三、ライバルなんてどうでもいいんです。
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勇者にライバルはつきものです。
僕の場合、そのライバルが魔王だったなら物語に面白みがあるのですが、はっきり言って僕はそこまで強くありません。
僕とVSできるのはせいぜい水色スライムくらいです。
一体いつになったら勇者らしく天空の鎧に赤いマント、背中に大剣を携えて、魔王城が見える断崖に佇み、背後にいる仲間に向けて『ここまで来たんだ。もう後には引けないぜ』などという台詞をカッコ良く言えるのでしょうか。
先が遠すぎて見えません。
──そんなことはさておき。
僕達は一つ遅れの汽車でようやく出発することができました。
ひとまず安心です。
これから血もなく汗もなく涙もなく、快適な道のりを行くゴブリン退治の冒険が始まるわけですが……。
なんだか自分で言っていて、すごく虚しいです。
ふと、車窓から外へと視線を移すと、広い草原で巨大な亀の魔物が暴れていました。
中規模パーティが十チームほど、協力し合いながらその亀と戦っています。
僕は窓辺に軽く頬杖をつき、その光景を見ながら「ふぅ」とため息を落として呟きました。
「そろそろ仲間を増やしていった方がいいのかなぁ……」
僕の二つ隣──三人腰掛け椅子の端──通路側に座っていたラウル君が、弁当をはむはむと食べながら他人事のようにこう言います。
「増やしてもいいけど、弁当はもうないよ?」
弁当なんてどうでもいいんです。
僕としては買い占めた弁当を短時間で全部食べてしまったラウル君の胃袋が気になりますけど、今はどうでもいいんです。
ただ肝心なのは──
「どうすればロイヤルストレートフラッシュが出来るか、だ」
僕の向かいの窓際席に座っていたクレイシスさんが、トランプを片手に真顔でそう言ってきました。
僕は「はぁ」と重いため息をこぼします。
トランプなんてどうでもいいんです。
ただ肝心なのは──
「なんや、魔法使い。負けそうやからってヨーイチにアドバイスもらうつもりか?」
クレイシスさんの隣で、グランツェがトランプを片手に勝気な笑みを浮かべていました。
癪にさわったらしく、クレイシスさんが不機嫌な顔で手持ちのトランプの裏側をグランツェに突きつけ言い返します。
「だったら勝負してみるか? イカレ剣士」
「ええで」
二人は同時に手持ちのトランプを公開しました。
「くらえ、クソ魔法使い! 俺のは『ロイヤルフラッシュ・きゅーてぃ萌え萌え魔法少女』や!」
「残念だったな、イカレ剣士。こっちは『ラブリー・てぃくるニャンにゃんメイド娘』だ」
「──って何の勝負!? それ!」
僕は突っ込まずにはいられませんでした。
どうやら駅の売店でパーティの一人がゲットしたのは、謎のトランプアイテムだったようです。
アイテム収納袋がいっぱいになったら真っ先に捨てようと思います。
ふと、僕の隣──ラウル君と僕との間に座っていたリクさんが、淡々とした口調で話を戻してきました。
「さっき仲間を増やすって呟いていたけど、あと何人の勇者を増やすつもり?」
ひどいです、リクさん。僕に不満があるのはすごくわかりました。
ちょっと隅っこにうずくまって泣いてもいいですか?
するとリクさんの言葉を受けて、僕の向かいの通路側に座っていたウララちゃんが、はっと顔を上げて驚きます。
「え! ヤマダさんって増殖できるんですか?」
何の不思議ですか、それは。
もしかしてウララちゃん……天然ですか?
そんな時でした。
「おやおや。間抜け勇者のパーティには、こんなにかわいい子猫ちゃんが三人もいるのかい?」
見知らぬ声の闖入に目を向ければ、見下すように僕らを観察する金持ちの坊ちゃん然とした男がいました。
歳は僕達より少し上だと思われます。
白い上下のスーツに、胸ポケットには真っ赤なバラ。
そのバラを優雅な仕草で手に取り、男は軽くバラに口付けると微笑みながらこう言いました。
「このパーティから何人か引き抜いて、ボクちんのパーティに入れちゃおうかなぁ」
「なんやと!」
グランツェが喧嘩腰になって立ち上がります。
そんな時でした。
また別の方向から声が掛かります。
「ルーキーのパーティ崩しは止めなよ、勇者」
また新たなキャラの出現です。
白い法衣をまとった強そうな魔法使いの男です。
この人も、歳は僕達より少し上だと思われます。
魔法使いの男はすぐにクレイシスさんへと目を移しました。
そのまま二人は無言で睨み合います。
知り合いなのでしょうか?
魔法使いの男は何を思ったのか、急に鼻で笑って小馬鹿にするように言葉を続けました。
「こんな奴がいるパーティなんだから崩しても意味がない。放っておいてもこのパーティは自滅する。
──そうだろう? 元パーティ潰し・黒魔道師クレイシス」