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もふもふ王子はお墓の下のから

作者: 碧凛睡
掲載日:2026/09/15



 異世界の小さな村には、古い言い伝えがあった。


 村はずれのお墓に花を供えると、いつか「もふもふの守り神」が現れて、寂しい人のそばにいてくれる――と。


 私は、その言い伝えを少しだけ信じていた。


「おじいちゃん、今年も来たよ」


 両親を亡くした私にとって、おじいちゃんのお墓は心の支えだった。


 白い花をそっと供えた、そのとき。


 ぽこん。


「……ん?」


 墓石の横の土が、小さく盛り上がった。


 ぽこん。


 また盛り上がる。


「ま、まさか……」


 土の中から、


 もふっ。


 真っ白な毛玉が顔を出した。


「…………」


「…………」


 大きな耳が、ぴこぴこ動く。


「……こんにちは?」


 すると毛玉は、


『こんにちは』


「しゃべった!」


 驚く私をよそに、毛玉は一生懸命、土から這い出してきた。


 その姿は、小さな白い獣。


 丸い体。

 短い足。

 ふわふわの尻尾。


 あまりの可愛さに、私はしゃがみ込んだ。


「あなた、どこから来たの?」


『ここ』


「……お墓から?」


『うん。ずっと寝てた』


「寝てたんだ……」


『寒かったから、出てきた』


 私は思わず笑った。


「じゃあ、うちに来る?」


『いいの?』


「うん。温かいスープもあるよ」


『行く』


 返事が早かった。


 その日から、白いもふもふは私の家に住み始めた。


 名前は「モフ」にした。


「モフ、今日はパン焼いたよ」


『食べる』


「お茶もあるよ」


『飲む』


「お昼寝する?」


『する』


「……ずっと寝てない?」


『幸せだから』


 そんなモフとの暮らしは、毎日が穏やかだった。


 ところがある朝。


「モフ?」


 いつもの場所にいない。


 慌てて探していると――


「誰だ!」


 家の外から、若い男性の声がした。


 扉を開ける。


 そこには、銀色の髪をした青年が立っていた。


「……モフを知らないか?」


「え?」


「白い獣だ。俺の大切な――」


 青年の頭の上で、


 ぴこ。


 白い獣耳が動いた。


「…………」


「…………」


 青年の後ろから、ふさふさの白い尻尾が出ている。


「……モフ?」


 私が呼ぶと、青年は固まった。


「……なぜ分かった」


「尻尾」


「…………」


「それと耳」


 青年は真っ赤になった。


「……俺は月の精霊だ」


「はい」


「長い眠りから目覚めた」


「はい」


「そして、お前に拾われた」


「……はい」


 青年は少し困ったように笑った。


「本当は、ずっと人間の姿になれなかったんだ」


「どうして?」


「誰かを好きになったら、姿を変えられると言われていた」


「……え?」


 青年は私を見る。


「君が毎日、俺にご飯をくれた」


「うん」


「寒くないかと毛布をかけてくれた」


「うん」


「頭を撫でてくれた」


「……うん」


「だから」


 彼は少し照れながら笑った。


「気づいたら、人間になっていた」


 私は頬が熱くなった。


「じゃあ……私のこと、好きなの?」


「うん」


 即答だった。


「とても好きだ」


 その瞬間。


 青年の耳が、ぴこぴこと嬉しそうに動いた。


 私は思わず笑ってしまう。


「ふふっ」


「笑わないでくれ」


「だって……可愛い」


「俺は精霊王なんだけど」


「でも、もふもふ」


「…………」


 青年は諦めたように目を細めた。


「君になら、何と呼ばれてもいい」


 そう言って、そっと私の手を握る。


「これからも、君の隣にいていい?」


「うん」


 私は笑って頷いた。


 すると彼の尻尾が、ふわりと私の手に巻きついた。


「……尻尾まで甘えん坊なんだね」


「これは勝手に動く」


「ふふっ」


 村では今でも言われている。


 お墓に花を供えると、もふもふの守り神が現れる。


 でも私は知っている。


 あのもふもふは、私を守るために来たのではない。


 ただ――


 寂しかった二人が、もう一人にならないために出会ったのだ。


 今日も隣では、銀色の髪と白い耳を持つ彼が、幸せそうにお昼寝をしている。


「……モフ」


「ん?」


「おやつ、できたよ」


「起きる」


「やっぱり食べ物には弱いね」


「君が作るものだから好きなんだ」


「もう……」


 小さな家に、二人の笑い声が響いた。

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