5話:勝利!?そして彼女はロボットに乗る!!
怪獣だったものは、ドドウと地面に転がり落ち、巨大な怪獣は巨大な肉塊になった。
サイレンや救助ヘリ、車の走る音が鳴っていたかもしれないけど、私には何も聞こえない。
ただ心臓の跳ねる音だけが頭に響いていた。
一拍置いて、宇宙人とAIが歓喜する。
「やっ……やったーー!!」
「我々の勝利だ!!」
……。
「イナバ、本当に倒した?援軍とかはいない?地中は?」
「えっ、あっ、う、うん。索敵はしてるよ。大丈夫」
それを聞いて、大きく息を吐き、やっと身体の力が抜けた。
私は操作用の機械から手足を引っこ抜き、仰向けになってなるべく楽な姿勢になる。
うう、気分が悪い……。
例えるなら、小学校の頃、車酔いと眠気の同時攻撃に苦しみつづけた遠足のような……。
「ザクちゃん!大丈夫?」
イナバが心配そうな声で呼びかける。
「ザクちゃんって呼ぶな……」
うめくように、息を吐きながら私は返事した。
「それにしても、ためらい無く黒点を撃ちまくったねえ」
「問題ないんでしょ?テラスなんちゃらが見たことない数字だとか言ってたし」
「あ、ちゃんと聞いてたんだ……」
「索敵の心配といい、意外に冷静なのかもしれん……」
「私はいつでも冷静だこの野郎!!ぶち殺すぞ!!」
「やっぱダメかもしれん」
と、ミタマも息を吐き、緊張を解いた。
「よくやってくれた、ザクロ。正直ここまでやるとは思わなかった。覚醒してからは、我々の補助など必要ないくらいの活躍だった……こんな新人パイロットは初めてだよ」
「テラス因子の供給量もすごかったしね!」
「うむ、まさに『選ばれしヒーロー』だった」
ミタマの奴が何かほざいている。
……ヒーロー……か……。
「キミの可能性、凶暴さの裏に秘める冷静さ、ここで手放すには勿体ない人材だ。これからも是非、我々と共に戦ってくれないだろうか」
「???もう、怪獣退治は終わったでしょ……」
「?あ、いや、そうか、ザクロは知らないんだったな」
「えっとね、怪獣の卵は1つの隕石に複数付着してるんだ」
なんだと……。
「そして奴らは精神感応を使って『怪獣の敵』の情報を共有しながら成長し、対策や知能をアップデートしていく」
「つまり、次の怪獣はもっと強くなるってこと……?」
「そういうことだ。だからこそ、こちらも強力なパイロットを早急に確保しなくてはならないんだ。ザクロ!君の魂を、我々に預けてほしい!!」
ミタマが熱く語り、手を差し出してくる。
私は上体を起こし、深くため息をついた。
怪獣、生活、妹、立派な人生……様々な悩みが私の中でグルグルしているけど、まずやるべき事は決めていた。
腰をしっかりヒネり、相手を見て、足先から拳まで力を流すように振って──殴る!!!
ミタマのボディを思い切りぶん殴ると、案外軽いボディが壁まで吹っ飛び、ガシャンと音を立ててぶつかった。
「ミ、ミタマ!!ザクちゃん、何すんの!」
私はイナバの声に返答せず、自分の手をさする。
やっぱ硬くて痛い。
「だいじょうぶ!?ミタマ!」
「いや!……いや、心配してくれるなイナバくん」
ミタマは駆け寄るイナバに手のひらをかざして、止める。
そして自分の足で起き上がり、関節の動きを確認しながら語る。
「……勇気や根性や熱血という正の感情を発露できないなら、いっそ負の感情を爆発させる……俺の読みは正しかった、とはいえ俺が暴力を振るったのは事実だ。それに、こちらの伝達に不足があった責任もある」
……ふうん。
「謝罪が後になってすまなかった。イナバくん、彼女を降ろしてやってくれ」
「う、うん」
ロボット……タカマガモリがを帰す準備をしているのか、片膝を落として座る。
私は確認をとるために、宇宙人らに聞いた。
「……私がパイロット続けた方がいいと思う?」
「ん、あ、ああ。それはそうだとも。君ほどのテラス因子生成量をもつ地球人はレアだ。少なくともこの国には君しかいないだろう」
「詳しくは知らないけどさ、国外の人に日本を守る仕事させるのは、外交が色々面倒くさくなっちゃわない?僕らはなるべく平和裏に、地球に影響を及ぼさずに戦いを終わらせたいんだ」
「……なるほど」
「それに、新しい人を探すのも時間がかかるしね。その間に怪獣が現れない保証もなし」
「そういうわけだ。キミが続けてくれるのがベストなんだ」
「めんどくさい病気持ちでも?」
「む……それは……」
「ボクらでしっかりサポートしてあげるよ!それくらいザクちゃんのパワーはスゴかったもの!あのパワーがあれば、これからの勝利を確実なものにできるハズ!」
急にイナバが、パッと明るい顔で語りだした。
「……そっか」
私は目を閉じ、ゆっくりと1呼吸した。
「もし私が怪獣やっつけたら、ヒーローだよね」
「もっちろん!」
イナバがぴょんぴょんと空中を跳ねる。
「ヒーローになったら、来世でも怠けられるくらい立派な人生って言えるよね」
「ライセ?」
ミタマが首をかしげた。
「まあ、立派な奴とは呼ばれるだろうな」
「……そっか」
立派な人間になりたかった。
沢山の人から賞賛を受ける自分を夢見ていた。
これは、最後にして最大の賭けなのかもしれない。
鬱病無職陰気女から、世界のヒーローになれる、賭け。
「……やるよ。私、パイロット、やる」
「ほんとに!?」
「後悔するなよ?」
そっちから誘っておいて、後悔するなよ、とは。
何を言ってんだコイツは。
「私に期待しないでよ。ホントに」
「ああ、わかったわかった……っくぅ~~!喧嘩の後の熱い友情!いいなあーこういうの!」
ホントになんだこいつ。
私がいつ友情を交わしたって言うんだ。
「改めてよろしくねザクちゃん!ボクの事はイナバ『くん』って呼んでね!色々頼ってくれていいからね!ね!」
よく言うわ、さっきピンチの時ピーピーわめいてたくせに。
「ああっ、こんな変な奴らと組んでヒーローになれるのかなあ~!?」
私は言われたそばから後悔し始めていた。
「一番変なのはザクロだと思うが」
「ミタマ!シーッ!シーッ!!」
こうして私、土壇川原 柘榴と宇宙人ミタマ、AIのイナバが乗るスーパーロボット『タカマガモリ』の闘いが始まった。
怪獣を全員倒して、めざせ地球のヒーロー!
誰がどう見ても立派な私になるために!
けど今日はムリ。
つかれた。
愛する家のお布団に帰り、腐った味噌汁のようにドロッと溶けて寝た私なのであった。
これにて序章は終わり。
しかし連載は続きます。
ザクロはどんな怪獣と戦い、どんな奴らと出会うのか?
そしてタカマガモリの必殺技とは?
ぜひこれからも引き続き応援ください。




