表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

5話:勝利!?そして彼女はロボットに乗る!!

 怪獣だったものは、ドドウと地面に転がり落ち、巨大な怪獣は巨大な肉塊になった。

 サイレンや救助ヘリ、車の走る音が鳴っていたかもしれないけど、私には何も聞こえない。

 ただ心臓の跳ねる音だけが頭に響いていた。


 一拍置いて、宇宙人とAIが歓喜する。


「やっ……やったーー!!」


「我々の勝利だ!!」


 ……。


「イナバ、本当に倒した?援軍とかはいない?地中は?」


「えっ、あっ、う、うん。索敵(さくてき)はしてるよ。大丈夫」


 それを聞いて、大きく息を吐き、やっと身体の力が抜けた。

 私は操作用の機械から手足を引っこ抜き、仰向(あおむ)けになってなるべく楽な姿勢になる。

 うう、気分が悪い……。

 例えるなら、小学校の頃、車酔いと眠気の同時攻撃に苦しみつづけた遠足のような……。


「ザクちゃん!大丈夫?」


 イナバが心配そうな声で呼びかける。


「ザクちゃんって呼ぶな……」


 うめくように、息を吐きながら私は返事した。


「それにしても、ためらい無く黒点(ブラックポイント)を撃ちまくったねえ」


「問題ないんでしょ?テラスなんちゃらが見たことない数字だとか言ってたし」


「あ、ちゃんと聞いてたんだ……」


「索敵の心配といい、意外に冷静なのかもしれん……」


「私はいつでも冷静だこの野郎!!ぶち殺すぞ!!」


「やっぱダメかもしれん」



 と、ミタマも息を吐き、緊張を解いた。


「よくやってくれた、ザクロ。正直ここまでやるとは思わなかった。覚醒してからは、我々の補助など必要ないくらいの活躍だった……こんな新人パイロットは初めてだよ」


「テラス因子(ファクター)の供給量もすごかったしね!」


「うむ、まさに『選ばれしヒーロー』だった」


 ミタマの奴が何かほざいている。

 ……ヒーロー……か……。


「キミの可能性、凶暴さの裏に秘める冷静さ、ここで手放すには勿体ない人材だ。これからも是非、我々と共に戦ってくれないだろうか」


「???もう、怪獣退治は終わったでしょ……」


「?あ、いや、そうか、ザクロは知らないんだったな」


「えっとね、怪獣の卵は1つの隕石に複数付着してるんだ」


 なんだと……。


「そして奴らは精神感応(テレパシー)を使って『怪獣の敵(ボクたち)』の情報を共有しながら成長し、対策や知能をアップデートしていく」


「つまり、次の怪獣はもっと強くなるってこと……?」


「そういうことだ。だからこそ、こちらも強力なパイロットを早急に確保しなくてはならないんだ。ザクロ!君の魂を、我々に預けてほしい!!」


 ミタマが熱く語り、手を差し出してくる。


 私は上体(じょうたい)を起こし、深くため息をついた。


 怪獣、生活、妹、立派な人生……様々な悩みが私の中でグルグルしているけど、まずやるべき事は決めていた。


 腰をしっかりヒネり、相手を見て、足先から拳まで力を流すように振って──殴る!!!


 ミタマのボディを思い切りぶん殴ると、案外軽いボディが壁まで吹っ飛び、ガシャンと音を立ててぶつかった。


「ミ、ミタマ!!ザクちゃん、何すんの!」


 私はイナバの声に返答せず、自分の手をさする。

 やっぱ硬くて痛い。


「だいじょうぶ!?ミタマ!」


「いや!……いや、心配してくれるなイナバくん」


 ミタマは駆け寄るイナバに手のひらをかざして、止める。

 そして自分の足で起き上がり、関節の動きを確認しながら語る。


「……勇気や根性や熱血という正の感情を発露(はつろ)できないなら、いっそ負の感情を爆発させる……俺の読みは正しかった、とはいえ俺が暴力を振るったのは事実だ。それに、こちらの伝達に不足があった責任もある」


 ……ふうん。


「謝罪が後になってすまなかった。イナバくん、彼女を降ろしてやってくれ」


「う、うん」


 ロボット……タカマガモリがを帰す準備をしているのか、片膝を落として座る。

 私は確認をとるために、宇宙人らに聞いた。


「……私がパイロット続けた方がいいと思う?」


「ん、あ、ああ。それはそうだとも。君ほどのテラス因子(ファクター)生成量をもつ地球人はレアだ。少なくともこの国には君しかいないだろう」


「詳しくは知らないけどさ、国外の人に日本(この国)を守る仕事させるのは、外交が色々面倒くさくなっちゃわない?僕らはなるべく平和裏に、地球に影響を及ぼさずに戦いを終わらせたいんだ」


「……なるほど」


「それに、新しい人を探すのも時間がかかるしね。その間に怪獣が現れない保証もなし」


「そういうわけだ。キミが続けてくれるのがベストなんだ」


「めんどくさい病気持ちでも?」


「む……それは……」


「ボクらでしっかりサポートしてあげるよ!それくらいザクちゃんのパワーはスゴかったもの!あのパワーがあれば、これからの勝利を確実なものにできるハズ!」


 急にイナバが、パッと明るい顔で語りだした。


「……そっか」



 私は目を閉じ、ゆっくりと1呼吸した。



「もし私が怪獣やっつけたら、ヒーローだよね」


「もっちろん!」


 イナバがぴょんぴょんと空中を跳ねる。


「ヒーローになったら、来世でも怠けられるくらい立派な人生って言えるよね」


「ライセ?」


 ミタマが首をかしげた。


「まあ、立派な奴とは呼ばれるだろうな」


「……そっか」



 立派な人間になりたかった。

 沢山の人から賞賛を受ける自分を夢見ていた。


 これは、最後にして最大の賭け(チャンス)なのかもしれない。


 鬱病無職陰気女から、世界のヒーローになれる、賭け。


「……やるよ。私、パイロット、やる」


「ほんとに!?」


「後悔するなよ?」


 そっちから誘っておいて、後悔するなよ、とは。

 何を言ってんだコイツは。


「私に期待しないでよ。ホントに」


「ああ、わかったわかった……っくぅ~~!喧嘩の後の熱い友情!いいなあーこういうの!」


 ホントになんだこいつ。

 私がいつ友情を交わしたって言うんだ。


「改めてよろしくねザクちゃん!ボクの事はイナバ『くん』って呼んでね!色々頼ってくれていいからね!ね!」


 よく言うわ、さっきピンチの時ピーピーわめいてたくせに。



「ああっ、こんな変な奴らと組んでヒーローになれるのかなあ~!?」


 私は言われたそばから後悔し始めていた。


「一番変なのはザクロだと思うが」


「ミタマ!シーッ!シーッ!!」



 こうして私、土壇川原(どたんがはら) 柘榴(ざくろ)と宇宙人ミタマ、AIのイナバが乗るスーパーロボット『タカマガモリ』の闘いが始まった。


 怪獣を全員倒して、めざせ地球のヒーロー!

 誰がどう見ても立派な私になるために!



 けど今日はムリ。

 つかれた。


 愛する家のお布団に帰り、腐った味噌汁のようにドロッと溶けて寝た私なのであった。


これにて序章は終わり。

しかし連載は続きます。

ザクロはどんな怪獣と戦い、どんな奴らと出会うのか?

そしてタカマガモリの必殺技とは?

ぜひこれからも引き続き応援ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ