7話:STES総長あらわる!!そしてイナバの憂鬱!?
ミタマはハッと声に驚いた。
身体のスイッチを押す。
せまくるしい部屋の中心に、デカデカと半透明の大画面が現れた。
2m×2mほどの大きさの画面。
その画面には宇宙人の立ち姿がこれまたデカデカと表示されている。
全体的な形は人型だけど銀色の肌。
目は大きく、白目の部分がなくて真っ黒。
鼻は潰れたように短い。
まるで『グレイ』のような、絵に書いたような宇宙人の顔。
しかしその顔以外はムッキムキだ。
首の横幅が頭より広い。
そんな奴が、腕組みをして堂々と立っていた。
「総長!!」
ミタマが叫んだ。
浮遊をやめ、片膝をついて片手を床に置く。
まるで忍者みたいに。
「ミタマ、元気か?」
「はいもちろん!怪獣駆除、滞りなくやれるものと!」
「ハッハッハ!相変わらず固いなあ」
総長?
ということは……。
「キミが新任のパイロットさんかね?ワタシはSTES総長、『ジンギ』!挨拶が遅れてすまなかったな!こちらも多忙の身でね!」
画面の中のマッチョグレイ……ジンギがこちらを見て挨拶した。
ニカッと笑っている。
口からのぞく、綺麗~に並んだ歯と銀色の歯茎。
正直、だいぶキモい。
「あ、初めまして、ザクロと申します……」
キモいが、それをすぐ態度に出すほどの度胸は、私にはない。
「フゥーム!大人しそうな地球人だな!ミタマ!彼女はやれそうか!?熱血してるか!?」
「……今はまだなんとも……未知数です!ですがテラス因子の基礎生成量は非常に多く、テラス検索機に間違いはないかと!」
「そうかそうか!まあ1匹目は駆除できたわけだしな!今後に期待しよう!」
『熱血』を動詞として使う時点でこいつの性格は見えた。
ミタマの同類。
いや、『教育者』なのかもしれない。
「もし問題があれば調査部のルーグスを派遣するつもりだったのだが……いやしかしアイツはなあ」
「総長、そういう言い方は……その……」
「んー?」
「あ、いえ……」
微妙な空気が流れているのは私にも分かる。
人間関係のイザコザは宇宙でも変わりないようだ。
「イナバから見た印象ではどうだ?支障なく遂行できそうか?」
総長は話題を変えようとしてか、パッと表情を変えてイナバに話題を振った。
「現状は順調とは言えません、しかしザク……パイロットの彼女のテラス因子生成量は、決して無視できない数値です。もし好転すれば今後の問題を円滑に解決できる力として期待が持てます」
驚いた。
イナバは今まで明るくて子供っぽい態度だったのに。
急に真面目で冷静そうな口調で喋り出したのだ。
いや、冷静というより、感情を殺しているかのようにすら感じる。
「相変わらず上司の前だとお堅いのねえ?イナバくぅん?」
私の思考が、妙に色気のある声に止められた。
総長が右を向くと、その方向から別の宇宙人が画面に横入りしてきた。
この宇宙人も人型に近い。
青っぽい肌。
ギラッとしたボリュームある金髪。
スラッとした手足。
ボボン!キュッ!バゴーン!ってカンジの乳、ウエスト、尻。
うーん、セクシーキャラ。
しかしながら身長は低い。
150㎝あるかどうかというほどだ。
低身長なのに身体は成熟しきってる。
ジンギ総長が190㎝はありそうなので、対比で余計に小さく見える。
そのセクシーダイナマイトミニマム宇宙人が、イナバに視線を向けて喋り出す。
「もっとミタマの時みたいに接してくれていいのに〜」
喋り方もセクシーキャラだ。
「……新任パイロットがいますので、自己紹介をしてもらってもよろしいでしょうか」
イナバくんの声色は、提案とは真逆にどんどん堅く重くなっている。
「あら、ホント。ごめんなさいねェ〜!」
軽いキャラしてるなあ。
私と、画面の向こうの総長が、口をとがらせて眉を軽くひそめる。
「アタシはヒルメノ。STES兵器開発部長。よろしくね」
兵器開発部なんてあるのか。
ミタマが彼女?の紹介をする。
「タカマガモリの設計担当でもあり、イナバくんを作ったのも彼女だ。兵器工学もプログラミングもできる多才な天才だよ」
「えっ、ということはイナバの……親?」
私はつい疑問を口に出していた。
視界の端にいたイナバがピクッと動く。
しかしすぐ下を向き、黙ってうつむいている。
「そうなのよお、なのにイナバくんたらいつも態度が硬くって。子育てって難しいわあ」
『子育て』?
どうもAIに対する扱いが過剰というか……。
「んん!もういいかな、ヒルメノ部長」
総長が咳払いをして存在をアピールし、話を流す。
「あらぁ、ごめんなさいね総長。やっぱり子供の事はどうしても気になっちゃって」
その言葉に今度はミタマと総長が大きくため息して反応する。
……?
「んん、総長、出現地点ですが」
ミタマが咳払いして話を切り出す。
「おう、報告してくれ」
「出現地点は前回の接触地点、つまり東京都内になります」
また都内か……。
いや、隕石が落ちたのが都内なんだから当然か。
んん?でもそれだったら出現地点の話なんてわざわざするか?
んんんん?分からなくなってきた。
「予想日時は現地時間で4日後の12時頃かと」
よっかご!
タイムリミットを聞いてしまった。
時間まで何をすればいいか。
早いのか遅いのか。
こわばってる身体とは裏腹に、心は浮き足立つ。
視線が左右にぶれる。
「4日後……」
隣のイナバくんもその言葉を聞き、眉間にシワができた。
……うん?
「ザクロさん……いや、ザクロ。キミは慌てなくていい」
「総長……」
総長の言葉に、どことなく安心感が湧いてきた。
「熱血と運動と健康!それさえ欠かさなければ勝てるッ!!」
前言撤回。
難易度高すぎる。
「自衛隊と言ったか。あちらさんにも連絡を欠かさずにな」
「「はいっ」」
「お前達も大変だろうが、現星人との接触、干渉は極力避けるようにな。お互いのために」
現星人……現地人みたいな意味合いか。
「「はいっ」」
イナバとミタマがそろって返事をした。
イナバは若干の焦りが見える……が。
ミタマは特に動揺する様子もなく淡々と礼している。
流石に戦い慣れてるんだなあ、私と違って。
「では、監査と通告は以上だ。お前達の根性に期待する!ではな!」
「バ〜イ♪イナバくん、タカマガモリのメンテナンスは忘れずにね~」
そう言ってジンギ総長とヒルメノ部長が手を振る。
イナバくんは淡々と返事をした。
「分かっています、STESの命令ですから」
画面はプツリと消えた。
急に静かになる狭い室内。
私はふにゃふにゃと腰を落として仰向けに倒れる。
ほとんど喋ってないはずなのに、全身がガチガチになっていた。
いや、しょうがない。
総長相手に失礼こいて地球が見捨てられでもしたら?
ヒーローどころか大戦犯!
と、今になって自分の置かれてた状況を再確認し、安堵感でいっぱいになる。
ハア~とため息が漏れてしまう。
しかしイナバは、私以上に大きなため息をついている。
心労と安堵の入り混じった、複雑な音色のため息。
「イナバくん……大丈夫か?」
「ん?だ、だいじょぶだよぉ」
「そうか?それならいいが」
……。




