三、それはどうでもよくないです。
町に到着した僕たちは、学校の指示通り、さっそく町長の家に依頼を受けに行きました。
町長の家に辿り着いた僕たちは、玄関先に立っていた町長らしき男性を見つけました。
きっとこの人が町長なのでしょう。たしかにそれらしい格好をしています。
彼の頭上には金色の吹き出しが付いていました。
その吹き出しにはケーキの絵が描かれてありました。
「…………」
僕は町長の吹き出しを見つめたまま真剣に、声を掛けようかどうか本気で悩みました。
「──って、何してんのやヨーイチ」
無言のまま町長と向かい合う僕の背後から、グランツェが苛立たしく声を掛けてきます。
僕はグランツェへと振り返り、吹き出し部分に指を向けました。
「え、だって……」
なんでケーキの絵?
普通はクエスチョンマークとかお金袋の絵とか巻物の絵とか宝箱の絵とか──
ウララちゃんが心配そうに尋ねてきます。
「話しかけないんですか?」
この違和感は僕だけですか?
するとクレイシスさんが真顔で会話に割り込んできました。
「いや、もしかしたらコイツは町長じゃないかもしれない」
お。さすがクレイシスさん。僕も同感です。
「依頼人の吹き出しはドクロマークが普通だ」
話しかけたくないです。
ラウル君も会話に割り込んできます。
「じゃぁ苺の絵なら無難そうじゃない?」
苺の意味がわかりません。
「ぐげっ!」
不意打ちで背後から、リクさんが僕を蹴り退けてきました。
そのままリクさんは町長らしき男性に声を掛けます。
「ゴブリン退治で来ました。依頼をください」
すると男性はすごく笑顔になって、
「おお、君達かい。学校長から話は聞いているよ」
どうやらこの男性が町長で間違いないようです。
僕は地面から起き上がって、町長と話を続けました。
「ゴブリンはどこにいますか?」
「ゴブリンはこの町の外れにある【廃墟の炭鉱所】に住み着いている。彼らはとても凶暴で危険だ。ぜひ頑張って、スーヤの宝石を取り戻してきてほしい。
旅は過酷なものになるだろう。君達の役に立つかはわからないが、これは私からのささやかなプレゼントだ」
僕は『生命回復剤』と『毒消し草』、『妖精の粉』に『パワー増幅剤』そして『町長の食べかけのアメ』をもらった。
僕は無言で『町長の食べかけのアメ』だけはそっと返した。
そのアイテムはご自分で消費してください。
町長は話を続ける。
「余談ではあるが、私の頭上にある吹き出しの絵なんだが──」
僕を押し退けてクレイシスさんが苛立たしく催促する。
「そんなことはどうでもいい。早くクエスト依頼をしろ」
どうでもよくねぇ!
「待って!」
僕は慌てて叫び、待ったをかけたが。
町長はにこりと笑って、
「それじゃ、君達の健闘を祈っているよ」
町長の吹き出しの絵が消えて、僕の頭上に【奪還依頼】と金色の文字が現れました。
「嘘だろぉぉぉッ!」
僕は町長の服を掴んで泣きわめきました。
「何してんのや? ヨーイチ」
「行くぞ、ヤマダ」
「ヤマダさん?」
「放置でいいと思うわ」
「ボクたち先に行くからね」
仲間達の呼びかけをよそに、僕は泣きながら町長の服を掴んで激しく上下に揺する。
「頼むから教えて。ほんと本気で教えてください。あの吹き出しのケーキの意味はなんですか? なんでケーキにしたんですか?」
「…………」
もう、今夜は眠れそうにないです。