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三、なぜか僕らに敵は居ない。


 あーどうも。見習い勇者の山田洋一です。

 今みんなが向こうで頑張って戦っています。

 え? 僕ですか?

 僕は今、一人さみしく隅っこにうずくまってオセロゲームのラッピングを取っています。

 戦闘? そんなの知りませんよ。

 どうせ戦力外通告なんですから。

 僕はようやくラッピングをはがし、オセロゲームを取り出すことに成功しました。

 二つ折りにされた基盤を広げて地面に置いて、僕は首を傾げました。

「ん?」

 なぜか基盤のマス目はすでに、ところどころが白か黒の定石で埋まっています。

「なんでだ?」

 しばらく見ていると、黒の定石が動き出しました。

 ちょっと待って、これ……。

 僕はみんなに目を向けて人数を数え、敵の人数も数えて、そして──

「ってこれヤバくね? 人数ぴったりじゃん! リアルゲームかよッ!」

 まさか勝つまで終われないとか、そんなゲームじゃないよね? これ。

 すると黒の定石が二つ白の定石に挟まれてしまいました。

 戦線に目を向ければラウル君が二匹のゴブリンに挟まれています。

 黒の定石が白の定石へと変わります。

 途端にラウル君が僕に向けてゴブリンを投げつけてきました。

「ぶごッ──!」

 飛んできたゴブリンを正面から受けて、僕は折り重なるようにしてゴブリンとともに吹っ飛びました。

 気絶したゴブリンを退けて、僕はボロボロの体で地面を這いずりながら元の場所へと帰ります。

 ラウル君が悪気ない笑顔で明るく手を振っています。

「ごめんね、ヤマダ君。なんか急にヤマダ君が敵に見えちゃって」

 そ、そういうことなのか。

 僕はようやく地面に広げていたオセロゲームの所に帰ってきました。

 合わせるように基盤外に吹っ飛ばされていた黒の定石が、震えながらマス目のところに戻ってきます。

 あぁ、この黒の定石が僕なのか。

 要するに黒の定石が白の定石に挟まれたり囲まれたりして反転したら、味方が敵になるってことか。

 僕は定石の色と位置を確認します。

 よし。まだみんな大丈夫。

 

 ──キュン。


 僕の頬をかすめて、魔弾が飛んできました。

「…………」

 僕が驚き目で固まっていると、リクさんが真顔で謝ってきます。

「なんだか急に敵意が込み上げてきたの」

 リクさん。あなたの色、思いっきり黒です。

 そんな時でした。

「うわぁぁ!」

 グランツェがゴブリンに背後をとられて挟まれてしまいました。

「グランツェ!」

 僕が心配に叫んだ途端、急にグランツェがゴブリンを目の前にして武器を落とします。

 戦々恐々とした顔で地面に崩れ折れ、両手を顔に当ててナヨナヨと泣き始めました。

「なんでそんな俺ばっかりイジメるんや。ひどいやろ。泣いちゃう」

「グランツェ!」

 なんてこった! 反転しただけでキャラ崩壊するというのか!?

「きゃぁぁ!」

 黒の定石が白の定石に囲まれています。

 ──って、今更だけど多くないか? 白の定石。

 囲まれたのはウララちゃんでした。

 ウララちゃんの黒の定石が白の定石に変わります。

「ウララちゃん!」

 僕は心配に叫びました。

 するとウララちゃんが急に暗く俯き、髪に結んでいたゴムを取りました。

 ぱさりと、ウェーブかかった長い髪が色っぽくウララちゃんの顔に流れ落ちてきます。

「おぉ……」

 僕はなんだかドキドキするような鼓動を感じました。

 ウララちゃんはかけていた眼鏡を外し、戦意に満ちた勇ましい顔を上げて、そして──

 いきなり怒涛のごとく吼えます。

「さっきからうざってぇんだよ、てめぇら!」

 ビリビリとした空気がみんなを一瞬で凍らせました。

 ウララちゃんは魔法の杖を地面に突き立てると、難しそうな魔法を描き始めます。

 魔法陣が完成したようです。

 ウララちゃんは悪魔のような笑みを浮かべて言いました。

「出でよ、ドラゴン」

 完成した魔法陣が巨大化し、大勢のゴブリンが地面の中に引きずり込まれていきました。

 ゾッとする光景です。

 全てのゴブリンを地面の底に引き込んだ後、まっさらな大地となった場所に一人佇み、ウララちゃんはフッと鼻で笑います。

「線一本間違えて全員地獄に堕としちゃった」

 怖ぇぇぇぇよッ! ウララちゃん!

 僕とラウル君でウララちゃんのところに駆け寄ってウララちゃんを元の色に戻します。

 ウララちゃんはまるで夢でも見ていたかのように、きょとんとした顔で両手を目に当てる。

「あれ? あれれ? 眼鏡眼鏡……」

 良かった。元に戻ってくれたぁ。──ってその髪型可愛すぎるよ、ウララちゃん!

 地面を手探りするウララちゃんに、僕は側に落ちていた眼鏡を拾ってウララちゃんに差し出す。

 眼鏡をかけてウララちゃん。僕を見つめてにこりと笑う。

「ありがとうございます、ヤマダさん」


 その後グランツェにも駆け寄り、元のグランツェに戻します。

「お? ヨーイチ。どうしたんや?」


 残る敵は二人。

 貴族勇者と白魔法使いの男です。

 僕はウララちゃんとラウル君、グランツェ、リクさんを引き連れて駆け寄ります。

 すると二人と対峙していたクレイシスさんが急に怒鳴ってきました。

「馬鹿! 来るなヤマダ!」

「あ」

 気付いたが、すでに遅し。

 基盤の定石が全て黒になったのは言うまでもありません。



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