四、おっと。遊びはそこまでだ。
※ 【第四試験】 イリア嬢の護衛。
馬車から出てきたのは、なんとあのイリア嬢でした。
イリア嬢は馬車から降りてくるなり、いきなり僕に抱きついてきました。
「ヤマダ様。イリアはずっとヤマダ様にお会いしとうございました」
「えぇぇぇ!」
いきなりのことに、僕はわけわからず驚きました。
ウララちゃんの目が殺気立ち、魔法の杖を構えます。
リクさんが魔弾銃を構えて僕に狙いを定めます。
グランツェが大剣を抜き放って僕を睨み、貴族勇者も剣を抜き放ち構えます。白魔法使いさんは光魔法を詠唱し始め、クレイシスさんの手中にはどす黒い闇の魔法が生まれ──
「ちょ、ちょっと待って!」
僕は慌てて両手を振り、みんなの誤解を解こうとしました。
「何かがおかしいよ! 彼女が本物のはずがない!」
するとイリア嬢はきょとんとした顔で僕を見つめて不思議そうに小首を傾げてきます。
「イリアは本物でございます。今回の依頼のこと、学校からお聞きになったのでは?」
僕は答える。
「護衛の話ですよね?」
「はい」
「僕たちで本当にいいんですか?」
「あなた方はけして誰も受けないような過酷なクエストをも絶対に断れないパーティだと聞いています」
それ、どんだけ将来崖っぷちパーティですか。
僕は念のために尋ねます。
「あの、今回の護衛内容を一応確認しておきたいんですけど。
護衛というのはファンの方々からあなたの身を守ればいいんですよね?」
「いえ、違います」
え……?
「ファンなら誰もがこのことを知っています。だから今もこうしてイリアには誰も近づかないんです。イリアは必ずライブ前にオリジナルの歌を作ります」
「あー、あの毎年やる予定にないオリジナルの歌だね」
「はい。あれ全部本番前にイリアが即興で作っているんです。今回はラブ・バラードを作ろうと思っています。敵に捕まった姫を勇者が助けに行く、そんな切ない気持ちをイリアは歌いたいんです」
なんだか嫌な予感がしてきました。
イリア嬢は話を続けます。
「ダンジョンで強い敵と戦いながら、勇者は数少ない仲間たちと力を合わせて姫を助けに行く。それを見ている姫の切ない気持ちをイリアは歌いたいんです。想像だけでは歌は歌えません。だからイリアは身をもってこれを体験するのです」
「もしかしてそれ、実践でやろうとしてる?」
「はい」
「……」
僕はこの時になってようやく察しました。
なぜみんな、ライブ前の彼女を避けるのか。そしてなぜ、誰もが彼女の護衛を断るのかを。
呆ける僕を見て、イリア嬢は何を勘違いしてか感謝を言います。
「この歌に相応しい勇者はヤマダ様以外に居ません。イリアは勇気を振り絞って【ギガ・ダンジョンへの通行証】を手に入れてきました。もしかしたら最悪な事態が起こってしまうかもしれませんが……。
でもこれも全てライブを成功させる為!
さぁ。勇気を出して行きましょう、ヤマダ様」
「……」
クレイシスさんがぽんと僕の肩に手を置きます。
「今からでも遅くはない、ヤマダ。お前は手記を遺しておけ。オレは絶対に死なない自信があるけどな」
グランツェが楽しそうに興奮します。
「ダンジョンや、ヨーイチ! ダンジョンといえば死人や! これで経験値が大量に稼げる!」
白魔法使いさんと貴族勇者があっさりパーティから離脱します。
「ごめん。なんか急に魔法の調子が」
「あ。もうこんな時間だ」
ウララちゃんが僕の前に来て力んだ顔で言います。
「ヤマダさん! 私、ヤマダさんがアンデットになったら必ず現世に呼び戻してみせます! たとえヤマダさんの肉体がボロボロになっていたとしても、私だけはヤマダさんのこと──」
リクさんが改めて僕に向けて魔弾銃を構えます。ぼそりと、
「……今のうちに逝っとく?」
「なんで僕だけアンデット化!? なんで歌を作る為だけにギガ・ダンジョン!? 魔王だってそんな目的でダンジョン管理しているわけじゃないと思うよ!」
声を荒げる僕に対し、みんなの反応はとても落ち着いていた。
リクさんがクレイシスさんに尋ねます。
「……そこんとこの事情ってどうなの? 兄さん」
クレイシスさんが肩をすくめてお手上げします。
「魔王だってダンジョンに客が来なかったら経営する意味ないだろ」
「もはや勇者は客扱いッ!?」
どうやらダンジョンとは、僕が想像している以上にとんでも客寄せアトラクションのようです。