ある文通の記録Ⅱ
拝啓 大先生様
もう、やめようと思っていました。文通も、小説を書くのも。でも、なぜでしょう。『あれくらいで心が折れたのか、あのお子様は』と嘲笑う先生の声が聞こえた気がして、こうしてメッセージを書いています。
どうして盗作なんてしているのか。
その前に、先生に聞きたいことがあります。先生の小説は悔しいけれど面白い。それなのになぜ、小説家になられないのです?先生ならば、どこかの賞に出せばひっかかると思うのですが。
この『小説家になろう』というサイトは、確かに快適です。でもきちんと小説家になるのを後押ししてくれるサイトでしょう?先生なら何度でもチャンスがあったはずです。
これは先生のファンとしての純粋な疑問なのですが。
泥棒
拝啓 大泥棒様
返信が遅い。もう、来ないかと思った。そちらから始めたのに勝手に打ち切ろうとするなど、何様ですか。こちらはこれでも忙しく時間もないのですから、少しかんg
拝啓 大先生様
書きかけのメッセージが届いていましたよ。先生にしては珍しいミスですね。ニヤニヤが止まりません。
泥棒
拝啓 大泥棒様
ずいぶん遅くなってしまいました。人のことを言えません。まあこれd、おあいこでしょう。
少し前のことですが、君はわたしに尋ねましたね。なぜ小説家にならないのか、と。質問に質問で返してはいけないと、お母様に教わりませんでしたか。しかしその無礼もm広い心で許し、答えるとするなら、とても簡単なことです。
わたしは、小説で食っていけると思うほど若くもないし夢想家でもない。
もう一つ君、の小説を読ませてはもらえませんか。
物書きより
拝啓 大先生様
そうです。人のことを言えませんよ、先生。てっきりミスを笑ったことにお怒りで、文通をやめてしまったのではと思いました。それと、誤字がひどいですよ?先生、どうかしましたか。
戸惑っています。先生はそんなにリアリストだったのですか?
“小説で食っていけると思うほど若くもないし夢想家でもない。”
この言葉が本当なら、私はあなたに失望します。でも、信じられない。あなたの小説は、物書きとして生きていきたいと心から思っている小説です。本当は、小説家になりたいんでしょう?
泥棒
拝啓 大泥棒様
泥棒さんの小説が送られてこないのですが。まだ感性していないのでしょうか。できれば早くしてほしいものです。
わたしが小説家になろうが漫画かになろうが総理大臣になろうが、君には関係のないことです。そして、一度は軽蔑された見ですから、今さら失望されても痛くも痒くもありません。どうぞ存分に失望なさい。
わたしがした質問はなかったことにされたようす。まったく、君は失礼な人間だ。初めの頃のメッセージを読み返しましたが、君はもう少しへりくだった人でしたよ。どうしてこうなった。
わたしが前に言ったことを覚えていますか。君はわたしの小説を盗みたいわけではないのだと、そう言ったはずです。あの時ははぐらかしましたが、時間もないことですから言っておきたいと思います。これは君のことではありません。わたし自身のことです。
わたしは昔、君のように未熟でした。いいえ、今だってね、偉いことを書いていてもどこに向かっているのかわかりません。人はみな未熟者です。
しかし今よりも未熟だったわたしは、実績も皆無のくせに小説家気取りで、それなのに実績がないことが本当に嫌で仕方なかった。その頃は本当に腕がなかったのです。
注目させる何かが必要なのだと焦り、盗作まがいのこともしました。色々な事情があり、どうしても小説家になりたかったのです。
そんな時でした。どんなことをしても、認めさせたいと思わせる小説家さんに出会いました。子供のような憧れでしたが、一々つっかかっては嘲笑され、何枚も上手だったあの人に成長させられました。もし君がわたしの小説をいいな、と思っているのなら、それは全てあの時の成長の賜物です。あの人に感謝しなくてはと、君に出会って思いましたよ。
しかし今考えると、別に成長したかったわけではなかったのです。ただ本当に、あの人に認めてほしかった。わたしという人間がここにいるのだと、あの人に示したかった。
君とわたしが同じだとは言いません。そんなことを言うと君は怒るでしょう。とにかく、君の小説を詠ませてください。
物書きより
拝啓 大先生様
小説、送ります。
この前も言いましたが、誤字がひどいですよ?小説の方も誤字脱字が多くなっています。お疲れでしたらお休みをとったらどうです?
泥棒
拝啓 大泥棒様
小説、読ませていただきました。例のごとく長編スペクタクル大作、お疲れ様。君は本当に時間が有り余っていると見える。小説を書くのもいいですが、そのために知識をつけるのも大切だと思いますよ。それから、メッセージで送るのではなく普通に投稿してはいかが。わたしは読みに行きますし、勿体ないとは思いませんか。
ああそうそう。誤字脱字の件、読み返すと確かに酷い。申し訳ありません。以後気をつけます。
小説を読んだところ、迷いが見られました。お前は剣道の師範か、と自分でも思いますが、しっかりと太刀、いえ文に迷いが見られたのです。
戸惑いからくる怒りですか。君はどんな感情も怒りと直結しているらしい。困ったものです。困ったと言えば、君は感情がそのまま小説に出ますね。恋愛中に失恋の話は書けないタイプでしょう。図星ですか。
もしこれを若さ故の瑞々しさと呼ぶのなら、わたしも頷かざるを得ません。そんな小説でした。
では純粋にアドバイスを。
普段から、動かない物を題材に小説を書くといいでしょう。ほんの二、三行で構いません。どうしたって台詞などは出てきませんから、描写が上手くなるはずです。なかなか難しいですよ。
ストーリーはだいぶよくなっているように思います。君らしさが出ているのでは。意外性や刺激ではなく、『君が考えた』というのが大切です。誰かを意識しなければ、発想が同じでも不思議に違う印象を受けるものです。
これからもぜひ、執筆活動を頑張っていただきたいものですね。
物書きより
拝啓 大先生様
先生の連載小説が全て完結していました。先生……?いらっしゃいますよね、先生?
誤字脱字もすぐに認めてしまって、少し素直すぎじゃありません?やっぱりお疲れなんですよ。
一つ気になることがあります。
先生はおっしゃいました。
“小説で食っていけると思うほど若くもないし夢想家でもない。”
でも昔は、どうしても小説家になりたかったんですよね?昔は未熟だったと先生は言いますが、やっぱりどうしてもわかりません。
どうして小説家にならないのですか?
先生は、一体なにをそんなに焦っているのですか?
なんの時間がないと言うのですか?
教えてください。
泥棒
拝啓 大泥棒様
君はなかなか鋭い。
それでも、やはり君には関係のないことです。何も気にしなくていい。君はいつものように、わたしに失望していればよろしい。わたしのことを知ろうとしたところで何もありません。そんな生産性のないことはやめて、きちんと小説を書きなさい。
そう、鋭い君の思っている通り、わたしは小説を書くのをやめようと思います。この文通もどきも。
お怒りでしょう。君はすぐに怒る。クールダウンした頃、返事をください。もうすぐエンディングソングが流れる頃ですね。このまま終わりにはしたくない。
物書きより




