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四、てめぇら、マジでいいかげんにしろ!


 気合い入れて乗り込んだギガ・ダンジョン。

 古びた城を魔物が乗っ取ったそのダンジョンは、今はものすごく……なんというか、本当にものすごくかわいそうなぐらい破壊された状態になっていました。


「何があった?」


 クレイシスさんが近くの墓標に問い掛けます。

 ──って、ちょ、クレイシスさん?

 するとその問い掛けに、墓標の下から顔だけ出して子供ゾンビが可愛らしい声で答えます。


「勇者にやられたですぅ」


 隣の墓から母親ゾンビが顔を出します。


「このダンジョンはほぼ壊滅状態です」


 次いでゾンビA、ゾンビB。


「クレイシス様。どうか我々をお助けください」

「次に勇者が来れば我々の命はありません」


「そうか……」


 納得し、肩を落とすクレイシスさんに僕は冷静にツッコミを入れます。


「あの、クレイシスさん? 彼らの言う『次に勇者』というのが僕たちなんですけど」

「そうだな」


 敵に『勇者御一行』と思われていない僕たちっていったい……。


「そやけど、ほんまにやるんか? ヨーイチ」 


 グランツェがぼろぼろになった城を見つめて呟きます。


 ……いや、それ言ったらスゲー悪者じゃん、僕ら。


 ウララちゃんも泣きそうになって僕に訴えます。


「ヤマダさんはそんな非情な人じゃないはずです!」


 い、言っとくけどゾンビは敵だからね? ウララちゃん。

 でもそうは思うものの、僕だって弱っている敵に戦いを挑むのもどうかと考え直します。


 イリア嬢がほんのりと頬を染め、僕に言います。


「ヤマダ様にさらわれるという設定もむしろアリだと思います」


 いや、本気で待って。それはそれで何かが間違っているよ。

 僕はイリア嬢に説得を試みます。


「もうこの際ギガ・ダンジョンは諦めて汽車で現地に移動しませんか? その間でもラブ・バラードを作ることはできるはずです。僕たちも協力しますから」


 リクさんが僕に向けて魔弾銃を構えます。


「『HIREN。届かなかったジュリエットの想い』っていうのはどお?」

 そこは明るめのラブ・バラードでお願いします。 


 僕は向けられた銃口を静かに横に退け、イリア嬢に説得を続けます。


「このままだとライブの時間にも間に合わなくなるし、できればもっとこう、効率的に──」


 と、その時です。


 勇ましい足音とともにこちらに大勢の団体さんがやってきました。


 ……なんだかすごく嫌な予感がします。


 その団体さんは全員重装備に身を包み、頭にハチマキ、そしてレベル高そうな武器を片手に怖い顔をして向かってきていました。

 ハチマキに書かれた『イリア命』。

 掲げた旗に『天誅』の文字。

 先頭を歩く人物に、僕たちは見覚えがありました。

 貴族勇者と白魔法使いさんです。その後ろに従えているのはイリア嬢ファンクラブの皆さんなのでしょう。

 二人は僕たちを指差して叫びます。


「あそこに居る見習い勇者が依頼にかこつけて我等のイリりんを誘拐し、独占している!」


 二人の背後にいた彼ら──イリア嬢ファンクラブの皆さんは、その声に賛同し、地を唸らすように僕に向けて罵声を浴びせてきます。


 なんてこった!

 僕は頭を抱えました。

 やはりあの時依頼を知っている二人をメンバーから外すべきではなかった!


『依頼は絶対他人に教えないようにしましょう』


 先生が授業で言っていた教訓が今頃になって脳裏を過ぎります。

「ど、ど、どうしよう……!」

 こんなパニック状態の頭では最良の解決策が浮かんできません。

 でもここはリーダーの僕がしっかりしないと!


 ウララちゃんの表情に怒りが走ります。ぎゅっと手中の杖を握り締めて、

「あんな言い方酷すぎます。ヤマダさんはそんな人じゃありません。私が行って説明してきます」

「ダメだよ、ウララちゃん」

 僕はウララちゃんを止めた。

 そうだ。ウララちゃんを一人で行かせるのは危険すぎる。群がる狼どもの中に子ウサギを入れるようなものだ。

 けど、だからといって僕やクレイシスさん、グランツェが一緒に行けば逆効果に過ぎない。

 こんな時にラウル君が居れば……!

 もうここで頼れるのはリクさんしかいない。

 僕は視線でリクさんに助けを求めました。

 その視線にリクさんが応えて頷きます。

 魔弾銃を構えて、

「──ってちょっと待って! それやっちゃうと僕たち思いっきり敵側になるから!」

 慌てふためく僕とは裏腹に、クレイシスさんとグランツェが好戦的な笑みを浮べます。

 グランツェが指の関節を鳴らしながら、

「敵側上等やコラ」

「どうやら奴等を潰すしか他に方法はないようだな」

「お? 奇遇やな、ボケ魔法使い。ココに来てようやく俺たち意見がおうたな」

「『ボケ』は余計だイカレ剣士。足引っ張るなよ」

「『イカレ』は余計やボケ魔法使い」

 僕はひくひくと頬を引きつらせながらクレイシスさんに言います。

「あの、クレイシスさん?」

「なんだ?」

「潰す以外にも友好、安全、逃走の選択肢が──」

「→潰す」

 速攻コマンド選択!?

「そや、ヨーイチ。ガンガン行こうや」

 なんであんた等そんなに乗り気なんですか?

 グランツェとクレイシスさんが一斉に懐からゴールドカードを取り出して僕に見せます。

「理由は単純だ、ヤマダ」

「俺らはあいつ等を潰してイリりんのライブチケットの先行予約順位を勝ち取りたいだけや」

 その力は正義のためだけに行使してください。

「そういうことでヤマダ」

「ここは俺らに任せろや」

 任せられません。

「アイツ等はオレ達で引き受ける」

「先に行けや、ヨーイチ」

 先に?

 二人の視線が一緒になってギガ・ダンジョンに向きます。

 これって予感的中でしょうか?

「ヤマダ。お前はあの城の最上階でウララとイリア嬢を連れて避難してろ」

 いや、あの、クレイシスさん。僕たちは一応……

 いつまでも動かない僕に向けて、クレイシスさんが手中に黒魔法を生み出しながら苛立つように言葉を続けます。

「ここを一掃する。オレの術に巻き込まれたいのか?」

 手加減無用の無差別攻撃!?

「そやヨーイチ。アイツ等に時間を取られてイリりんがライブに間に合わなければ試験は不合格や」

 そ、そこを言われると何とも……。

 クレイシスさんがてきぱきと指示を出します。

「リク、お前は念のために城の中層階を守れ」

「わかったわ、兄さん」

 するとゾンビA~ZZまでがクレイシスさんのところに這い寄って来て、

「俺たちも戦うゾナー」

「おらたちも仲間の敵討ちやるだぁ」

「打倒勇者だがやー」

 その言葉になぜかウララちゃんが感動して、

「私もゾンビさんと一緒に戦います! 打倒勇者です!」

 う、ウララちゃん!?

 驚く僕に気付いたのか、ウララちゃんがハッとしたような顔で僕を見た後、慌てふためきながらさきほどの言葉を訂正します。

「あ、あの、ヤマダさんのことじゃないですからね。たしかにヤマダさんは勇者ですけど、悪い勇者を打倒なんです」

 そういう問題じゃないよ、ウララちゃん!

 その間にもクレイシスさんがゾンビたちに守備を指示します。

「よし。じゃぁ体格のでかい象さんチームは右だ。白か黒かよくわからないパンダさんチームは中央、行動の遅い残りのカメさんチームは左だ」

 なんで運動会的な配置!?

「あの、クレイシスさん」

「なんだ?」

「一応僕たちは勇者側の──」

「ヤマダ、お前の担当は城の最上階だ」

「そうじゃなくて僕たちは勇者側の──」

「ヤマダさん、こっちです」

 言葉半ばでウララちゃんが僕の片腕を掴んで連れて行きます。

「そ、そうじゃなくてウララちゃん、聞いてる!?」

 遅れてイリア嬢も僕の片腕にしがみついてきます。

「ヤマダ様、イリアも依頼人としてあなたのお傍に居ます!」

 反対側の片腕にいたウララちゃんが怒ります。

「ヤマダさんの傍に相応しいのは私です!」

「違います! イリアです!」

「違います! 私です!」

 僕は言い合う二人の間を裂いて、

「どーでもいいけど! 最上階に避難するのはやめようよ! このままだと僕が魔王に──」

『どうでもよくありません!』

 怖い顔のウララちゃんとイリア嬢に言われて、僕は思わず言葉を飲みました。


 そのまま僕は半ば強制的に二人から最上階に連れて行かれて、そして……。



「ヤマダさんの隣は私です!」

「いいえ、イリアです!」

「ちょ、待って二人とも! ってか、なんで喧嘩になってんの!?」

「ヤマダさんは黙っててください!」

「そうです! 女の喧嘩に口挟まないでください!」

 ええぇぇぇッ! なんでそんな事態になってんの!?


 はたと気付いて見回す最上階。

 最上階──王の間では、幾人ものゴースト達が黒いよろいや悪趣味なかぶとやマントを手に、王座のところで今は亡きダンジョン・ボスを想って泣いていました。


 僕は慌てて二人を止めます。

「ちょっと待って! なんかヤバイよ!」


 すると泣いていたゴーストが僕たちの存在に気付いて言います。


「おや? クレイシス様のご友人たちがどうしてこちらに? まぁ理由はどうあれ、外はレベルの強い勇者どもがうろついていて危険です。ささ、どうぞこちらへ。我々がお守りいたします。

 おぉ、あなたは特にレベルが低い。水色スライムと同じレベルとお見受けします。勇者に襲われる前にどうぞこの防具を。

 ──え? これですか?

 これは……ふふ、そうですね。昨日まで魔王様のご友人であるバラモン様がお使いになられていたものです。気にしないでください。バラモン様はもうここには居ませんから」

 

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