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――この国では殺人は罪である。
全ての人間は尊ぶべきもの。故に尊ぶべき”者”は人間である。
ならば――
ヘレネス拘置所。世界有数の犯罪者が集まるところ。
まだ刑が確定していない奴らしか居ない様に見られるが、実際には例外が存在する。
拘置所の最奥。絶対に抜け出せない場所に隔離されている極悪人。
現実で在り得ない超常現象を引き起こす力を秘めている要危険人物。
実刑を受けていないだけの、『死待人』。
そう呼ばれる人間を呼称したものがこの拘置所にはいる。
実際、死待人は何処の拘置所にも居る。
だが先述の通り、ここは世界有数の犯罪者が集う場所。
ここには四人。世界単位で見ても中々見ない化物が居る。
「……あ、今日も来たんだ。オツカレサマ、であってるっけ?」
「……仲良く話す義理は無い。アンタは犯罪者で私は見張。その関係を――」
ここには二人。化物と執行人が居る。
女の名は『理晴』。専属執行人として、男を殺すために居る。
男に名前は無い。だが『無死の道化』と呼ばれ恐れられる人間が女の目の前に居る。
しかし、今回の女は執行人としてきたのでは無い様だった。
「いえ、今回は貴方に伝えたいことがあります。」
そういい彼女は寝転がる男の前に立ち、見下す。
男は珍しかったのか、目を見開いている。
「……へぇ!珍しいこともあるんだねぇ……明日は槍が空から落ちてきそうだ。」
「ここは天井があるのですから、気にしなくとも良いでしょう。」
溜息を零す女。しかし動きは止まらず、服からとある紙を取り出した。
そして、男の顔に投げつけた。
「『無死の道化』。私と死になさい。」
「……はぁ?」
余りに突飛な発言が故、首を傾げ眉を寄せる男。
「自殺の誘いか?悪いが心中は僕の好みじゃない。」
「私だってやりたくて誘っている訳じゃないんです。しかし『無死の――」
「ムノでいい。変な略称だが言い易いからね。」
「……ムノ、貴方の願いでもあったでしょう?『死にたい』と言う願いは。初めてそれを聞いたときは正気を疑いましたよ。」
自身をムノと名乗るように促した男は何かを憂う目をした後、流れるように女の目を見る。その目は漆黒色に濁っていた。
その目に少し足が竦んでしまう。一息吐いて、男を見つめる。
「だが、それとこれとは話が違うじゃないか。『一人で逝きたい』、そうも告げた筈だが?」
「ですので、この選択を提示したのです。よくその紙を見てください。」
そう言われた男は紙を見る。そして目を見開く。
「もう一度言います。ムノ。私と公開処刑に参加し、私と共に死になさい。」
言葉に偽りは、無い。
それは二人だけの空間に木霊し、男の耳を震わせるだけに留めておくにはあまりにも惜しいものだった。
その響きはとても甘美で、狂気に満ちていて。
男を悦ばせるには十分なものだったからだ。
「――良いね。そういうの、ダイスキだ。」
そうして立ち上がる男。身長の差により女の胸元程から見上げる男の姿を未だ見下す女。
男にとって、久々の滾りだった。
「ムノ……アンタ黙っていたら意外と顔良いんですね?」
「そういうのはダイキライだ。さっさと場所に案内してほしい。」
既に拘束具を外している男に少し苛立ちを覚える女だったが、直ぐに頭を振るい表情を戻す。
女と男には奇妙な関係が出来ているようだ。
「では、行きましょうか。ここからかなり遠くの場所にあります。しかし罪人のアンタには場所を伝える訳にはいかないらしい。だから、コレを付ける。」
そう言う女の手元には一つの目隠しがあった。男はあからさまに嫌そうな顔をする。
「うぇ……それホントに必要なの?」
「必要です。ムノには私が何に見えてるのか……」
「鬼」
「今ここで殺しますよ?」
「殺せない癖に。」
「……黙ってください。」
長年の付き合いかのような掛け合いをする二人。今から協力して死にに行くというのには最適なのかもしれないが。
そんな他愛も無い会話をしながらも目を隠され、移動を行う。ただし男の口は目を隠されたところで止まるわけではない。
永遠とも思える間、男の会話を聞き続けていた女の顔は時が経つにつれて引き攣っていった。
そして、日が落ちる時間になって、ようやくその場所に着く。
その場所には大勢の人間が居た。その内の半分は犯罪者だと思うと、背筋に寒気が走るような感覚がする。
隣で顔を隠している男はそんな事すら感じさせず、寧ろ欠伸をして完全に気が抜けている。
そんな彼にずっと嫌悪感を抱いている。
そして、時間が来る。
其処には十三人の犯罪者とその専属執行人十四人。
――一人多いが、誤差である。
しかし腕は自由である。死待人である男と同じく死待人であろう男以外の話だが。
目隠しを外され、多くの罪人の顔が周囲に晒される。
ニュースにもなった人間も、執行人の中でしか知らないマイナーな人間も居た。
――どれも死ぬべき極悪人には変わりないけれど。
そんなことを思っている女だったが、今隣で気だるげにしている男の事を思い出し、溜息を吐く。
「さて、ここに居る人間で全部か?」
何処かから声が聞こえる。その部屋に響く低い男の声は、先程まで騒いでいた罪人たちの耳にも届いた。
ここに居るすべての人間を下に見ている事がわかる高圧的な態度に眉を寄せる。
「貴様たちには予告通り公開処刑を行う。ルールなぞ存在しない。この国から離れた無人島で争い、残ったものの願いを叶える。そんなゲームだ。」
願いを叶える。殆どの罪人はその言葉に心を躍らせるが、死待人の二人だけは喜んでいなかった。
そして、次の声で場所が静まり返る。
「執行人のお前らも含んだ物だ。高を括るなよ?」
しん、と静まる。衝撃的な言葉だが、死待人の二人はやはりな、という表情をしていた。
「はっ話が違います!俺たちは――」
一人の男が声に対し抗議する。しかし、そこに女が割って入る。
「待ちなさい。今ここで争っても何も生まない。無人島に移動し、勝利した後にでも望めばいいじゃない。」
「そんなに待っていられるか!」
取り乱した男が拳を振りかざす。しかし、女は目を瞑る。
瞬間、男の首と胴体が分かれていた。
音が戻る。血が噴き出る音が響く。
「どうせ罪人……死亡しても問題は無いでしょう?」
「……フフ、その通りだ。わかっているではないか。では移動を始め――」
「待て。」
そして、死待人の『無死の道化』が声を挙げる。
その目は酷く冷酷なモノになっていた。
「その無人島に、お前は来るのか?」
「無論、儂は行かないぞ?その死待人の意見は無視して移動を開始するぞ?」
空間が黒く染まる。殆どの人間が意識を落とす中、『無死の道化』だけは一つの場所を睨んでいた。
そして、暗闇が明ける瞬間に手を前に突き出す。
そこは森に囲まれている、浜辺だった。
執行人の女が目を覚ます。そして目の前で起きていることに目を見張る。
『無死の道化』が、声の主である年老いた男の首を掴んでいたからだ。
「お前……死待人だな?」
「……はっ!言って何にな――」
『無死の道化』は首を掴んでいる手の力を籠める。
老いた男はその手を剝がそうと藻掻く。しかし、圧倒的な力の差に負けている様だった。
「き、貴様……!死待人は人にして神だぞ!神に楯突くとはなんと愚かな――」
老人は必死に命乞いをする。力では勝てないと分かったからか、とても惨めで滑稽で面白い。
目だけを動かして死待人は女を見る。
「――確か、人は殺しちゃいけないんだっけ?」
「え、えぇ……そう。尊ぶ者、だから――」
「人じゃないなら、良いよね?」
死待人の男の目が赤く光る。
老人の体は中から何かが蠢いて、爆散した。
一部始終を見ていた女の顔が目を見開いた状態で固定されていた。
「……どうした?」
「――ハッ!?い、いえ……別に……」
(何故だか目が離せなかった……何故私はここまで、ドキドキしているんだ?初めて死体を見たから?いや、そんなことは無い。既に何度も見ている。では……好機?)
そんなことない、と女は首を振って邪な感情を振り払う。
「……?なら良いけど……」
男は興味無さそうに老人の亡骸を頭を持って目線に合わせる。
そして頭を手放し、心臓のあたりを一突き。
不気味な笑みを浮かべる『無死の道化』は老人の肉体から手を抜く。
男の手に握られてあったのは一つの球だった。不思議な光を放つ球体だ。
それを上に掲げて。
「あーんっと。」
「……!?」
食べた。
女にとって、その行為は初めて見るもので、驚愕と恐怖が体を駆け巡る。
しかしそれと同時に謎の高揚感も感じている。
「……あまり知られていないが、死待人には核がある。それを摂取すれば死んだ死待人の力を得れる。」
「……な、な?」
あまりの事実に頭が理解できていない。
動きも止まってしまっている。
「と!というか、主催者が居なくなったらこのゲームは無くなるのでは!?」
「あからさまに話題をずらしたな?因みに今のこの男はげーむますたー?とやらではない。所謂影武者のような者だ。」
「だから、まだこの遊戯は続いている。一先ず仮拠点から作ろう。」
次々に襲い掛かる情報の数に圧し潰されそうになっている。
果たして、私はこの人と一緒に罪人と対峙していけるのか?と疑問に思っているのが目に見えてわかるほど狼狽している。
「ハァ……やるしかない、か……」
「?端からそうだろ。何言ってんだか。」
やはり、執行人は化物と気が合わないらしい。
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