重要な質問なのだろうが、考えるまでもなく答えは決まっている。
「充実していますよ。会長が楽しくしてくれてますからね」
これは心からの言葉だ。
何の目標もなく、ただ惰性のままに進学した高校。そこに光を与えてくれたのは紛れもなく彼女だったのだから。
「まさか、即答されるとは思わなかったな・・・・・・」
目を見開き、驚いたように俺を見る会長。
「確かに最初は嫌でしたよ。注目は浴びるし、入学早々仕事は与えられるし。だけど、得られるものも多かったんです」
慣れない学校での仕事。見回りでは不良で有名な先輩に絡まれもしたっけ。結局彼はいい人だったけれど。
「ですが、生徒会のおかげで、今があります。充実した、今が」
得意ではない人付き合い。それも生徒会をきっかけに、様々な友人ができた。
勉強だって会長が教えてくれて、苦手な分野も克服できた。
嫌なものなんて、何も無い。
「だから、会長は何も気にしなくていいんですよ」
責任感の強い彼女の事だから、俺を無理矢理に近い状態で生徒会に入れた事を気にしていたんだろう。だからこそ、俺はそれをぬぐってあげなければいけない。
「そう、か。だが、私にはまだ責任が残っている。君が生徒会にいる間は退屈させないようにしなければな。でなければ嘘だろう」
「楽しみにしていますよ。会長の隣は飽きませんからね」
彼女の近くはおもしろい出来事で溢れていて、退屈することはないだろう。入学から半年も経っていない今まででさえ、事件は数知れず起きている。
「ありがとう。・・・・・・ではまず、そのためにおいしい食事にしよう。その後は私とカードゲームでもしよう。約束通り、退屈はさせん」
煌びやかな笑顔。あまりにも眩しくて、思わず目を背けてしまう。
「えっと、今日の夕食はなんでしょうね。おじさんがいいものが入ったって言ってましたけど」
「それはお楽しみだ。母の作る料理は絶品だ。がさつに見えるかもしれんが、母はなんでもできる。無論、料理もな」
「あれだけメイドや執事がいるのにおばさんが作ってるんですか・・・・・・」
訪ねるたびに一列にならび挨拶をしてくれる執事さんとメイドさん。数えたことは無いが、おそらく五十以上はいただろう。。
「母は何もしないのが嫌いでね。使用人たちと一緒に家事をしていたりするんだ」
「俺の考える一般的なお金持ちと違うなあ」
「ふふ、そんなに褒めるな」
「別に褒めてはいませんが」
少し変わったこの家で育てば、少し変わった会長のような人が育つのもうなずける。おじさんもおばさんも少し変わってるし。
「二人とも、そろそろ夕食になるぞ」
ガチャリと音をたてて入ってきたのはおじさんだった。会長と話し込んでいる内に、ずいぶんと時間が経っていたみたいだ。
「父さん、ノックはいつもしてくれと言っているじゃないか」
「そう冷たい事を言わないでくれ。私たちは家族だろう。千くんもそう思うよな?」
「いや、さすがに年頃の娘さん相手にノックなしは・・・・・・」
「千くんまで・・・・・・」
がっくりと項垂れるおじさん。目尻には涙が浮かんでいる。少しなさけない。
「行こう、千。夕食が冷めてしまう。ああ、父さんは放っておいていいぞ。すぐに復活する」
「はあ・・・・・・」
復活しないおじさんを横目でみながら、移動を始める俺たちであった。