終、僕たちは何があろうと仲間です!
リクさんとの面会を終え、病院から帰る途中で。
僕とグランツェは見舞いにやってきたクレイシスさんと正面玄関で鉢合わせました。
僕たち三人の間に気まずい雰囲気が流れます。
グランツェが何かを言おうと口を開きましたが僕がそれを止めます。
するとクレイシスさんが鼻で笑って僕に言ってきました。
「何しにここに来た?」
僕は真剣な表情でクレイシスさんに言います。
「パーティ脱退のことは聞きました。リクさんのことも知ってます」
「だったら話は早い。
ヤマダ。オレはしばらくお前のチームを離れることにした。カルロウ教師には伝えたが、リクはまだこのことを知らない。リクにはお前からそう伝えておいてくれ」
「なぜ自分の口でリクさんに伝えないんですか?」
「そや。ヨーイチ使わずとも自分で言えばええやないか」
横から口を挟んできたグランツェを僕は手で制して止めました。
グランツェが不機嫌に顔を曇らせ、そして一言残して先に帰ります。
「あとはお前がやれや、ヨーイチ」
去っていくグランツェを見送り、僕はクレイシスさんに視線を戻しました。
クレイシスさんが笑みを消します。
「オレがずっとお前の仲間で居続けるとでも思っていたのか?」
「思っています。これからもクレイシスさんは僕たちの仲間です」
「勘違いするな。お前と仲間でいたのはお前を一人前の勇者にしろと学校長との約束だったからだ。お前が進級するならば、その約束は果たしたも同然だ」
「本当にその為だけに僕のパーティにいたんですか?」
「そうだ」
「クレイシスさん」
僕は言い返せずにはいられませんでした。
「僕たちは色んな試験を試され、その度に合格してきました。これは僕一人の力じゃできなかったことです。クレイシスさんやみんながいたから僕はここまでこられたんです」
「メンバーならオレが抜けてもいいように数合わせしておいたはずだが?」
無意識に。
本当に無意識というか反射的に、僕はクレイシスさんの頬を殴っていました。
殴った僕の手がじんじんと折れたように痛く、それでいて小刻みに震えていました。
感情的になってしまったと少し後悔しましたが、僕は今この瞬間を迷いたくありませんでした。
あとはもう勢いで一気に心に詰まっていた言葉を吐き出します。
「だったら最初から僕のパーティに入るな!」
クレイシスさんが切れた口端の血を手の甲でぬぐって微笑しました。
「言いたい事、ちゃんと仲間に言えたな」
「え?」
僕はぽかんと間抜けに口を開けてクレイシスさんを見つめます。
「これで進級試験は合格だ、ヤマダ」
「え? し、試験……?」
もしかしてクレイシスさんも僕を試したんですか?
クレイシスさんは答える。
「まぁな。カルロウ教師に最後の試験を頼んでみた」
そ、それじゃ──!
僕は期待に顔を明るめた。しかし、
「だがオレがパーティを抜けるという事実は変わらない」
え?
僕は表情を沈ませ尋ねる。
「どうしてですか?」
「この試験を頼んだのはお前のことが少し気がかりだったからだ。進級すれば新たな仲間が増え、パーティの規模も大きくなっていく。仲間を増やすたびにお前が小さく縮こまっていたんじゃ勇者として話にならない。
だがお前はちゃんと勇者としての自覚ができていた。これならオレも安心してパーティを抜けられる」
「クレイシスさん……」
僕の心がチクリと痛んだ。
「ヤマダ」
名を呼ばれ、僕は顔を上げる。
「お前だから……信頼できるから、今から大事なことをお前に話す。
オレは再び黒魔道師に戻り、これからパーティ・スレイヤーのメンバーに入る。それが奴等の出してきた条件だ」
「条件って、どういうことですか?」
「オレがパーティ・スレイヤーに戻ればリクの黒魔法は解けることになっている」
でもそうなってしまうと、僕たちはこれから敵同士に──
「わかっている。だがリクを救うにはこれしか方法がないんだ」
「クレイシスさん!」
僕はクレイシスさんの腕を掴んだ。
「僕は勇者です。仲間を救うことも勇者の仕事です」
しかしクレイシスさんは僕の掴んだ手を払い退けて言った。
「さっきも言っただろう? ヤマダ。これしか方法はない、と。
次にお前と会う時は敵同士だ。だがこれだけは信じてほしい。何があろうとオレはお前の仲間だ。
──お前がそう、認めてくれるのならな」
「本当に、他に方法はないんですか? パーティ・スレイヤーにならないと本当にリクさんを救うことはできないんですか?」
「……」
無視するように、クレイシスさんは何も答えることなく僕に背を向けた。
僕は語気を荒げて呼び止める。
「クレイシスさん!」
「ヤマダ」
振り返ることなく背を向けたままで、クレイシスさんが言葉を続けます。
「もしオレが化け物に変貌して襲ってきた時は。
──その時はヤマダ、お前がその手でオレを討ってくれ」