二、僕にヒーローは似合いません。
物語といえば大抵、かっこいいヒーローとかわいいヒロインが華麗に敵を倒して活躍するものです。
えぇ。たしかに僕も、小さい頃はそういうものに憧れていました。
勇者を目指したのもそれが理由です。
重装備を身にまとって、赤いマントをなびかせ、魔王を相手に大剣を構えて「さぁ行くぜ!」なんて仲間を統率して敵陣に突っ込んでいく。
それが僕の夢であり、憧れでした。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」
それなのに僕は今、キング・オオイノシシ相手に逃げ回っています。
キング・オオイノシシを誘い出すこと。──これが僕の役目です。
走る先に、ようやく仲間たちの姿が見えてきました。
助かったぁー!
「みんなー! キング・オオイノシシを連れてきたからー!」
僕は大声で叫びながらみんなに知らせました。
みんながこっちに注目します。
「よくやった、ヨーイチ! さすがや!」
グランツェが嬉しそうに僕に向かって駆け寄り、そして大剣を構えなおしてカッコよく僕の横を交錯していきます。
「あとは任せろや、ヨーイチ」
「ごめん、よろしく」
非力な僕を許してください。
そしてまた僕の横を誰かが交錯していき──え?
誰かではありませんでした。僕の横を交錯していったのは攻撃魔法です。
後ろでグランツェが悲鳴を上げます。
「だぁ! ──ぁっぶねぇだろ、ボケ魔法使い! 俺らを殺す気か!」
僕の走る前方にはクレイシスさんが右手を突き出して構えていました。
クレイシスさんがぼそりと何かを言っています。
「オレは退かない。てめぇらが退け」
「はい、ごめんなさいです」
僕は素直に道を開けるようにして逃げました。
また攻撃魔法が僕の横を通り過ぎていきます。
「ええかげんにせぇや! このボケ魔法使い!」
グランツェがキング・オオイノシシと戦いながら叫んでいます。
しかしクレイシスさんは聞く耳持たない様子で、また魔法を放ってきました。
僕は息を切らしながらようやくみんなと合流します。
「みんな揃ってる?」
ラウル君が向かってきた山岳イノシシどもを蹴ったり投げ飛ばしながら、
「雑魚はだいぶ片付いてきたね。あとは僕一人で何とかなるから任せてよ」
クレイシスさんが僕に言います。
「山田、お前はラウルと一緒にイノシシどもを片付けろ。オレはリクとイカレ剣士とともにキング・オオイノシシをやる」
僕はそれに同意しました。
「わかった。──ん? あれ? ちょっと待って」
気付いて僕は、慌ててクレイシスさんを引き止める。
「何か不満か?」
「そうじゃなくて、ウララちゃんは?」
「え?」
言われてそういえばと、クレイシスさんが辺りを見回す。
「あれ? どこかそこら辺にいると思っていたんだが……」
「クレイシスさん、あとお願いします。僕ちょっとウララちゃんを探してきます」
僕はすぐにその場を駆け出した。
「あ、ちょっと待て山田!」
クレイシスさんに呼び止められるも、僕は無視して走った。
◆
クレイシスは焦るようにラウルへ声をかけた。
「ラウル、悪いがここはお前一人で片付けてくれ」
「うん、このくらいの量ならいいよ。ヤマダ君は?」
「答えている暇はない。とにかく頼んだぞ」
「おっけー」
持ち場を任せ、クレイシスはキング・オオイノシシのところにいるグランツェの元へと走った。
駆け寄るクレイシスにグランツェは不機嫌な顔で、
「なんや、お前今頃になって。これは俺の獲物や」
「イカレ剣士。お前はすぐに山田のあとを追え」
「なんでお前の指示に従わな──」
「山田が誘きエサを持ったままウララを探しに行った。キング・オオイノシシの存在は一頭だけとは限らない。お前はすぐに山田のあとを追え。こいつはオレとリクで引き受ける」
「……わかった」
グランツェは大剣を鞘に収めた。念を押すように尋ねる。
「キング・オオイノシシ相手に戦力二人で本当に大丈夫なんやな?」
「くどい。早く行け」
グランツェは舌打ちして踵を返すと、山田のあとを追いかけた。