終、僕に嘘は似合いません。
白魔法使いのカイルさんから呼び出しを受けた僕は、カイルさんの後に続いて屋上へとやってきました。
向かい合うようにして立ち、僕は不機嫌に尋ねます。
「話したいことって何?」
「そのことだが、ルーキー・ヤマダ。お前はあの黒魔道師のことをどこまで信じている?」
僕はムッとして答えます。
「クレイシスさんは僕の仲間です。勇者が仲間を信じるのは当たり前です」
「伝説の勇者アドバルトは仲間だった黒魔道師に裏切られて命を落とした。それでもお前はアイツを信じ続けるのか?」
「クレイシスさんはカイルさんが思っているほど悪い人じゃありません」
僕の言葉にカイルさんが鼻で笑って言ってきます。
「ルーキー・ヤマダ。お前は思っていた以上にとんだ甘ちゃん勇者だったようだ」
「そう思うのならそれで結構です。僕はあなたのことも貴族勇者さんのことも信用しているわけじゃありません。僕たちは一度ぶつかり合った同業者です。いつ正気に戻るかわからない人の言葉を信じる方がどうかしている。それとついでに言っときますけど、僕の名前は山田洋一です」
「味方の過去にこだわらないお前の考えには感服する。だが全てのものから耳をふさぐのはどうかと思うけどな」
「話はそれだけですか? だったら僕、帰ります」
そう告げて、僕はカイルさんに背を向けました。
カイルさんが呼び止めてきます。
「待て。お前は昔のアイツを知らな過ぎる、エッグ・マツモト」
「……」
少し無言でかみ締めて、僕は静かに訂正します。
「たしかに僕は勇者としてはまだまだのルーキーだし、一人前の勇者としての殻さえ突き破ることのできない卵です。嫌味を言いたい気持ちはわかりますが、僕の名前は山田洋一です。名前ごと変えてくる呼び方はやめてください。反応するまでにムダに考える時間を要しますから」
「そこはテンポの問題だ。あだ名なんてそんなもんだろう?」
テンポなんてどーでもいいです。問題はもっと他にあるはずです。
カイルさんが言葉を続けてきます。
「そんなことよりマウンテン・ヨウイチ」
「山田洋一です。中途半端な呼び方されると物凄く気になります」
「お前のクラスの女子が色恋ごとで騒がしいようだが、もしかして俺にバレンタイン・チョコを渡す計画でも──」
「気のせいだと思います」
「…………」