四、僕は何かを忘れている。
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心からお礼申し上げます。
はい、恒例の作戦会議です。
議題はもちろん──
「どうすれば【いりあサマーツアー・inあるごにあ】のプレミアムチケットが取れるのか、だ」
違います。
そして顔が近いです、クレイシスさん。
「お前は気にならないのか? ヤマダ」
たしかにそれは僕もすごく気になっていました。
アップリナ大公のイリア嬢といえば、全世界が注目する歌って踊れるトップ・アイドル。和服の似合う黒髪美少女。清楚な印象と愛らしい子犬のような瞳が、すごく萌──
「ヤマダさん!」
「はい、ごめんなさい!」
ウララちゃんの怒りの声に、僕は土下座で謝る。
いや、別に悪いことしているわけじゃないんだけど、なぜだろう?
僕は身を起こして咳払いする。
「とにかく、今は彼女を安全に現地に届ける為の作戦を考えるんだ」
ダン! と、グランツェが僕の前にある机を叩いて迫ってきました。
「きっとそいつは偽モンや、ヨーイチ」
「え?」
「あのイリりんが俺らに護衛を頼むはずがないやろ」
「ま、まぁたしかにそうだけど……」
「お前はカルロウ教師に騙されたんや」
どちらかといえばそっちの方が、僕としては気が楽です。
あーいや、でもほんのちょっとくらいはそんな奇跡の出会いを──
「ヤマダさん!」
「はい、ごめんなさい! 真面目にやります!」
僕は反射的に土下座で謝った。
ふと、クレイシスさんが何かに気付き考え込みます。
「偽者か……」
「え?」
僕は顔を上げてクレイシスさんに問い返しました。
クレイシスさんが言葉を続けます。
「もしかしたらファンの目をこっちに引きつけておいて、本人は汽車で現地へ行く。──ということも考えられる」
そうか!
僕はその言葉にピンときた。
試験の目的はそういうことだったのか!
「さすがクレイシスさん! ありがとうございます!」
「は?」
呆然とするクレイシスさんの手を僕は感激しながら掴んだ。
勇者として、僕はそういう裏設定に気付かなければならなかったんだ。
大事なモノを守れてこそ勇者。
もし村に魔物が襲ってきたら僕達は魔物を村の外へと誘導し、村の安全を守らなければならない。
教科書は七百三十六ページ。護衛法第三十二条──村の安全と保護より抜粋。
僕は燃えてきた。拳をぐっと固める。
「よぉーし! じゃぁ僕達は全力でファンをこっちに誘導し、偽イリア嬢と本物のイリア嬢の身の安全を守ってみせるんだ!」
ウララちゃんが僕の姿に感動し、目を潤ませる。
「カッコイイです、ヤマダさん!」
クレイシスさんが危険な笑みを浮かべます。
「誘導後は任せろヤマダ。黒魔法を全力で叩き込んでやる」
その時は全力で止めさせていただきます。
「俺もや、ヨーイチ。新技連発してやる」
「私も頑張ります、ヤマダさん! 魔界からたくさんの魔物を召喚してヤマダさんをサポートします!」
「……」
僕はテンションを落とした。重い影を背負って項垂れる。
「ごめん、みんな。普通にやろうよ。このままじゃ僕達、進級どころか人生の道を踏み外していきそうだ」
クレイシスさんが僕の肩にポンと手を置いて励まします。
「魔王も最初はそう言っていた」
僕はその時気付きました。
──本当に守るべきものはファンの方々の安全なのかもしれない、と。