終、これは宣戦布告です!
それはお昼時間のことでした。
僕が教室で焼きそばパンにかじりついていた時、教室のドアを激しく開き、武器・防具製造科のエメリアさんがやってきました。
怖い顔して一直線に僕のところに歩いてきます。
僕は思わずパンを口から離して逃げ腰ながらに尋ねました。
「な、ななな、何?」
ダン! と、拳を強く僕の机に叩き込み、エメリアさんは僕に凄みました。
「ヤマダ」
「は、はい……」
「ピンクの花束を受け取ったという噂は本当か?」
どんだけぶっ飛んだ噂になってんですか。
僕は頬を引きつらせながら答えます。
「ち、違います。受け取ったのはピンクの封筒です」
「なに?」
「ですから、ピンクの封筒──」
「ヤマダ」
エメリアさんの顔がさらに近づいてきます。
「は、はい……」
僕はさらに逃げるように答えました。
エメリアさんが言います。
「お前はつくづく頭のめでたい奴だ」
「それ、さっきも言われました」
「なぜ紅白まんじゅうが赤と白なのか、そして苺牛乳がなぜ苺と牛乳の組み合わせなのか。お前は考えたこともあるまい」
どうでもいいと思いました。
エメリアさんは真剣に言葉を続けます。
「赤と白が混ざり合えば、すなわちピンク。
古の日本における「紅白」は源平合戦から始まる。源氏が白旗を、平氏が紅旗を掲げて戦ったことで、対抗する配色として用いられてきた、それが紅白だ」
「は、はぁ。そうですか」
「お前が今回手にした封筒の色はピンク。──つまり」
エメリアさんはそこで言葉を止め、ごくりと唾を飲み込んでから続けました。
「そう、つまりそれは『宣戦布告状』だ」
何かが違うと思いました。
僕は机に入れていたピンクの封筒をもう一度取り出し、その封筒の中にあった手紙をエメリアさんに見せました。
「じゃぁエメリアさんは、ここに書かれている文章も含めて宣戦布告だと言うんですか?」
「それはきっと暗号だ」
あ、あんごぉー……?
目を点にする僕をよそに、エメリアさんはその手紙を奪って机の上に広げました。そして僕の机から勝手に筆記道具を取り出し、消しゴムを手にします。
「見ていろ、ヤマダ」
そう言って、エメリアさんは手紙に書かれたいくつかの文字を消していきます。
僕は慌てました。
「ちょ、エメリアさん!?」
エメリアさんは「どうだ」と言わんばかりの顔で、僕に手紙を返してきました。
「これを見ろ、ヤマダ」
僕はいくつかの文字が消えてしまった手紙を見ました。
手紙はこんな感じに仕上がりました。
『中華麺 ダ す』
なんだよ、中華麺ダすって! 余計意味わかんねぇーよ!
「ところでヤマダ」
「何?」
「これとは別にもう一つの手紙が入っていたはずだが、それはどうした?」
「もう一つの手紙? これしか入っていませんでしたけど」
そんな時でした。
すごく険悪な顔をしたグランツェが教室にやってきて、僕のところまで歩いてきました。
「ヨーイチ」
「え、な、何? なんでみんな僕のところにやってくるの?」
グランツェは僕の手にしているピンクの封筒を指差して言います。
「ヨーイチ。たしかそれ、あのボケ魔法使いからのもらい物やったよな?」
僕は動揺ながらに頷く。
「う、うん、そうだけど。何かあった?」
「それ、どういう流れで受け取ったか覚えとるか?」
僕は思い返します。
「たしか、えーっと、なんだっけ? ほらあの『じゅげむじゅげむ』みたいな。えーっと」
ふと、僕とエメリアさんの目が合いました。
「あ」
僕はエメリアさんを指差して思い出します。
「そういやエメリアさんもこの手紙受け取ってませんでした? その後たしかリクさんに」
「ヨーイチ」
グランツェが僕の言葉をさえぎって言います。
「ボケ魔法使いが俺等のことを裏切りやがった」