三、気にするところはそこですか?
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心よりお礼申し上げます。
人は誰でも、他人に言えない悩みや過去があるものです。
「なんや、アイツ。急に態度悪ぅなったな」
目的の駅に到着した僕たちは、駅のホームで二手に分かれることになりました。
無言でどこかへ去っていくクレイシスさんとリクさんの背中を見つめ、グランツェがふてくされたようにそう呟きます。
僕は重いため息を吐きました。
何もこんなときにチームばらばらにならなくてもいいじゃないか。
「パーティ・スレイヤー言うたら魔王を支持する闇組織やろ。普通やったら国際指名手配されているもんやないんか?」
「わかんないよ、そんなこと。学校長もそういう事情とか何も話してくれなかったから……」
ラウル君が心配そうに僕の顔を覗き込みながら問いかけます。
「彼等どこかに行っちゃうよ? 呼び止めないの?」
「……」
僕は悩みました。
ウララちゃんが僕の前に回りこんで、両拳をかわいくギュッと握り締め、真剣な表情で僕に言います。
「二人は私たちの大事な仲間じゃないですか。呼び止めましょう、ヤマダさん」
そうだね、ウララちゃん。
僕は意を決し、二人を呼び止めることにしました。
勇者たる者、仲間の過去を気にしたらいけないんです。
僕は踏み出しました。
「ちょい待てや、ヨーイチ」
グランツェが僕の肩を掴んで引き止めます。
僕は首を傾げてグランツェへと顔を向けました。
「アイツ等呼びに行くの、ちょい待てや……」
複雑そうな表情をにじませて、グランツェは気まずくそう言います。
僕は苛立つ心を抑えられませんでした。
「なんでだよ? グランツェ」
「ヨーイチ」
「何?」
「お前、どう思う?」
「仲間だよ。リクさんもクレイシスさんも──これから先、誰にどんな過去があろうと僕たちは仲間だ」
「違う、そういうことやない」
「え?」
グランツェはぽりぽりと頬を軽く掻きながら言いにくそうに、
「俺ずっとアイツのこと見習いや思て『魔法使い』って格下で呼んでいたから、その……いきなり『魔道師』って言い換えたら……嫌やないか思うて」
気にするところはそこですか?
僕たちはリクさんとクレイシスさんを追いかけました。
やっと二人の背を見つけ、僕は叫びます。
「待ってよ、二人とも!」
するとクレイシスさんが足を止めてくれました。
リクさんも足を止めてクレイシスさんに尋ねます。
「どうしたの? 兄さん」
「……」
背を向けたままの二人に、僕は訴えました。
「第三試験はみんなでゴブリン退治に行くんだろう? 過去がなんだよ。チームワークがないと勝てない相手なんだから、今更──こんなところでバラバラになることないだろ!」
僕の想いは届いたのでしょうか?
リクさんがクレイシスさんに尋ねます。
「──だそうよ、兄さん。どうするの?」
クレイシスさんは静かに、持っていたオセロゲームに視線を落としました。
ぼそりと呟きます。
「リク」
「何? 兄さん」
クレイシスさんは自嘲するように鼻で笑って言葉を続けます。
「……今更だよな」
「そうかしら?」
「これを買った時にお釣りをもらい損ねたんだ」
「諦めて兄さん。今頃きっと募金箱の中よ。植樹に貢献したと思って前向きに考えるべきね」
「自分の金が植樹に使われたかと思うと、今度から山の中で気軽に攻撃魔法が放てなくなるな」




