ポロッコ・テンテーン 〜 自分が正しいと信じた人間が、一番ひどいことをする 〜
クレイジーエンジニアさまからいただいたテーマ『自分が正しいと信じた人間が、一番ひどいことをする』で書きました。
アイデアは別サイト『作家でごはん』の平山文人さまの『あなたならどう書く? 作家性が浮かび上がる五つの物語https://sakka.org/training/?mode=view&novno=21836』の4つめのお題からいただきました。平山さまより了承は得ております。
「なんて書いてあるんだ?」
文字の読めないチッポが首を傾げて聞いた。
全員がまるで制服のように白いワイシャツに黒ズボン──狭い部屋に四人の男たちが集まり、椅子に座ってノートパソコンの画面に文字を追うリーダー──ポロッコ・テンテーンのつむじを見つめるように立っている。少し離れて黒いツナギ姿の女性が一人、腕を組んでポロッコの言葉を待っていた。
「ボスはどんな指令を送ってきた?」
長身の男、トールが画面を横から覗き込み、驚くように目を見瞠いた。
「まさか殺しじゃねーだろうな……」
短く刈り上げた頭のハーゲイが気弱そうな声を漏らす。
「俺たちゃそんなの、したことねーぞ」
マフィアのボスから送られてきたメッセージを読みながら、ポロッコはだんだん顔を蒼くしていた。深くため息を吐き、ノートパソコンを閉じた彼に、すぐ横で一緒にメッセージを読んでいたトールが言う。
「……読んじまったよ。おいおい、レベル『鷲』かよ。しかも内容が……」
チッポがみんなに聞いた。
「レベル『鷲』ってなんだ?」
ハーゲイがツッコむ。
「ばかチッポ! 組織内の用語ぐらい覚えとけ!」
「レベル『鷲』は最重要任務、必ず遂行しなければならないことだ」
トールが説明し、ポロッコと同じく顔を蒼ざめさせた。
「しかも……内容がヤバい」
「教えて、ポロッコ」
それまで黙っていたただ一人の女性、ナーナミが口を開いた。
「どうせ実行役は私なんでしょう?」
ふー……と深く息を吐くと、ようやくポロッコがボスからの指令内容をみんなに伝える。
「シナコラ上院議員の小学生の娘を拉致し、汚して、その映像を録画しろとのことだ」
ナーナミの顔が蒼醒めた。組んでいた腕が、自分の心を守るようにきつくなる。
「なんだよそれ!」
先頭を切って声をあげたのはチッポだった。
「俺たちゃマフィアだけど、そんなことするやつらじゃねーぞ!?」
ハーゲイが同意する。
「そーだよ! オレたちマフィアだけどよ、仕事は裏カジノの運営だろ! 児童ポルノなんか撮影する仕事じゃねーよな!」
「ポルノどころじゃない」
たしなめるように、トールが言う。
「強姦して、廃人にするまでをビデオに収めろと書いてあったんだ」
狭い部屋が誰もいないかのように静まり返る。
「だ……」
チッポがたまらず口を開いた。
「誰がやるんだ、そんなの!? 少なくとも俺っちはロリコンじゃねーぞ!?」
いつもならチッポの言葉尻を捕まえてジョークで返すハーゲイが何も言えなかった。
「ボスの命令に逆らうことはできない」
辛そうな顔でトールが言う。
「通常なら破門で済むところだが……。レベル『鷲』に背いたとなると、それどころじゃない」
「……わかった」
覚悟を決めたように、ポロッコが笑顔を作り、みんなに言った。
「この仕事は俺が一人でやる。みんなは通常通り、裏カジノの開催のほうを頼む」
「ぽ……、ポロッコ!?」
チッポが声をあげた。
「だ……、だってあんたは妹のチョンチョンを──。忘れたのか!?」
「忘れるわけないだろうが!」
トールがチッポをたしなめる。
「自殺したチョンチョンを──彼女を汚した腐れ野郎どもを俺たちがぶちのめし、ナーナミさんが──したんだ。あのことは……思い出したくはねぇが、忘れることだってできねぇだろ。しかし──」
トールがポロッコを見つめた。
「あの腐れ外道どもと同じことをするのか? 他ならぬおまえが? 最愛の妹を、あのことで失ったおまえが?」
ポロッコは何も言えなくなった。
仲間たちの手前、冷静を装っていたのが崩れそうになるのを、頭を抱えて必死で抑えた。
テーブルにポロッコの顔から大量の汗が滴り落ちる。
「対象を変えることはできないかしら?」
ぽつりと呟くようにそう言ったナーナミに、全員が振り返る。
「そうか……」
それ以上何も言わないナーナミの意図を汲み取って、ポロッコがうなずく。
「……そうだな。俺たちチームは正義だと思わない仕事はやってこなかった。いつだって正義と思えるほうを選んできたんだったな」
チッポが口を挟む。
「えー? 裏カジノの運営は正義なのか?」
「あれは正義など関係ないこととしてやってるんだ」
トールが答えた。
「命令されてやってるだけだ。何より腐ったブルジョワどもがカネを失うことなんて、どうでもいいことだ。イカサマで存分に巻き上げてやっても良心は痛まない」
ハーゲイが聞く。
「じゃあこの仕事、やらないのか?」
ポロッコが答える。
「やらなければ最悪のペナルティが待っている。何しろレベル『鷲』の仕事だ」
「──あっ。わかった、つまり……」
チッポが楽しそうに言った。
「ボスを殺すんだな?」
ジョークのつもりで言ったのに、ポロッコもトールもナーナミも真顔で黙っているので、チッポはびっくりしてしまった。
「ほ……、本当に!?」
盗聴されているかもしれない、部屋に隠しカメラがあるかもしれない。ポロッコは紙にボールペンで文字を書くと、手で隠しながら、みんなにそれを見せた。
【ボスはナーナミさんの能力を知らない】
====
事前の打ち合わせをするということで、ポロッコチームの五人ともがボスの家に呼び出された。
門に設えられた呼び鈴のボタンを押すと、警護の男の声が返ってくる。
『五人とも顔認証OKだ。入ってこい』
自動でゆっくりと開いた門が五人を招き入れる。
その奥には広大な前庭が広がっている。
小声でチッポが隣のトールに訊ねる。
「ほ……、本当にやっちゃうの?」
「拾われた恩はある」
トールは表情を変えずに、小声で答えた。
「しかし、それ以上の恨みがある」
敷地は広大だが、見た目はふつうの金持ちの個人宅だ。しかしその実強固なセキュリティに守られている。彼らが組織に属し、重要任務を言い渡されたばかりの者でなければ、門を潜るのも命がけであったろう。
長い廊下を進むと、ボスの部屋の重厚な扉があった。
脇で待ち構えていたスキンヘッドの大男からボディーチェックを受け、武器を隠し持っていないことを確認されると、五人はようやく部屋の中へ通された。
「ご苦労」
重厚なマホガニーの机を前に、ふんぞり返って葉巻を片手に、ボスが彼らを迎えた。
「よく来たな。指令の内容のことは──」
ボスの首が胴体から離れ、飛んだ。
チッポとハーゲイがびっくりして声をあげる。
「ナーナミさん!」
「いきなりかよ!」
「おまえら!」
ボスの両脇についていたボディーガードが懐から銃を抜こうとして、一瞬で頭部を失い、分厚い絨毯の上で屍となった。
「こういうのは先手必勝です」
ナーナミがボディーガードの持っていた銃を奪う。
「相手は悪人──。正義は私たちにあります。躊躇していてはやられますよ。──はい、これ」
ナーナミが奪った銃をポロッコとトールに投げる。二人が手にしたそれを見ながら、困ったような顔になった。
「俺ら……人を殺したことがない」
「警備の人員の数が尋常じゃありません」
ナーナミが血のついた指先をボスのスーツで拭いながら、言った。
「私がいくら暗殺のプロをやっていた過去があって、ダイヤモンドの刃を爪に仕込んでいるからといって、首をはねているうちに切れ味が鈍ります。私一人ではここを脱出する前にやられます。──援護を!」
「わかった」
ポロッコはそう言うと、銃を掲げた。
「人を殺したことはないが、銃の扱い方は訓練してある」
五人が廊下へ出ると、警備の黒服たちが向こうから駆けてきていた。銃を抜くなり発砲してくる。
「──早いな!」
ポロッコとトールが急いで部屋に戻りながら言葉を交わす。
「どこかで見てやがったんだな、部屋の中の様子を」
「ドアは開けておいてください!」
ナーナミの言う通りにドアを閉めずにいると、黒服たちが入口に押し寄せた。ポロッコたちに銃を向けたその手を、陰にいたナーナミが薙ぐ。ダイヤモンドの刃が鞭のように伸び、一瞬で三人の腕が床に落ちた。
銃を持ったその腕を、ナーナミが蹴る。
「ひいっ!?」
自分たちをめがけて床を滑ってきた腕に、チッポとハーゲイが悲鳴をあげた。
「銃を取れ!」
ポロッコが命令する。
「う……撃ったことねーよ」
「大丈夫だ! なんとかなる!」
二人をポロッコが鼓舞する。
「年端もいかない少女にひどいことをしようとしたボスは悪だ! 正しいのは俺たちのほうだ! 神様は見てくれている! 力を貸してくださるさ!」
「そ……、そうか!」
「正しいのは俺たちだもんな!」
「そうだぞ、おまえら」
トールも二人に言い聞かせる。
「『ダイ・ハード』を観たことがあるか? ショボいオッサンが『ツイてない、ツイてない』とぼやきながらも、物凄い大活躍で、一人でテロリスト集団を壊滅させちまうんだ。なぜショボいオッサンにそんなことができたか? それはオッサンが正義だったからだ!」
「ヒョオ〜……」
「なんか力が湧いてきた!」
入口に新たに五人の黒服が銃を構えて現れたその腕をすべて斬り落とし、ナーナミが静かに叫ぶ。
「斬れ味が落ちます! 援護を!」
廊下を鳴らして靴音が近づいてくる。
黒服の山を踏んで、ポロッコは顔を覗かせると、連続で発砲した。
全身を無防備にさらけ出している黒服四人すべてに弾丸が命中し、廊下に倒れた。
ポロッコが子どものように喜ぶ。
「やったぞ! 倒した!」
「映画みたいにか?」
チッポとハーゲイもはしゃいだ。
「それともゲームみたいに?」
最初に腕を斬り落とした黒服が立ち上がり、吠えた。
「てめーら、こんなことしてただで済むと──」
ナーナミが首をはねると静かになった。その服で刃についた血を拭う。
「馬鹿なことをしたな、おまえら……」
腕を失った黒服の一人が、哀れむようにポロッコたちに言った。
「正義の味方気取りか? 何もわかっちゃいねェくせに……」
「大人しく俺たちを外に出せ」
ポロッコが黒服に言う。
「ボスは死んだんだぞ。もうおまえらが従うものはないはずだ」
「つくづく馬鹿だな。おめでたい……」
黒服が笑う。
「ボスは生きてるぜ」
「影武者か」
首のないボスの遺体を振り返り、トールが言う。
「チッ……。ドジった!」
「いや、それは有難いことだな」
ポロッコは黒服の眉間に弾丸を食らわせ黙らせると、嬉しそうに笑った。
「ナーナミさんが一瞬で殺しちまって、スッキリしなかったところだ。ちょうどいい」
また廊下に靴音を鳴らして新たな黒服たちが駆けつけてくる。
「今度は俺っちの番だ!」
「正義の力を見せつけてやろうぜ!」
勇ましくそう言いながら廊下に飛び出したチッポとハーゲイが、一瞬で穴だらけになった。
「チッポ!」
「ハーゲイ!」
ポロッコとトールが声を揃えて叫ぶ。
新たな黒服たちはマシンガンを携えていた。
それを察してナーナミが廊下へ飛び出す。
人間の身体を蜂の巣にするマシンガンが三丁、派手に火を噴いた。
しかし黒服たちは飛び出してきたナーナミの姿を見失った。キョロキョロとそれを探している彼らの上から、天井板を蹴ってナーナミが降下してくる。
ナーナミの10本の爪が、一撃で三人の黒服を縦に割いた。
「チッポ!」
「ハーゲイ!」
二人の遺体にポロッコとトールが駆け寄り、涙する。
「畜生……! ひどいことをしやがって……。俺の仲間になんてことを……」
泣きながらポロッコは廊下の奥を睨むと、トールとナーナミに言った。
「進むぞ! 本物のボスを見つけて、自分のしたことを思い知らせてやるんだ!」
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黒服はすべて片付けた。
ナーナミの暗殺者としてのスキルと、自分たちを正義と信じるポロッコたちの気力がそれを実現させた。
「おい……わかっててやらせようとしたのか?」
本物のボスは物置き部屋に偽装したシェルターの中に隠れていた。ボスを壁に追い詰め、三人は返り血で真っ赤に染まった顔から冷たい目で見下ろす。
「た……、助けてくれ……!」
みっともなく命乞いをするボスに、ポロッコが言う。
「俺の妹が……今回の依頼のように汚され、そのあまりの心の傷の深さに自ら命を絶ったことを……。あんたは確か知ってたはずだよな?」
「ナーナミさんのことは知らなかったようだがな」
トールが後ろから言う。
「ナーナミさん自身も、同じように──」
「やめてください、トールさん」
思い出したくもない過去を振り払うように、ナーナミが首を振る。
「とにかく俺たちは──」
ポロッコが途中で拾った黒曜石のナイフをボスに見せつけながら、歯ぎしりをする。
「年端もいかない少女を下っ端に汚させるようなあんたを許さない。それが正義だ」
ボスの胸ぐらをポロッコが掴む。
ナイフで耳を削いだ。
「コイツは斬れ味抜群だな」
ボスの悲鳴を背に、感心してポロッコが声をあげる。
「それは私の爪よりもよく切れるわ」
後ろでナーナミが言った。
「そのナイフなら、生きたまま人体をバラバラにすることも容易です」
「やめてくれ!」
ボスの悲鳴にかえって興奮したように、ポロッコが笑いだす。
「鼻なんかも容易く切り落とせるかな?」
やってみると、いとも簡単にボスの鷲鼻は顔から剥がれ、ぺたんと音を立ててコンクリートの床に落ちた。ボスが豚のような声で泣き叫ぶ。
「ははは!」
トールが楽しそうに笑う。
「次は眼球をほじくり出してやれよ」
ポロッコがボスの閉じた目にナイフを突き刺し、それを抜くと、神経のついた眼球が、釣り上げられたイカか何かのようにナイフについて出てきた。
絶叫しながらのたうち回るボスを見下して、ポロッコとトールがニヤニヤと笑う。
「ナーナミさんも斬りなよ」
笑顔をポロッコが後ろの彼女に向ける。
「楽しいぞ? こんな楽しいこと、なかなかないぞ」
「私は……遠慮します」
ナーナミは背中を向けてしまった。
「私はただ──標的にされた罪のない女の子を助けたかっただけだから」
「じゃ、トールよ。二人で遊ぼうぜ」
「ああ、ポロッコ。こんな楽しいことは久しぶりだ」
黒曜石のナイフを二人で使い回し、生きたままの解体ショーはペースを早めていった。二人に少しずつ身体を切り取られ、完全にバラバラになる直前まで、ボスは生きていた。
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二日後──
三人はそれまでシェアして住んでいたアパートの部屋を引き払い、ホテルを変えながら逃げていた。
ボスは最高幹部であり、マフィアは壊滅していた。息子は一人いるが勘当されていて一般人だ。追手が来ることはなく、危険はないはずだが、どこのどんな繋がりで殺し屋が差し向けられるかわからない。念のために街の中に身を隠していた。
「楽しかったな、ポロッコ」
ソファーに寝そべりながら、トールが言う。
「あんなに興奮したことはなかったぜ。またやりたいな」
「あれからメシがうまくってな」
デリバリーの中華料理を口に運びながら、ポロッコが言う。
「世界中の全妹のカタキをとった気分だよ」
「ところで俺たちが救った少女の名前を知ってるか?」
「救った? 上院議員の娘の小学生か?」
「ネットで検索して知ったんだが、アーニャっていうらしい」
「アーニャか……。かわいい名前だ」
ピンク色のショートボブに黒いツノのような髪飾りをつけた目のおおきな幼女の姿が二人の頭に浮かんだ。
「俺たちが助けた少女……。どんな子が、見てみたいな」
トールの言葉に、ポロッコはすぐに提案した。
「会いに行ってみないか?」
びっくりした視線を向けるトールに、ポロッコが続ける。
「ただどんな子なのか、見に行くだけだ。いいだろ? どうせ俺たち暇なんだし」
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個人情報はボスから受け取った指令の中に書いてあった。
シーココ小学校の四年生──
学校帰りには送迎の車を嫌い、ココミック・ストリートを友達と歩いて帰るのが通常という話だ。
写真はあの日、ボスから直接見せられる予定だったので顔は知らないが、ピンクブロンドのショートボブに低身長で130センチそこそこ──。ピンクブロンドの髪なんて滅多にいないので探すのは容易だった。
「来た」
「あれじゃないか?」
停めた車の中から目星をつけた。
だんだん近づいてくる少女を見ながら、二人の声がうろたえはじめる。
「あ……、あれなのか?」
「う……。あれなんだろうな」
友達二人に挟まれてこちらに歩いてくるのは、小学生とは思えないほどに高慢ちきそうな、まるで金持ちのオバサンのような女の子だった。二人の友達は『取り巻き』といった感じで、あからさまに真ん中の子をヨイショしている。
「想像とだいぶん違うな……」
「ま、まぁ……。話してみればいい子かもしれん。行こう」
車を降りると、二人はニコニコしながら上院議員の娘『アーニャ・シナコラ嬢』に近づいていった。
「こんにちは」
手を上げてにこやかに、ポロッコが話しかけた。
「君……アーニャ・シナコラさんだよね?」
「何? あんたら」
両脇の『友達』が、まるでボディーガードのように立ち塞がった。
「さては殺し屋!? それとも人さらい!?」
つい昨日までは本当にそうなるはずだった自分たちのことを思い、苦笑しながらポロッコは弁解した。
「いや、ただアーニャちゃんが元気な姿を見られればそれでいいんだ。よかった、元気で」
「ははーん……」
二人に守られながら、アーニャが意地悪な笑いを浮かべた。
「オッサンたち、お父様のお金が目当てね? それとも権力? よくいるのよね、『将を射んと欲すればまず馬を射よ』みたいに考えるのか、あたしと仲良くなろうと近づいてくるオッサンがね。残念ながらあたしは女王様よ。あんたたちみたいな庶民のバカどもと仲良くなる気はないわ」
「いや、べつに……」
アーニャが唾を吐きかけてきた。
ポロッコの靴にそれがかかった。
「この世のすべてのものはお父様のもの」
低身長の小学生が上から目線で言った。
「お父様のものはお母様とあたしのもの! 汚らしい庶民にくれてやれるものは何ひとつないわ。シッ! シッ!」
「おい、貴様ら」
いつの間にか後ろにいた大男が二人、ポロッコを睨みつけていた。
「お嬢様に近づくな、始末するぞ」
呆然とした顔で、ポロッコとトールは少女の背中を見送った。
「俺たち……あれを助けるために、あんなことをしたのか……」
「なんかバカみたいだよな……」
ポロッコの脳裏に妹のチョンチョンの顔が浮かぶ。少女らしく可憐で弱々しい自分の妹が、汚されて自ら命を絶った時と、アーニャ・シナコラは同い年だった。
しかし二人の少女には重なるところがまったくなかった。
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ポロッコとトールはホテルの部屋で暇を持て余していた。
金はボスのところで奪ったので、たんまりとある。悪人の金を奪うことは犯罪ではない、悪ではないと、勝手な言い訳を自分たちに言い聞かせていた。
仕事をしなくても当分暮らしていける。
しかし暇だった。
あの日の興奮が頭に焼き付いて残っている。
人殺しがしたいわけではない。ただ、自分を正義として誇り、悪い人間を罰することの、あの快感が忘れられなかった。
「なぁ、トール」
「なんだ? ポロッコ」
「昨日のあの小学生、殺してーよな」
「まぁ……な。でも……」
「ポロッコ! トール!」
そこへナーナミが飛び込んできた。
「大変よ! ボスが標的にしていたシナコラ上院議員だけど……」
ポロッコとトールが揃って呆けた顔を向ける。ナーナミは続けて報告した。
「この国を隣国に売り渡そうとしてるらしいの! ほっといたら隣国の兵が大挙して入って来て、あっという間に占領されてしまうわ! シナコラ上院議員がその手引きをしてる!」
「なんだって?」
「どうしてボスはそんな大事なことを伝えてくれなかったんだ」
大変なことを聞いたようにそう言いながら、二人の顔は嬉しそうに笑っていた。




