一、手加減ぐらいしろよ、ちくしょー!
はい、僕は今仲間を連れてサラク平原に来ております。
サラク平原には水色スライムがうようよと生息しています。
「先生。仲間が全員そろいましたー」
「よくやったな、山田。このメンツを全員そろえるとは、さすが勇者志願者だ」
「モラルの問題です。先生」
※ 改めて【第一試験】 水色スライム三十匹、討伐。
「これから何するんや? ヨーイチ」
「ここにいる水色スライムを三十匹討伐すればいいんだ。みんなで手伝ってくれないかな?」
僕は見習いの剣を構えて周囲を見回し、みんなに……みんなに──って、あれ? いつの間にか三人減っている。
「なんや、そういうことやったんか。はよ言ってくれんとフライングで変なモンを討伐したやないか」
グランツェはスライムどころか隣平原に生息するレベル九のワイルドウルフを討伐し、その毛皮を三十枚持っていました。
「…………」
「よし。水色スライム三十匹やな。楽勝」
「待って。実力はもう充分わかったから本気で待って。平等に分配しよう。僕のレベルが上がらなくなる」
「それもそやな。じゃぁお前とウララで十匹。あとは俺がやる。どや?」
「う、うん。それでいいよ」
「ウララは?」
「は、はい。大丈夫です」
「よし。じゃぁやるか」
「待って」
僕は待ったをかけた。
「他の人達が居ないんだけど……」
「あぁ、アイツ等やったら恐らく『試練の洞窟』ん中や」
あーそうですか。スライムは眼中にないですか。
僕は仲間の実力を改めて知ることができた。うん、これも立派な勇者の役目だ。
ほんと。何の為にこのチームが編成されたのか、本気でわからなくなる。
グランツェは先立ってがんがん水色スライムの討伐を始めました。
僕に悩んでいる暇はありません。
「ウララちゃん」
「はい」
「僕達も頑張って水色スライムを討伐しよう」
「あの、ヤマダさん」
「ん?」
「召喚、初めてやるんですけど。ここで試してみてもいいですか?」
「いいよ」
僕は素直に了承した。
きっとウララちゃんのことだ。かわいい子犬とかドラゴンとか、そういうものを召喚するんじゃないかな?
ウララちゃんが真剣な表情で、手持ちの杖を使って地面に魔法陣を描いていきます。
僕はそれを微笑ましく見つめていました。
かわいいな。一生懸命なその姿……ハッ。いかん。勇者としてあるまじき言葉を。
魔法陣が完成し、ウララちゃんは召喚を始めました。
「火をまといし精霊よ。出でよ、リトル・ドラゴン」
うん。やっている姿がすごくかわいい。
──が、すぐにウララちゃんは何かに気付いたようで。
「あ。線一本まちがえちゃいました」
召喚されたのはドラゴンとは全く違う、火をまとった大男でした。
大男は口から巨大な火の玉を吐き出すと、スライム九匹を消し飛ばし、山をも消し飛ばしてしまいました。
僕はそれを見て呆然とするしかありませんでした。
残った討伐の数は一匹。
「ちくしょー!」
僕は泣きながら全力でその一匹に向かっていく。
が、水色スライムは意外に手ごわく、僕だけがひん死の状態という結果に終わってしまった。
※ 【第一試験】 合格。